第3章 02

暫し後。ターさんの家の前に船首を並べて泊まっている2隻の船。

家の玄関前では皆がバーベキューの準備をしている。

コンテナをテーブル代わりに中央に置き、その上にテーブルクロス代わりのブルーシートをかける。それを囲むように折り畳み椅子や椅子代わりの小さなコンテナや木箱を置き、そこから少し離れた所にバーベキューコンロを二台置いて、透とターさんがコンロに火を点ける作業中。

ターさん、火を点けながら「こんなに大人数のバーベキューは久々だなぁ。前にカルナギさん達とやって以来だ。…しかし君達ホント突然来るよね、いつもビックリする。」

透「なにせ突然決めたからさ。カルセドニーの予定は大体分かってるからアンバーが合わせればいいし。」

ターさん「元々、護君が来たのもカルさんが来たのも全部突然という!」

透「ああー!」

ターさん「突然何かが来るのはもう慣れた!さて火が点いたぞ何を焼くんだ。」


ターさんの家のキッチンでは女性たちが料理をしている。その脇でカルロスが石茶ポットに石茶を準備中。

そんな一同の周囲を妖精がポコポコと跳ね回る。

マリア、野菜を切りつつ妖精を見て「いいな、いつもこんな可愛いのと一緒に暮らせて。」

カルロス「…そいつら、たまに野菜持っていくからな。」

マリア「え。」とカルロスの方を見る。

カルロス「後ろのテーブルに食材置いて料理してるとニンジンとか持っていかれる。」

マリア「ええ!」

隣でシチューの鍋をかき混ぜていたアキも「どこに持っていくの?」

カルロス「単に邪魔したいだけだ。すぐ返してくれる時もあれば庭まで逃亡する事も。」

アキ「大変ねぇ」と笑う

そこへリビングの窓から「火が点いたから焼くものー!」という透の声が。

アキ「はーい!」


一方、カルセドニーの機関室ではアンバーの二等機関士のシナモンも加わってエンジン整備の作業中。

駿河と剣菱は貨物室側の、機関室への出入り口近くで立ち話をしている。

剣菱「…今日、本当は黒船を連れて来たかったんだがなぁ。」

駿河「断られたとか。」

剣菱「予定が合わんとさ。そもそも最近、黒船とはあまり会わない。会っても通信もしないし…。たまに採掘場で出会っても、向こうがすぐ撤収したりするし、気のせいかもしれんが、何かこう…よそよそしいんだな…。」と言って「嫌われちゃったかねぇ。」と苦笑する。

駿河「一体何が…」

剣菱「わからん。それを聞きたくて誘ったんだが。なにせ黒船の採掘量がガタ落ちしてるんで。」

駿河「えっ?!」と驚いて「…イェソドに来ていて…採掘量が落ちる?」

暫し黙る二人。

駿河は俯いて思案しつつ「…何か、考えがあるのか、それとも…。」と言い「彼は人工種なだけに、仮に体調が悪くても言う事が出来ない。」

剣菱「んー…。」と唸ると「しかし仮にそんな事態であれば、流石にメンバーの誰かから連絡が来るはず。ネイビーさんとか。」

駿河「確かに。」

剣菱「あのネイビーさんが何も言ってこないという事は、大丈夫だとは思うんだな。」

駿河「だといいんですが。」

剣菱「でも黒船の採掘量が落ちるとウチの船が…。なにせ他の3隻は、『外』に出られないからな。」と言って言葉を切ると「ブルーも採掘量ガタガタで…。シトリンとレッドはまぁ、それなりだが。」

