第12章 01

翌朝6時40分。

イェソドのターさんの家の前にはカルセドニーを真ん中に挟んで黒船とアンバーが並んで停泊している。

家の前の庭木の近くでは護が野鳥にエサをやっている。手に持ったヒマワリの種を、野鳥が入れ代わり立ち代わり取って行く。そこから少し離れた所では、駿河が穣とジェッソと話をしていた。

駿河「…なるほど、管理の邪魔で…。」と言って溜息をつくと「それで3隻が居ない訳ね…。」

穣「まぁ、1週間あるから、途中参加できる可能性はある。」

駿河「ともかく3隻が来ないって事を有翼種側に伝えないと。」

ジェッソ「それはウチの船がやります。」

穣、ふと護の方を見て「…護の頭に鳥が乗ってる。」

駿河「あれ日課だから。懐かれてしまったらしい。…護さん、そろそろ行きますよ!」

護「はーい。」と言った途端、護の頭から野鳥が飛び立つ。

と、そこへ家の玄関からカルロスとターさんが出て来て駿河達の所に来る。

ターさん、ジェッソと穣に「おっはよーう!」

穣「…ターさんの家の前に、6隻がズラリと並ぶのを見たかったのに、管理に邪魔されて3隻はダメだった…。」

カルロス「しゃーない。」

ターさん「まぁいつか見れる事を楽しみにしとくよ。」と言うと「皆、頑張ってね!俺はカルナギさんの船で審査の手伝いだから!」

ふと、カルロスが「あ、そうだ。」と言うとジェッソと穣に「ひとつアドバイスを。風使いのメンバーに、雲海を風でぶっ飛ばす時、風に意識を向けるんじゃなくて周囲のエネルギーに意識を向けてやるといいって言っといてくれ。」

穣「それバリアと同じ要領だな。わかった。」

ジェッソ「周囲のエネルギーか。了解です。」

駿河「では行きますか。」

すると護が「なんか緊張するなぁ…。ウチの船は俺次第だから…。頑張るぜぇぇい!」と気合を入れる。

穣「…護が一番真剣だよな。」

ジェッソ「自分の夢が叶うかどうかだもんな…。」



3隻はターさんの家の前から飛び立ち、カルセドニーを先頭にケセドの街へと飛ぶ。

街に近づくと採掘船が集合しているのが見えて来る。3隻はその中に合流しつつ、街はずれに臨時に設営された広い源泉石置き場に向かうと他船と共に上空待機する。少しすると誘導係の有翼種が何人か飛んで来て、各船を指定の位置まで誘導する。カルセドニーは黒船やアンバーとは別の、小型船エリアに誘導される。

ブリッジでは護が周囲の小型船を見て「いっぱいいるなぁ…。」

するとターさんが「なんかね、今回は人工種が参加するって事で、皆、気合が入ってるって聞いたよ。」

護「ええー!」と目を丸くする。

カルロス「挑戦し甲斐があるな。」

護「…。」困り顔

そんな話をしている間にカルセドニーは指定位置に着陸する。少しすると搭乗口が開いてターさんと護が出て来る。

ターさん、護に手を振りつつ「じゃあ俺は行くよ。…頑張れ護、応援してるぞ!」

護は両手を握り、上にあげて万歳しつつ、空に向かって「頑張るー!」

そこへ係の有翼種がやってきて「元気がいいな、おはよう人工種!参加確認と手続きに来ました。」

護「はい!」


一方、黒船とアンバーは大型船エリアに着陸し、それぞれ船体下のタラップの所で参加手続きをしていた。

黒船では総司とジェッソが係の有翼種に何かを説明をしている。

係の有翼種は手に持ったタブレット端末を見ながら「つまりその3隻は途中参加になるかもしれないし、不参加かもしれないと…。ええと、ブルーとレッドは俺の担当だけどシトリンは向こうの担当だなぁ。」

