第9章 03

暫し後。一同は昼食と休憩を終えて、再び採掘場へ出て来る。

レンブラント「さて、後はシトリンと黒船とカルセドニーの分か!」

ジェッソ「まずはシトリン分だ。黒船の貨物室を満杯にするぞ。もう少し積めば終わる。…昴、向こうの壁を崩してくれ。」と左側の鉱石層の崖を指差す。

昴「おっけー。風使い準備!」

メリッサ「はーい」

夏樹「うい。」

すると突然カルロスが「待ったぁぁ!」と叫ぶ。

昴「ん!?」

カルロス「少し待つとアンバーが来る。今度は全員乗ってる。恐らく自分達の船の分の採掘に来る。」

ジェッソ「あらま。」と言い「じゃあアンバーには更に奥の壁を採らせよう。」

メリッサ「爆風流しの風向きがあるから向こうが来てからがいいわね。」

ジェッソ「いや向こうにはバリアラーが居るから気にしなくても。」

メリッサ「違うわよ。…バリアラーがいるからこそ全部アンバーに流してやるのよ。」

ジェッソ「なーる…。」


数分待つとアンバーが現れ、一同の真上に船を一旦停止させると採掘口から穣たちが降下してくる。

穣「黒船とカル船の皆さんお元気ですかー!」と叫びながら着地すると、バッとジェッソのハンカチを広げ上に掲げて「救難信号は受け取ったぜ!採掘船アンバー登場!」

昴「ナニソレ?」

護「なんだそれ。」

ジェッソ「ふっ!私からのプレゼントだ!」

レンブラント「監督がコンテナに貼り付けた!」

護「はぁ。」

穣「ブルーの満が『意味がワカラン』と悩んでた!他のブルーの奴が『黒船にしてはショボイ、もっとデカイ布に描けばいいのに』と。」

ジェッソ「時間が無かった!」

昴「確かにショボイ…。」

穣「大漁旗でも作ればいいんだ。ちなみにアンバーは黒船の使命を邪魔するなんて無粋な事はしねぇんで、勝手に自分の船の作業をするけどどこで作業したらいい?」

ジェッソ「今からウチがそこの壁を崩すので、その隣だ。発破だけ同時にやろう。」

穣「って分かってるぞ、爆風を全部アンバーに流そうっていう魂胆だろう!前にやられた、同じ手を二度も食うか!」

メリッサ「学習能力あったのね。」

穣「ここにせっかくバリア職人がいるんだから上手く使え!ド大量に採らなきゃならんのだから大発破大会したらええんじゃ!」と言い「オリオン君!」とメンバーの方を振り向く。

オリオン「はい。」

穣「あそこの昴とかいう奴と一緒に全力でドカンとたのーむ!日頃の鬱憤全部晴らしたれ!」

昴「ってどういう…。」

穣はインカムに「船長、アンバーを船首並べて黒船の隣に。」と言うと一同に「船が着陸したらドカン大会やりますか!」

護「ドカン大会…。」


アンバーの着陸を待って一同は黒船とアンバーの船体の間に集まる。そこへ駿河が走ってやってくる。

ジェッソ、怪訝そうに駿河を見て「…どうしました?」

駿河「見学に来ました!」

ジェッソちょっと驚いて「へ?」

するとマゼンタが「この船長、前もアンバーの作業見学してた!」

悠斗も「穣さんのバリアに凄い感激してた。」

駿河、ジェッソに「昔はブリッジに居なきゃならなくて見学できなかったけど、今は出来るから。ドカン大会が見たい!」

ジェッソ「はぁ…。」

レンブラント「マジで人工種好きだったのね…。」

穣「よし、爆破と風使い、行くぞ。」と前に進み出る

昴「ほい。」

メリッサたち「はーい。」

穣が一番前に出て、その背後に爆破のオリオンと昴、その背後に風使いの夏樹、透、メリッサの3人が並ぶ。

穣、右腕を真っ直ぐ伸ばして数メートル先の正面の壁を指差し「ポイントどこだ?」

昴は穣の腕を若干上に持ち上げて「この辺かな。」

オリオンもそれを見つつ「俺の感じだと、もうちょっと左ですね。」と穣の腕を少し左に押す。

昴「えー。それだと二回爆破するとメッチャ細かくなる。デカい塊ほしい。」

オリオン「そうなんですか。」

昴、穣の腕を右に押し返して「うん、…ココがいいかな。」

その様子を見ながらカルロス、隣に立つ駿河にボソッと「今分かった、あれは同調の一種なんだな。」

駿河「え。」

カルロス「爆破スキルだけがわかる感覚を、爆破同士でのみ共有できる。…昔は爆破特有の能力だと思ってたけど、実は同調だな…。」

昴は穣の腕から手を離して「ヨシ、ここだ!」

オリオン「決まった。」

穣は腕の位置をそのままに、指差ししていた右手を開くとバンと右手を中心に自分の前に大きなバリアを展開する。

穣「こんなもんか!」

昴「もうちょい左右の幅ほしい。」

穣は更にバリアを広げて「こうかな!」

オリオン「オッケーです!」

昴「よっしゃー!いくぞー!」と叫ぶと「3、2、1!」

ドンッ、ドンッ、と2回爆発が起こって正面の壁が雪崩のようにドドドと崩れ、物凄い粉塵が上がる。それを風使いが左右や上に流す。粉塵が無くなると、まるで鉱石の雪崩を堰き止めるかのように穣のバリアの半分位まで鉱石が積もっている。