そこへ作業を終えた良太と、整備道具を持ったシナモンがやって来て、傍で二人の話に耳を傾ける。

駿河「あの3隻もイェソドに来られればいいんですが。」

剣菱「なぁ。…とりあえずウチの船とカルセドニーだけは元気。というよりも、元気を維持しないとな。」

駿河「はい。」

剣菱「なので今日は楽しむと。…作業終わったらしい。」

良太、駿河に点検証を差し出して「点検証です。どうぞ。」

駿河「ありがとうございます!」と両手でそれを受け取る。「助かりました!」

良太「ちなみにエンストしたらしいですね?」ニヤリ

駿河「えっ?!…誰から聞きました?」

良太「護さんです。ここで言ってもいい?」

駿河、断固として「ダメです!」首を振る。

剣菱「エンストしたんか」

駿河「絶対言いません!ってか言わんで下さい!」

剣菱「教えてくれよー!」

駿河「ああもぅまーーもーーーるーーーー!」と天井に向かって叫ぶ。

するとシナモンが「あそこにいる!」とコンテナと壁の間を指差す。

コンテナの陰に隠れていた護は、ちょっと顔を出すと「よ、呼んだ?」

駿河、怒り顔で「人のミスを!」

護「点検に必要な情報かなって」

剣菱「教えろ!何がどうなってエンストした!」

駿河「いかーん!」

護「夢を見たんだって!」

その言葉に剣菱とシナモンと良太が同時に「ゆめ?」とキョトンとする。

駿河、困り顔で「んー…、皆が採掘してる時にブリッジで寝てたら、なんか夢を見て、突然起こされてカルさんに発進しろと言われてエンジン掛けて、飛ぼうとした瞬間なぜか緊急停止の操作を…。」そこで笑い出した剣菱を見て「笑わんで下さい!寝ぼけてたんですよ!緊急停止が正常作動するって確認できたからいいでしょう!」

剣菱、笑いつつ「…笑えんけど笑う…。」

良太「珍しすぎるミスだな…そんなの初めて聞いた!」

シナモン、駿河の方に身を乗り出して「どんな夢だったの!」

駿河「…武藤がー…。ブルーのあいつと俺は航空船舶大学の同期なんで、一緒に実習船に乗ってて、あいつが操作ミスったのを俺が助けるみたいな…。」

シナモン「そしたら起きて自分がミスっちゃったのね!」

駿河「…まぁ…。」

護「…ちなみに、肉焼けたから、ゴハンだって。」

駿河「黒船には絶対言わんで下さい。…特に、黒船の船長には絶対に、言わないでくれー…!」天を仰いで絶叫。

剣菱「了解した!」

良太、爆笑しながら「ゴハン、行きましょう!」


一同がターさんの家の前のバーベキュー会場に行くと、皆が席に着いて駿河達の到着を待っていた。

マゼンタ「みんな早くー!」

悠斗「ハラが減ったー!」

透が指示をする。「船長二人と機関長は並んでそこの席に…シナモンちゃんそっち。」

バイオレット「私の隣!」

護はカルロスの隣に座る。

各自のテーブルには肉と野菜とピラフが盛られた皿と、シチューの入ったスープカップそしてお茶の入ったマグカップが置かれている。テーブルの中央に置かれた大皿にもピラフやサラダ、くし形に切ったオレンジ等が盛られている。

アキが立って説明する「もっと食べたい人は自分でお皿に取って食べてね。お肉や野菜、まだ焼くけど早い者勝ち!申請はお早めにー!」

駿河、ふと「ちなみに!これアンバーの食材ですよね?」

剣菱「細かい事、気にすんな。」

アキ「お肉は船長の自腹です!」

駿河「ええ!」

護「ありがとうございます!」

他のメンバーも「船長ありがとう!」「ありがとー」等と叫ぶ。

アキ「石茶はカルロスさんの自腹です。」

穣「ありがとー」

カルロス「人間がいるので殆ど普通のお茶になってしまった…。カナンさんのように人間でも美味しく飲める石茶は難しい。」

剣菱「じゃあカルロスさんのお茶で乾杯しよう。」と言って立ち上がると「…カルセドニーとアンバーの皆さん、今日もお仕事お疲れさまでした!アンバーは明日殆ど休みのようなもんなんで、今夜はゆっくりノンビリしましょう。カルセドニーは知らんけど。」

カルロス「そういや明日、ウチの船どうするんだ。護!何時にしたい?」

穣「護に聞くんか。」

カルロス「いつも護が言う時間に出てる。」

護「アンバーと一緒の時間がいい。」

カルロス「ならそういう事で。その後は臨機応変にしよう。」

ターさん「俺は元々臨機応変だから適当に。」

駿河「了解。…あっ!すみません皆さん写真撮らせて下さい!」と慌ててスマホを出すが「あーでもブログに載せられないか…。」

剣菱「モザイクかけろ。好きに撮ってくれ」

駿河「ブログはともかく撮ります。」

剣菱「ではハラ減った人々お待たせしました。ゴハンの時間です、乾杯!」

一同「かんぱーい!」その様子を駿河がスマホで撮る。


皆それぞれ食事を始める。食べ盛り組のマゼンタやオーキッドはアッと言う間に自分の皿の上の肉を胃袋に入れると「お肉美味い!おかわりー!」と声を上げつつテーブル中央の大皿のピラフを自分の皿に取り分ける。