総司「向こう、とは?」

有翼種、アンバーの方を指差し「今、アンバーの手続きしてる人。名前もアンバーっていう。」

総司「え、そうなんですか。」

有翼種「うん、アンバー・エン・クレイさん。ちなみに俺はロイ・ゼスです、宜しく。ちょっと待ってて下さい。」と言うと、バッとアンバーの方へ飛んでいく。

すると入れ替わりにターさんがやって来て「手続き終わったの?」

総司「まだです。今、不参加の3隻の事で問い合わせに行ったみたいで。」

ターさん「ああ、それか。」と言うと「俺、個人的には黒船かアンバー、どっちでもいいから合格して欲しいなぁ。一緒に大死然行きたい。」

ジェッソ「とりあえずアンバーには勝ちたい。」

ターさん笑って「どんな事になるやら。」と言ってアンバーの方を見て「手続き、時間かかるかな。」

総司「…みたいですね。」

ターさん「俺もう行く時間だから、最後に助言。これ探知の方に伝えといて。…最初に恒例の洗礼があるから凹まないでね、って。」

総司「えっ?」

ジェッソ「洗礼?」

ターさん、ニヤリと笑って「うん。アンバーにも伝えられたら伝えといて。まぁ最初は船の少ないとこ行ったらいいよ、じゃあ頑張ってー!」と言って手を振りつつ去って行く。

ジェッソ、その後姿を見送りつつ「…何の洗礼…?ああ、もしかして。」

総司「何となく分かった。…アンバーには、伝えておこう。」

ジェッソ、ニヤリと笑って「上総には言わんのか。」

総司も笑って「試練です。」

そこへロイが、有翼種のアンバーを連れて戻って来ると「お待たせしました。…それではその3隻については、もしも来たら我々を呼んで下さい。さっきのカメラで。」

ジェッソ「これですね。」と以前、渡された薄いカメラをポケットから出す。

ロイ「それの通信機能の使い方、わかるよね?船の誘導指示とかにも使うんで」

ジェッソ「はい。要綱で確認しました。」

ロイ「黒船、ブルー、レッドのカメラから呼ぶと俺が、アンバーとシトリンのカメラから呼ぶと彼が来ます。」と隣に立つ有翼種のアンバーを指差す。「各船の担当を呼んで頂ければ。ちなみに不参加が確定した時にも必ず連絡下さい。」

総司「はい。」

そこへアンバーが「さっきアンバーの人と話してて、アンバーとアンバーで紛らわしいから俺の事はアンさんと呼ぶ事になりました。」

ロイ、アンさんを指差し「…名前が同じだからアンバー担当にされた。」

アンさん「同じ名前だと全力応援したくなる。あ、ちなみに3隻が不参加確定の時、カメラを回収しないといけないんだけど…」と総司を見る。

総司「それについては後日、こちらで回収して持ってきますので、必ず。」



7時50分

源泉石置き場に集合していた各採掘船はスタート地点に移動する。各船それぞれ先導の船に従って飛び、割り当てられた空域に到着すると、間隔を開けて指定された順番に並んで待機する。


7時55分

カルセドニーのブリッジでは護が白石斧を手にして「はーじーまーるー!」と叫ぶと「ドキドキするぅ!」

カルロス「落ち着け護。」

護「アンタは落ち着き過ぎ!」

カルロス「探知はスタートが肝心なんだよ。」

駿河、感動の面持ちで周囲の船を見つつ「こんな沢山の船が整然と並ぶとカッコイイよなー!さぁ今日も飛びまくるぞ!」

護「採りまくるぞぉぉ!」


アンバーのブリッジでは

剣菱「スタートの合図が、警備の船の空砲とは…。凄いな。撃つとこ見たいな。俺も甲板に出て周囲を見たいが出られん!」

穣「ここから見えるのかな警備の船。」

剣菱「聞いてみよう。」と言って内線のボタンを押すと「船長です。物見遊山で甲板に出てる人、どんなのが見えるー?」

するとスピーカーから『透です、船が揃ってて凄い!』

剣菱「空砲を撃つ警備の船、見える?」

透『警備のって多分…あの船なのかな、遠くに見えるような…。黒船は3時の遥か彼方に見えます!…向こうも甲板に誰か出てる。』


黒船の甲板にも何人かのメンバーが出て周囲を眺めている。

メリッサ、船体後方を見つつ「大型船が先に出発で、小型船が後なのか。…カルセドニーどこかしら…」

夏樹「先に小型船を出すと、ごちゃごちゃして大型船が動きにくいからかなぁ。」

昴「小型は小回り利くしな。大きいの避けて行ける。」

メリッサ、後方の小型船を見ながら「小さいし、白い船多くてカルセドニーどれかわかんない。」


そして7時59分

黒船のブリッジでは上総が探知を掛けて、右前方を指差すと、操縦席の静流に「静流さん、最初はアッチです。」

静流「1時ですね了解。」

総司、時計を見つつ「あと10秒で8時だ。」

ジェッソ「もうすぐ空砲が鳴るぞ。」

総司「5、4、3、2、1」


ドドン!という数隻の警備船の空砲の音が鳴り響く。


ジェッソ、喜々として「スタートだ!」

総司、目を丸くして「…結構な音だな!空砲って」

静流も「びっくりした!」

その時、上総が「うわ!」と叫んで「ちょっと待った、探知位置が…!」と言うと、突然エネルギーをバンと上げて「うっそ何で俺こんな妨害されるんだ!」と叫びながら頭を抱えて「凄い探知妨害がぁ!」

