第14章 01

翌朝7時半、ケセドの街の駐機場にて。

アンバーの採掘準備室では一同が揃って朝礼をしている。

剣菱「…聞いて下さいよ皆さん。昨日、どこぞの船長が8時に出る予定って言ってたから、ウチの船は少しずらして8時半に出るかなぁと言ったのに、あの黒い船、7時にブッ飛んでった…。」

穣「策にやられましたね。」

剣菱「策ってか、嘘ついちゃイカンだろ!全くもぅ!…悠斗君、健君、良太君!」

悠斗&健「はい?」

良太「なんでしょう?」

剣菱「お前ら江藤一族メンバーで、あの総司とかいう黒船船長に説教してくれ。」

悠斗「えー。」

マゼンタ「お仕置きだ!」

剣菱「お蔭でウチの船は朝からバタバタ大忙し…皆を急かしちまって申し訳ねぇー!」

穣「とりあえずこっちも出発しましょう。…マリアさん!」

マリア「はーい探知完了してます!ここから30分位飛んだ所にありますよ!」

剣菱「んじゃ今日も頑張るべ!出航だ。」


駐機場から飛び立ち、イェソド山から離れて死然雲海へと向かうアンバー。

ブリッジでは剣菱が「なぁ、昨日『黒船は3日目の午後、補給にジャスパー戻る』って言うから、んじゃご一緒にって言ったんだが、それはどうなんだろうか。」

穣「どうって?」

剣菱「ご一緒したくないなら無理にとは言わんし!」

穣「…そこを嘘ついても…。それは相手に確認して」

剣菱「確認って、いつ確認するん!相手が荷降ろしに戻るのは何時なん!雲海で通信するには、どっちかが通信可能距離まで行かんと…。」と言うと「昨日聞いておけば良かったぁぁ!」と頭を抱える。それから「ジャスパー戻っての補給は、一緒にやらんとフェアじゃねーべ!仮に別々に戻って片方は管理に足止め食らって片方は食らわないとか、もしそんな事があったらアンフェアだし!」

穣「うん。」

剣菱「とりあえず俺はな、相手の策にハマって黒船に40分遅れを取ったのが悔しいんだな!」

穣「うん。なーんか八つ当たりっぽい愚痴だなって思って聞いてた。」



同時刻、ジャスパーの駐機場にて。

レッドの採掘準備室でも朝礼が行われている。

メンバー達の前に立つ春日は「昨日、帰ろうとしたら突然ブルーの人に呼ばれたので何事かと思ったら、一緒に源泉石採掘に行きませんか!と言われて。」と一同を見る。

一同「!」

春日「勿論OKしといた。」

ウィンザー「えっ?!」

相原「い、行くんすか?」

春日「だって行きたいだろ?」

ウィンザー「それはそうですけど…。ブルーと違って、ウチの船は船長が。」

春日「俺が降ろされて南部船長が来て、ウザイようならまた監禁すりゃいいのよ。」

ウィンザー「でも…。」

春日「ブルーも武藤船長がどうなるかワカランのに行くって言ってんだぜ。あの採掘監督が、どうしても行きたいらしい。」

サイタン「!」

春日「で、相談した結果、黒船が補給で戻ってきた時に、江藤一族のブルーの探知の礼一君が、総司船長に『付いて行くから朝8時に出ろ』と交渉するんで8時に出よう、という作戦。シトリンにはクォーツ君が連絡した。」

クォーツ「昨日、俺と同じ紫剣一族の綱紀さんの家に行って話をしてきました。」

相原、意外そうにクォーツを見て「家に行ったの?」

クォーツ「探知講習会の時に住所教わったから。」

ティーツリー「それはいいけど、船長は行くと言ったの?」

クォーツ「…それは分からないけど、綱紀さんと聖司さんは物凄く行きたがってた。」

春日「まぁ参加するなら8時出航の時に付いて来ればいいってだけだ。」

そこへサイタンが「行くしかねぇだろうよレッドは。せっかくブルーがヤル気になったんだ。このチャンスを逃す手はねぇ。」

春日、微笑んで「だよな。」

サイタン「何ならブルーとタッグ組んで管理をブッ潰してもいいんだぜ?」

ウィンザー「ええっ?」

春日「恨まれるからやめとけ。」と笑って「時間とエネルギーの無駄だし。何より管理にとって一番、悔しい事は、…人工種が管理と関係無く自分達の人生を生き始めて幸せになる事だし。」

一同「…。」

ティーツリー「…つまり無視されるのが一番ムカツクと…。」

春日「だから構って欲しくて必死にちょっかい出して来る訳で。本人達絶対自覚しないけれども。」

ウィンザー「じゃあ…文句も言ってはならない?」

サイタン「向こうが勝手に来るのに対してウゼェって文句は必要だろうよ!」

ウィンザー「あ、ああ。そうか。」

サイタン「とにかく行くって事で決まりだ!…で、お前らお利口さんだから今日も仕事すんだろ!俺はやらねぇからな!」

ウィンザー「えぇー。」

サイタン「明後日の朝8時になったら本気だしてやる。」



シトリンでも朝礼が行われている。

楓、怒りを込めた顔で「…ウチの船も源泉石採掘に行くわよ。」

一同「!」

綱紀、喜々として「行くんですね、本当に!」

コーラル&聖司、喜んで「いぇーい!」

楓「私もう事務所で管理に嫌味言われるの限界!…分かってるわよ私が自分から船長辞めますって言うの待ってるのよね!ブルーとレッドは辞めさせるぞって脅せるけど私は脅せないから!」

