第9章 01

翌朝7時45分、ジャスパーの採掘船本部。

事務所に剣菱が入って来て「おはようご」と言った瞬間、戸口近くに居た管理がバッと剣菱の前に来ると

管理「4隻が帰って来ないのだが。」

剣菱、思わず「は?」

管理「アンバーは帰って来るんでしょうな!」

剣菱、目をパチパチさせて「…意味がワカランのですが。」と言いつつ(また何か無理難題到来…?)

管理「昨日の件をご存じ無いと?…嘘を付くと為になりませんよ?」

剣菱「昨日は本船は休みで…何かあったんですか?」

管理、暫し剣菱をじっと見ると「…他の船が戻って来ない。」

剣菱「…内地で採掘してるなら、当日に戻らないのは日常茶飯事ですし?イェソドでの採掘でも、予定によっては戻りが翌日になる事も。」(…なんだなんだ何なんだ…?)

管理「…しかもカルセドニーまで…。まぁあの船は、うん。仕方がないかもしれん。」

剣菱「カルセドニーの予定は知りませんよ。」

管理「ともかくアンバーは鉱石採って戻って来るんでしょうな!」

剣菱「何か特殊な事情が無い限りは戻ってきますよ。」

管理は疑いの目で剣菱をじっと見つめる。

剣菱(…そんな目で見られても…!)「…何なら本船に付いて来ても…。」

管理「そんな暇はない!…貴方を信用していますからね。」と言うとバッと事務所から出て行く。

剣菱それを見送りつつ(何なんだ…。謎過ぎる…。)



8時15分、死然雲海。

採掘船団が待つ遺跡の広場にカルセドニーが飛んで来ると、空いている場所に着陸する。

搭乗口から護が降りて来て、黒船のタラップへと走る。

タラップを上がると総司を含め、黒船メンバー達が採掘準備室に並んでいる所だった。

護、元気よく「おはようございまーす!」

黒船メンバー達「おはよ」「おはよー」とそれぞれ答える。

ネイビー、護を見て「おはよ…あらアンバーの制服。懐かしいもの着て来たわね。」

護、笑って「カルさんは黒船の着て来た。」と遅れてタラップを上がってきたカルロスを指差す。

カルロス「たまに着てるけどな。気が向いた時に。」

続いてタラップを上がってきた駿河は「俺だけは制服無いんだな。総司君にあげたから…ってその制服は。」と言いつつ総司を見る。

総司「これが人工種用の船長制服です。エリが白いだけですけど。貴方の制服着ます?洗濯したやつありますよ。」

駿河「いやいいよ。今は白船ですし。」と言って護と共にメンバーの列の端に並ぶ。

総司「…貴方こっち来て下さいよ。白船船長なんだし!」

駿河「ああ、はい。」と言って総司の隣に来る。

総司、一同を見て「では朝礼を始めます。…皆さんおはよう、今日のノルマは凄いですよ。なんと、採掘船約4.5隻分です!」

思わず全員から謎の拍手が起こる。

駿河「カルセドニーは0.5隻か…。」

レンブラント、苦笑しつつ「なんて大変な作業なんだ…。」

昴「恐らく今までで一番大変な仕事…。」

総司「正直、昨日一瞬、冗談かと思いました。皆、大丈夫なのかと。」

メリッサ「大丈夫かどうか知らないけど面白そう。」

オーカー「チャレンジし甲斐がある。」

カルロス「…だってティム船長の時代を考えたらな…。」

上総「どんな時代だったんですか…。」

ジェッソ「…まぁ、他船に黒船の本気を見せてやりたいなぁと!」

レンブラント「ですよねー!」

総司「じゃあ、この前代未聞の作業について、監督から手順の説明をお願いします。」とジェッソを見る。

ジェッソ「はい。…今日はまず最初に全隻のコンテナを黒船とカルセドニーに積みます。現場に着いたらコンテナを降ろして…最初カルセドニーから降ろす。黒船のは半分程でもいい。鉱石採ってカルセドニーに積んで、満杯になったら飛ばして、戻って来るまで採ったコンテナは黒船に積む。黒船が出るのは一番最後で、運搬メインはカルセドニーに。」

駿河「小回り利くからな。」

ジェッソ「うん。遺跡での荷下ろしと他船への積み込みは他船の奴らの仕事だが、例えばレッドに積むならブルーのメンバーがカルセドニーから降ろしてシトリンのメンバーが運搬してレッドメンバーが積むみたいな感じにするといいかなと。」