肉焼き係の透「君達、何枚食べる予定?」

オーキッド「あるだけ」

マゼンタ「食えるくらい」

そこへマリアが「カルロスさん、お茶美味しいです。」

カルロス「ほんとに?」

穣「ってアンタ。」

カルロス「こんな大量に淹れた事無いから自信が無かったんだ。」

剣宮「美味しいですよ。」

カルロス「ならよかった。石茶ポットにまだ入ってるから飲みたいなら飲んでくれ。」

すると剣宮の隣のセルリアンが、石茶を飲みつつ「これ、どうして石茶っていうんですか?」

カルロス「え。」と驚いてセルリアンを見て「あ、君がブルーからアンバーに来た三等か。」

セルリアン「はい。」

カルロス「本来はイェソド鉱石水で淹れるお茶だからだ。」

セルリアン「ええ?!」と驚いて「本当に?」

穣、笑って「新鮮な反応だ。」と言いつつ中央の大皿からサラダを自分の皿に取り分ける。

カルロス「今日は普通の水で淹れてるけど。」

剣宮、セルリアンを指差し「彼、さっきターさんを見て目を丸くしてた。」

セルリアン「なにせ有翼種を初めて見たので…。」と言うと「自分はアンバーに来て良かったです。ブルーとは世界が違うので。」

護「よくわかる!」

穣「って護!お前がアンバーに来た時は酷かったぞ!」

マゼンタ「酷かったぁ!」

オーキッド「酷かったー!」

悠斗「そうだそうだ」

護「…皆で言わなくても。確かにドンブラコ前は酷かったなー。」

駿河「あれ。そういえばブルーの三等はどうなったんだっけ?」

剣菱「レッドの三等がブルーに行って、レッドに外部から新しい三等が入った。…アンタが黒船から抜けたせいで玉突き事故だ。…シチューのお代わり下さい。」と近くに来た透にカップを差し出す。