その様子に、総司達は一瞬唖然として上総を見る。

ジェッソ、感心したように「…やっぱこういう事か。」

静流は焦って「か、上総…?」

上総、泣きそうになりながら「人工種だからってこんな妨害しやがって!」

総司「いやそれ恒例の洗礼だから。」

上総「はぁ?」

ジェッソ「さっきターさんに言われたんだ。探知は恒例の洗礼があるから凹むなよって。何の事かなと思ったら」

上総「ええ?んじゃ俺だけじゃないの?」

総司「うん。」

上総怒って「それ最初に教えて下さいよ!」と言って更にエネルギーを上げる。

静流「待った、上総!…こんなとこでヤケになって力を使わない方がいいかも。」

総司「それは言える。恒例行事らしいから、楽しめ!」

上総「だって他の船、皆、出て行きましたよ!」

総司「ウチも出よう、目視とレーダーで他船が居なさそうなとこに!…とりあえず2時方面空いてるからそっち行こう。」

静流「では2時へ行きます。」

上総「そんな」

ジェッソ「妨害が少なくなったら上総の出番だ。」

静流「…まぁでも、スタート時には探知妨害祭りになるって、予想は出来る気が。」

総司「だよなー。こんなに船がいる訳だから。」

上総、ちょっとふくれっ面になりつつ「…でも、多分カルロスさんだったらこれでも探知出来る。」

総司「…かもなぁ。」

上総「…んでも、冷静になったら、分かった。」

静流「何が?」

上総「俺がパニック起こしたから皆して面白がって妖精のイメージぶつけて来たんだなと!特にどっかのマリアさん、絶対許さん!」

総司「どんな妨害されてたん…。」


アンバーのブリッジではマリアが喜々として「妨害祭りに参加したら、上総君が慌ててた、かーわいい!」

穣「で、妨害祭りは終わったん?」

マリア「まだ続いてる。この辺ではちょっと探知は難しいかも」

すると操縦席のバイオレットが「じゃあ11時方面に行きますね、船長。」

剣菱、レーダーを見つつ「それで宜しく。…おっ、カルセドニー!」と言うと窓の左側を指差し「左舷に見えるかも!」

バイオレット「後ろの小型船集団、殆どの船がまだ動かないのにカルセドニー流石ですね。」

穣「金髪の人型探知機が乗ってるからな。」

ふと、剣菱が「あっ。…カルセドニーに付いて行く、という手が…」

穣たち「!」目を見開く

剣菱、左舷方向を指差し「カル船見えた、行けバイオレットさん!」

バイオレット、キリッとして「了解です船長!」

穣「それってアリなん?!」

剣菱「目視出来るうちに急げ!見失ったら金髪に妨害される!」

マリア「えー!それってアリなの船長!」

剣菱「知らん!モノは試しだ付いて行けー!」


カルセドニーのブリッジではカルロスが探知を掛けつつ「…えっ、付いて来るのかアンバー…。」

護も驚いて「え!」

カルロス「アンバーに狙われた、どうしますか採掘監督。」

護、曇り顔で「…剣菱船長…。」

カルロス「まぁ開幕大サービスで、初回だけ一緒にやってもいいけどな。」

護「んー…。」と困惑顔をして「前に手伝ってもらったし、バーベキューご馳走になったしな…。」

駿河「エンジン点検してもらったし。」

カルロス「とりあえず…」と悩んで「ちょっと減速。」

駿河「はい。」

護「アンバー待つの?」

カルロス「いや。」と言って探知を強めて「等級6と等級4どっちに行くか悩む。」

護「そりゃ6で!」

カルロス「静かに。」と言って暫し悩むと「この状況で、なぜ6の方に船が居ないのか…。4の方に行こう。船長、2時方向の雲海に突っ込んで。」

駿河「はい。…減速したお蔭でアンバーがピッタリ背後に。」

カルロス「うん。まぁ日頃お世話になってるお礼って事にしとこう。」


一方、黒船では上総が頑張っていた。エネルギー全開で真剣探知をしている。

静流は操船しながらその様子を眺めて「…開幕から全力だと後で燃え尽きる可能性が。」

上総「後で休むし!」

静流「それ中弛みって言うんじゃ」

上総「静流さんウルサイ。だってアンバー動いたし!カルセドニーにくっ付いて飛んでったし!ずるいー!」

静流「…。」

上総「このまま真っ直ぐ雲海に突っ込んで、その後ちょっと高度上げて、ちょっと行ったら下げて、そこで右方向に寄って直進したとこに源泉石ある!」

静流「…一気に言われても。ナビ宜しく。」

総司「メモが必要だった。」