駿河「なるほど。」

ジェッソ「船の航路ナビにはカルロスさんか、上総なんだが」

カルロス「妖精を捕まえて探知させるという手が!」

駿河「途中で逃げられたら困るのでダメ。」

ジェッソ「…カルセドニーに上総を乗せる。」

カルロス「え。なぜ?」

ジェッソ「黒船は満載するまで時間がかかります。その間に貴方は採掘を手伝って下さい。」と言うとカルロスを指差し「スパルタを言い出した張本人に楽はさせませんよ元・採掘監督!」

カルロス「くっ!」

ジェッソ「今度は逃亡させませんからね。それではえーと。」と言って一同の方を見ると「ずーっと採ってばかりだと死ぬので2班に分けて採掘作業と運搬作業を交代にしよう。レンブラント、メリッサ、オーカー、大和の班と、私と夏樹、昴、護、カルロスの班。最初は私の班が採掘で、レンの班が運搬。…大体1時間で交代にするか、またはカルセドニーが戻って来る度に交代か、どっちがいいかな。…まぁやってみてから決める。何か質問は?」と言って一同を見てから「…では皆、いいかな?」

一同「はい!」

総司「じゃあ外の広場に行って他船と合流だ。行こう。」とタラップの方を向いた瞬間、総司の顔面めがけて何かが飛んで来る。思わず身を避けてそれをパシッと掴む総司。「びっくりした…妖精さん。」見れば丸い妖精。

すると上総が「外にいっぱいいるよ。」

総司「え。」


総司たちが黒船のタラップを降りると広場は妖精であふれていた。

3隻のメンバーは大喜びで妖精と戯れる。

輪太は妖精を抱き締めて「会いたかった、会いたかったー!かわいいー!」

春日も「マジで可愛いな…。」

ブルーの満も神妙な顔で妖精を抱き締め(…可愛い…。)

総司はその様子を若干唖然として見つつ「なんだこの状況は…。」

カルロス「来る時は一気に来るな…。何があったんだ。」

ネイビー「多分なんか吹っ切れたのよ。」

総司、はぁと溜息をつくと広場の中央に進み出て「皆さん!仕事を始めますよ!」と叫ぶ

満は妖精を天高く掲げて「皆の者!集まれ!」

サイタン「おらおら仕事すんぞ、おめーら!」

陸「皆さん仕事だよー!」

総司「…各船の性格がよく分かる…。」と呟くと「今日は黒船がガチで頑張らないとイカンので、ご協力お願いします!」すると妖精たちがポコポコと総司の周囲に集って綺麗に並び始める。

総司「…。」

ジェッソしみじみと「いい子達だなぁ…。」

総司「…皆さん、妖精さんを見習って…。」

3隻のメンバー達は妖精の背後にワラワラと各船ごとに並び始める。

中央に立つ総司を挟んで、総司の背後の黒船メンバーと向き合う様に妖精と3隻のメンバーが整列する。

総司「…今日は、今から全ての船のコンテナを黒船とカルセドニーに積みます。あとはもうウチの船が現場で採ってカルセドニーがここに運んできますので、皆さんは降ろして自分の船に積んで下さい。」

すると満が拳を握って「黒船に借りを作ってしまうとは…!」と天を仰ぐ。

それを見たサイタン「源泉石バトルで勝って次は俺らが黒船に恩返ししてやろーぜ。」

満「おお!」

サイタン、満に「つか俺ら共闘してあいつら潰さねーか?」と黒船メンバーを指差す。

満、喜々として「いいですな!」

総司「聞こえてるんですけど。」と同時に

ジェッソが総司の前に進み出て「受けて立とう!」と叫ぶ。

総司、目を丸くして「え。」

さらにジェッソはサイタン達に向かって「…かかってきな。」と凄む。

総司の目が点になる「…。」

護コソッと「なんか凄い事になってるぞ。」

駿河「カルセドニーはシトリンと仲良く平和にやろう。」

カルロス「…距離感は大事。」

サイタン、フンと鼻を鳴らすと「しゃーねぇな。…ならまず手始めに、ウチの船のコンテナを全部そっちに積んでやらぁ!採れるもんなら採ってみやがれ!」

満「我が船のコンテナも全てそちらにやろう。」と言うとバッと右手でジェッソを指差し「全て満載に出来るなら、やってみるがいい!」

ジェッソ「フッ…。任せておけ!」と怒鳴る。

総司「何なんだこの人達…。」

陸は引き攣った笑顔で「…意外に面白い…。」

ジュニパーも「面白いわねぇ…。」

コーラル(楽しいぃぃ!)