昴「ヨシ!上手く崩れた!あとは穣ガンバレ。」

穣は目を閉じてふぅー…、と長い息を吐くと、ゆっくり大きく息を吸って物凄い気迫を込めて「うりゃあああ!」と叫ぶと一気にバリアを押し出し鉱石を前方に押し返す。まるで雪を掻くように鉱石が左右に押し流され、穣の前には道が出来る。

思わず駿河たち「凄い!」

カルロスも「…あいつ凄いな。」

そこで穣はバリアを消すと、はぁ、はぁと荒い息をしつつ前屈みになって膝に手をつき、大きくふぅ…、と息を吐くと上体を起こして「はぁ…やっぱデカイ力をぶっ放すと気持ちええなー。」

昴「わかる!」

夏樹も「わかるー。」

穣「ただこれをやると、後で凄いハラが減る…。とっとと作業しないと俺のハラが空腹にー!」

ジェッソ「よーし黒船は右側で、シトリンの分をやるぞ!アンバーは左側でガンバレ!」

駿河「俺は邪魔なので船に戻ります。」


一同はそれぞれコンテナに鉱石を詰めて船に積む作業を開始する。

暫く作業を続けると、やがて黒船の貨物室が一杯になる。

護とジェッソが貨物室の扉を閉めているとカルロスがやって来て「監督。私は航路ナビの任務に行きます。」

ジェッソ「お待ち下さいカルロスさん。」

カルロス「何でしょうかジェッソ監督。」

ジェッソ「上総に行かせましょう。白船は飛ばなくてもいいので。」

カルロス、目を点にして「…。」黙ると「なにゆえ…。」

ジェッソ「貴方は黒船の元・採掘監督じゃありませんか。今日は共に採掘仕事を!」

カルロス「…そんな…。」

護「カルさんお疲れだな?」

カルロス「少し休めると思ったのに…。」

ジェッソ「スパルタを言い出した人が何を言う!貴方は我々と共に最後まで作業をするのです!」

カルロス「クッ…。仕方がない…。上総ぁぁぁ!」と叫ぶと突然バンとエネルギーを上げる。

ジェッソと護「!」

カルロス「八つ当たりで上総にだけSOS波をブッ飛ばしました。」

ジェッソ「…インカムで呼べば…。」

護「カルさん元気じゃん…。」


タラップを上げて採掘口を閉じた黒船は、ゆっくり上昇するとメンバー一同に見送られつつ3隻の元へと飛び立つ。

オーカー「…やっと黒船が飛んだなぁ…。これで3隻分が終わった…。」

大和「うん…。」

護「次はカルセドニーの分だぁぁ!」とシャベルを頭上に掲げる。

ジェッソ、コンテナに鉱石を詰めつつ「せっかくだから船の中を鉱石だらけにしてあげよう。」

昴「ブリッジまで隙間なく詰める。」

護「でも降ろすの大変だしコンテナに入れないと降ろせないし!」

昴「くぅ。」

レンブラント「…しかし流石にちょっと疲れて来たな。これの後は、黒船分か…。」

夏樹「頑張ろう…。」

レンブラント「頑張るさ…。」

作業を続けていると駿河がシャベルを持ってやって来る。

駿河「皆、ウチの船の為にありがとう!…俺もやる。」と言いつつ細かい鉱石をシャベルで積む作業を始める。

ジェッソ「駿河船長…!」と驚く。

カルロス「あの船長は、たまに一緒に採掘仕事するからいつもの事だ。」

ジェッソ「え。」

駿河「なにせ3人の船なんでね…。」

ジェッソ「そういう問題でもないような…。」

駿河「いいんです趣味なんです。前に剣菱船長にも呆れられました…。」


数十分後、カルセドニーの貨物室が一杯になる。護は扉を閉めてロックをかけると黒船の一同に向かって「皆、ありがとう!」

駿河「感謝します!…そして俺はまたブリッジで待機に戻ります。」と搭乗口へと歩いて行く。

ジェッソ「さて…。次は我々の分だ。」と言い「…これから一隻分採るってなかなか…。」

オーカー、溜息ついて「きっつ…。」

レンブラント「まぁ自分らの分だし…。」

昴「でも手は抜きたくない。」

レンブラント「まぁな…。」と言うと「頑張るかぁぁぁ!」と叫ぶ

ジェッソ「船が戻るまでコンテナは白船の近くに置こう。…最後だ、生きて帰るぞ皆!」

一同「おお。」

ジェッソ苦笑して「覇気が…。」

カルロス「しゃあない…。」


ジェッソ達が黙々と採掘作業をしていると、やがて黒船が採掘場に戻って来る。

レンブラント「…船が来たから積む作業を始めないとな…。」

ジェッソ「レンの班はそっちへ。」