駿河「事故って。」

護「レッドからブルーに移動させられた三等操縦士かわいそう…。」

剣菱「どうだかなー。レッドの船長なかなかの曲者だからな。ぶっちゃけ俺はあの船長キライです。」

駿河「ハッキリ言いますね。…俺、黒船時代に本部で多少会った事あるけど特にあんまり。」

剣菱「そりゃ黒船の奴にはそうだろうよ。」と言いつつ透からシチューのカップを受け取る。

駿河「…つまり相手によって態度変わるとか。」

剣菱「俺にはそう見える。あくまで個人的感想だが。」と言ってシチューをパクリと一口。「…まぁレッドの連中もなかなか大変だと思うぞ。」

セルリアン「ブルーもなかなか大変ですけどね…。…武藤船長は好きなんですけど、監督が…」

護、苦笑いして「ウチの長兄がね…。」

するとターさんが「黒船、アンバー、ブルーアゲート、レッドコーラル、…あと何だっけ?」

カルロス「シトリン。」

ターさん「シトリンか。どんな船?」

駿河「…女性の船長の船。先代の船長の娘だけど。」

剣菱「…まぁ、普通の船だわな。マイペースで。」

駿河「SSFの人工種が多く乗ってるんですよね。」

そこへカルロスが「シトリンの探知は苦手だ。」

駿河「というと」

カルロス「…シトリンの探知人工種は、周防一族のジュニパーさんなんだが…。」と言って言葉を切ると暫し黙って「昔、ジュニパーさんに好かれてしまって。」

駿河「貴方が?」とカルロスを指差す。

カルロス「うん。」と言い「ジュニパーさんって男性だけど女性なんだよ。心が。」

一同「!」

カルロス「まぁ今は別の恋人がいるようだが。」

穣「振ったんか!」

カルロス「振るも何も同じ周防一族だ!とりあえずシトリンとは関わりたくない。」

穣「なんでー。」

カルロス「断固として探知妨害する。」

護「ジュニパーさん、かわいそう。」

カルロス「お前らジュニパーに会ってみ?マジで理解するから!」

そこへマゼンタが肉を食べつつ「一つ提案があるんですが!」

駿河「何でしょうか。」

マゼンタ「カルセドニーは白いから白船って呼びませんか!」

悠斗「名前長いから。黒船みたいに白船と。」

穣「何ならカル船でもいいけど。」

カルロス「却下します。」

穣「ってか実は密かにカル船って呼んでた。今度から白船にするわー。」



約1時間後。ターさんの家ではバーベキュー大会が終わり、皆で片付けをしている。

悠斗や護はテーブル代わりに使ったコンテナを再びアンバーの中に運び、他のメンバーは洗い物をしたりバーベキューコンロを片付けたり、妖精と遊んだりしている。

剣菱と駿河はターさんの家のリビングのソファに腰かけて雑談中。

剣菱「…明日、何時出航にするかな…。そういやセルリアン君はケセドの街を見た事が無いし、ちょっと街に寄って行くか。アンタも行く?」

駿河「街に行くなら大死然採掘選考の要綱をもらってくるかな。」

剣菱「大死然採掘?…ああ、有翼種の船団採掘か。」

駿河「はい。年一回、船団を組んで大死然の奥に行って特別な石を採って来るという。…ウチの船、それに参加しようかと。」

そこへ穣とカルロスがリビングに入って来ると、剣菱達の近くに来る。

剣菱「参加できるんか。」

駿河「それはこれからです。選ばれた船しか連れて行ってもらえないので。」と言うと、リビングの少し先のキッチンに居るターさんに「ターさん、大死然採掘の選考にエントリーする事にしたよ!」

ターさん「ほぅ。」と言うと駿河の方に来る。

駿河、剣菱に「ターさんはカルナギさんの船に入る事が決まってるんです。あの船はもう参加確定していて。」

ターさん「常連の船だからね。選考無し。」

駿河「カルセドニーは、いつもの3人で選考に挑戦を。」

ターさん「サポート船の枠だな。受かるといいねぇ。」

剣菱「選考って何をやるの。」

ターさん「選考期間の間に指定された石をどれだけ採れるかなんだけど。今回はどの石になるのかな。エントリー期間にならないとわからない。」

剣菱「カルセドニーは…受かりそう?」

ターさん「…船団の主力に参加する場合は今までの実績が関係するけど、サポート船の場合は過去の実績は関係なく選考期間だけで見るから、チャンスはあるよ。護君がどれだけ頑張れるかにかかってる。」

剣菱「なるほど。」

すると突然、穣が「それ、アンバーもエントリーできないかな。」

剣菱たち「え。」と驚く。

剣菱「やるんか?」

穣「ちょっと興味があるんです。」

剣菱「そりゃ大死然がどんなとこかは興味はあるが。しかしー…。」

穣「黒船もエントリーしたらガチ勝負できるんだけどな。」

カルロス「お前、そっちかよ。」

穣「だって完全に同じ土俵で真剣勝負出来るやん?そしたら黒船もノッて来ると思うんだ。」

剣菱「イェソド鉱石の採掘はどうするんだ。」

穣「そんなん残り3隻が頑張ればいいのではと。」

剣菱「ってお前。」

穣「だって選考期間だけでしょう。マジで困るようなら鉱石採掘ガッツリしますよ。」

駿河「あのー、黒船とアンバーがエントリーしたらウチの船は太刀打ちが。」

ターさん「別枠になるから大丈夫だよ。人数的に、カルセドニーは小型船、アンバーは大型船の枠になる。各枠で何隻が合格するかはわからんけど。これ全体のバランスで決まるからさ。」

穣「とりあえず明日、ケセドの街に行って聞いてみませんか。参加できるか」

剣菱「まず話を聞いてみるか。じゃあ明日は…8時半出航で、街に行って、戻りは何時になるかは臨機応変だな。」

駿河、カルロスに「ウチの船はどうします?アンバーと一緒にケセドに行く?」

カルロス「…個人的要望としてはケセドの街に行くよりも…その時間を別の事に使いたい。出来れば早くジャスパーに行って、自分の時間が欲しいです。」

駿河「いいけど、何かあるの?」

カルロス「…実は先日、とても美味い石茶石を手に入れまして。いつかそれを、時間のある時に…。」と言って暫し黙ると「製造師の周防に飲ませてやりたいと思っていたので。」

穣と剣菱、同時に「ほぉ!」と驚く。

剣菱「親孝行か!」

カルロス「いやいや単に茶飲み話を…。」

駿河「じゃあSSFに行かねばですね。ではウチの船は8時半にジャスパーへ出発という事で!」

穣、カルロスにしみじみと「アンタ、マジで変わったよな…。」


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