一同は作業を開始し、ブルー、レッド、シトリンの貨物室から台車や人力で折り畳んで重ねられたコンテナを搬出すると、カルセドニーと黒船の貨物室にどんどん積む。

ジェッソは黒船の貨物室から出て来ると、タラップの所に居る満たちに「カルセドニーあとどの位だ!」

満「終わったぞ、もう飛べる!」

そこへ陸がコンテナを載せた台車を押して来ると「ウチはこれで最後!」

ジェッソ「よし!」

その場に居るメンバー達が台車をタラップから船内に引き上げ、貨物室へ押して行く。

サイタン「ならそれが3隻のラストだ。」

満「では我々は黒船のお見送りをしなければならん!」

陸、キョトンとして満に「見送り?」

サイタン(ブルーの奴ってマジ面白れぇな)と思いつつ、楽し気に「盛大に見送ってやろーぜー!」


黒船のブリッジでは総司が駿河と通信をしている。

総司、インカムに「では回線は開いたままで。」

スピーカーから駿河の返事『了解。…黒船はあとどれ位で積み終わる?』

総司「そろそろ終わる…」と言った所でブリッジにジェッソが駆け込んで来る。

ジェッソ「船長!作業終了です、タラップ上げたので飛べますが、…あれを見て下さい!」と船窓を指差す。

見れば黒船の前方に着陸しているブルーの甲板に、3隻のメンバー達が出てきて黒船に手を振ったりジャンプしてハンカチやタオルを振ったり妖精を掲げたりしている。

総司「…なんだあれ…。」


満は右手を額に当て敬礼し「黒船の健闘を祈る!ご安全に!」

アッシュ達は妖精を頭の上に乗せて「頑張れぇぇい!」

武藤、青いタオルを掲げつつ「駿河ぁぁぁ帰って来いよぉぉぉ!」

陸は叫ぶ「意味の分からない見送り!」

コーラルは黒船に向かって手を振りつつジャンプする。

ジュニパー、黄色いバスタオルを頭上で振り回して「カルちゃああん!愛してるぅぅぅ!」

ウィンザー達は手を振りつつ「宜しくお願いしまーす!」

輪太、妖精を上に掲げて「頑張れ黒船ー!」

サイタン、拳を黒船の方に突き出して「途中で倒れるんじゃねーぞ!生きて帰れ!」


総司、ちと引き攣った笑顔で「…すんごい応援されている…。」

応援を見にブリッジに駆け込んできた昴やレンブラント達も楽し気に

昴「わぁーい応援されてるぅー!」

レンブラント「こんだけ期待されたらやるしかねぇ!」

ジェッソ「行きましょう船長!」

総司「じゃあ出発するかー!行きますよカルセドニー!」

駿河『了解!』

黒船とカルセドニーは3隻メンバーの応援を受けつつ上昇し、方向転換して鉱石採掘場へと飛び立つ。



数分後。

ジェッソは、ふぅと溜息をつくとブリッジにいるメンバー達に「…戦場が近づいて来たぞ。」

夏樹「生きて帰れるかなぁ。」

昴「死んだらアンバーが骨拾いに来る。」

レンブラント楽し気に「まぁ頑張ろうぜー!」

ジェッソ「降りたら昴は風使い2人と発破かけて、その間に他の全員でカルセドニーから荷下ろし。行くぞー!」とブリッジから出て行く。他のメンバーもそれに続く。

昴「わーい大仕事だ!」

オーカー「死にたくねぇぇ!」

夏樹「行ってきまーす!」

総司それを見送りつつ「生きて帰れ!ご安全に!」と言ってから(…何だか知らんが楽しいな。何でこんな楽しいんだ…。)


黒船とカルセドニーは採掘場に到着し、鉱石層の壁の前に並んで着陸する。と同時にタラップが降りて昴と夏樹とメリッサが降りて来ると、鉱石層の壁の方を向く。その間に他のメンバーはカルセドニーの貨物室へ。

昴が大声で「爆破するぞー!」と叫ぶ

夏樹とメリッサが同時に「おっけー!」

昴「3、2、1!」…ドンという音と共に鉱石の壁が崩れ、メリッサと夏樹が爆風と粉塵を崖上へと流す。

昴「ヨシ、上手く崩れた。安全だ!」

その声と同時に、怪力メンバーが畳んだコンテナを崩れた鉱石の所まで運び、そこで運搬班がコンテナ組み立てを始めつつ採掘班が組み上がったコンテナにどんどん鉱石を入れていく。満杯になったコンテナは台車に積んでカルセドニーの貨物室へ。一同黙々と作業を進める。

やがてカルセドニーの貨物室が満杯になる。

レンブラントが貨物室の扉を閉めてロックをかけると「扉ロック確認、カルセドニー飛ばします!」と叫びつつ船体から離れると、耳に着けたインカムに「全員離れました、駿河船長、発進OKです!」

カルセドニーは上昇を始める。

ジェッソ「あれでブルーの半分くらいかな。」と言うと一同に向かって「皆、あまり最初に飛ばし過ぎるなよ。最後に死ぬぞ!」

一同「へーい!」