レンブラント「へい。…うちの班はコンテナを船に運べー!」

オーカー「はぁ。」

レンブラント笑って「返事が死んでる!」

そこへ「オブシディアンは生きているかー!」という声が。

見ればアンバーのメンバーが妖精達と一緒に面白そうに黒船の作業を見物している。

悠斗「なんかクッタリしてるぞ!」

マゼンタ「助っ人要る?助っ人要る?」

ジェッソ「…野次馬なのか応援なのか…。」

透「だいじょーぶかー!生きてるか、まーもーるー!」

護、作業しつつ「生きてるわい!」

穣「お前すっかり黒船のメンバーになっちまって…。」

護「えええ!ちゃんとアンバーの制服着てるだろ!ってか俺はカルセドニー!」


妖精とアンバーの応援に励まされつつ一同は黒船にコンテナを積む。やがて最後のコンテナと作業道具を載せた台車を押してジェッソがタラップを上がると、アンバーのメンバー達も付いてくる。作業道具の箱を脇に降ろし、最後のコンテナを貨物室に積み込んで扉を閉めると、ジェッソは一同の方を振り向く。

そこには総司をはじめ黒船の全メンバーと、駿河とカルロス、護、そしてアンバーの採掘メンバーが集まっていた。

ジェッソ「…これで4隻分の、いや白船入れて4.5隻分の採掘作業が」と言って一旦言葉を切ると「終わりました!」

一同歓声を上げると共に拍手が起こる。

総司「ありがとう皆。そしてお疲れ様だ!」

ジェッソ「やったな皆!こんなの前代未聞の快挙だぞ!」

穣「さっすが黒船、すげー!」

マゼンタ、妖精を掲げて「おめでとー!」

悠斗「おめでとー!」

カルロス、胸を撫で下ろし、「殺されなくて良かった…。」と安堵の溜息をつく。

ジェッソ、カルロスを指差して「この快挙は、元・黒船の採掘監督のスパルタ発言のお蔭です!」

穣「アンタも凄い事を言うよな!」

カルロス「黒船なら絶対出来ると思った!だって天下のオブシディアンだぞ!」

駿河「大丈夫です。あんまり無謀な事を言うようなら俺が脅しますから!」

一同ドッと笑う。

穣「ところでこれからどうすんの。もう夕方だけど?」

総司「3隻の所に戻ってジャスパーに戻るしかないのでは?」

穣「一つ言わせろ。…人の船が休んでいる間に皆で楽しい事しやがってぇぇ!」

マゼンタ「そうだそうだ!」

悠斗「危うく仲間外れにされる所だった。」

穣「そもそも選考に参加させろって有翼種と交渉したの俺と船長なのにー!」

総司「その辺は全てまとめて管理に文句を!」

穣「黒船ばっかり目の敵にしやがってー!アンバーも入れろ!管理の手下の3隻が、アンバー黒船の2隻とガチ勝負っていう血沸き肉躍るシチュエーションが出来たかもしれないのにー!」

総司「…。」目が点。

ジェッソ「…あんまりガチ勝負にはならん気が…。」

総司「レッドだけはガチ勝負したけど、他の2隻は…。」

穣「ってか聞いたぞレッドの船長がラスボスって。あいつが管理に言ったんだろ。」

総司「何を?」

穣「アンバーが船団採掘の選考にエントリーするって。…知らんの?」

総司「…レッドの船長が?」

穣「…俺が護に選考エントリー決定の電話した時に、レッドの春日さんとカル船の3人が偶然出会ってファミレスで一緒にメシ食ってて、それで春日さんが船団採掘の事を知って、仕事の時に何気に喋ったら船長が詳しく聞かせろって食い付いて来て、なぜか管理に伝わった、…ってさっき遺跡で春日さんから聞いたが。」

護「そういう事だったのか…。」

総司「なるほど!」

穣「んでラスボス船長はレッドメンバーにお仕置きされたと。」

総司「…らしいな。」

穣「こうなったら源泉石バトル、アンバーは黒船をガチ妨害してやるから覚悟しとけ!」と総司を指差す。

マゼンタも「覚悟しとけ!」

総司「もう既に散々妨害されてますが、俺は…。」

ジェッソ「壊れる所だった。」

穣「ともかく向こうに戻って今後の予定とか話し合いだ。」

総司「了解です。」

穣「アンバーの皆、船に戻るぞー!」

アンバー一同「はーい!」

駿河「んではカル船も行きますか。」

カルロス「白船!」

数分後、カルセドニーを先頭に黒船そしてアンバーが採掘場から飛び立ち、3隻の待つ雲海の遺跡へと向かう。

←第10章01へ