コルド「…黒船の船長も同じような苦しみを味わったのかなぁ…。」

楓「向こうは人工種だし黒船だから私より酷いと思うわよ…。」と言い溜息ついて「源泉石採掘に行ってやるぅ!」

ジュニパー「ねぇ、でもその後はどうなるのかしら。」

陸「責任問題が。命令無視とか…。」

楓、不敵な笑みを浮かべて「少なくとも3隻一緒だから、1隻よりマシよ。」

コルド「それはまぁ…。」

楓「とにかく明後日の朝8時に行きますからね!皆、長期間出る準備してね!…次にジャスパーに戻れるのはいつになるか分からないわよ。」

一同「!」

陸「そ、そうか…もしかしたら選考採掘終了まで向こうに居るとか。」

楓「違うわよ、何が起こるかわかんないからよ!」

一同「!!」

楓「下手すると、ずーっとイェソドに」

コルド「そんなー!」

楓「私がイェソドに行ってしまいたい…。」

一同「えー!」

コルド「船長…!」

陸「流石にそれは…!」

楓「管理さんが『戻って来て』って泣いて懇願したら戻ってあげてもいいけどね!」

一同「…。」心配げに楓を見つめる。

楓「…冗談よ皆、大丈夫だから。ちゃんと戻るし…。」と言うと「そろそろ出航しないと管理さんがウルサイわね。じゃ、今日も管理さんが夕方6時に本部に戻ってとっとと帰れと言ってるから、管理さんの為にも5時に戻ってとっとと帰りましょ。」

コルド「5時?」

楓「船長のヤル気が無いんです。こっちが早く帰ると管理さんも早く帰れて幸せでしょ!」




午後。イェソドの死然雲海

アンバーが森の中の源泉石柱を採っている。

悠斗が石を触りながら「うーん…。どの辺を切ったらいいのかなぁ…。」

マリア、探知を掛けつつ「この石、さっきのよりもエネルギーが荒い感じがする。」

悠斗「ちょっとこの辺を叩いてみるか」と斧でカンカンと削りを入れる。

そこへ透が周囲の雲海を払いつつ「ここ、雲海が濃いから早めにね。」

するとマゼンタが「急ぎたいけど俺の仕事が無い。…筋力無いし、特殊スキルも無いし。源泉石採掘はヒマ!」

穣「柱採りの場合はな。」

マゼンタ「うん。石の層を崩すんなら、仕事あるのに。」

穣「バリアもなー。ちょっとヒマなんだな。雲海の霧をバリア出来たらいいんだがー。」

マリア「じゃあ次は、柱じゃないとこ行く?」

穣「難易度上がるぞ。」

マゼンタ「練習になっていいじゃん!」

悠斗「確かに。…次はオリオン君が発破出来るとこに行こう。」

マリア「了解!じゃあ探知範囲を広げて…。あ、黒船だ!」

一同「!」

マリア、探知しつつ「えー、こっち来るの…!」

穣「もしかしてコレ狙って…いや、採掘権は俺らにあるから関係無いな。」

悠斗「とりあえずこの石を採ってしまわないと。」と言いつつ斧でガンガンと更に切り込みを入れる。

健「お。良い感じに食い込んで来た。」

悠斗「よし、このまま切り倒す。…そっち抑えて」と指示をする。

健が柱を挟んで悠斗の反対側に立って柱を抑える。

穣「一応俺もバリアするよ。」

マリア「黒船…、進路的に、ただ近くを通って行くだけかな。」

マゼンタ「通りすがりだった。」


一同の上空に停まっているアンバーのブリッジでは。

リリリリと緊急電話のコールが鳴る。

剣菱、受話器を取って「はいアンバー剣菱です。」

総司『黒船の総司です。明日、アンバーも一緒にジャスパー戻りますよね?』

剣菱「…うん。」

総司『本船は12時にケセドに戻って石を降ろして、その後ジャスパーに向かって出発する予定ですが。』

剣菱「…ホントに?」

総司『…本当です。』

剣菱「なんか8時と言ってて7時に出てった黒い船が居るんだが。」

総司『戦いですから、仕方がありません。』

剣菱「畜生。上手く引っ掛けやがってー!」

総司『なので申し訳ないなと思って、明日の予定を連絡しに来ました。』

剣菱「補給でジャスパー戻りは一時休戦にしようや。」

総司『それはもう本当に、はい。確実にします。』

剣菱「明日12時に石降ろしして、もし黒船が先に報酬貰っても、本部で待ってろよ。先に行くなよ。」

総司『そこからご一緒ですね。…ちなみに、アンバーは夜間採掘を行うのでしょうか。』

剣菱「…オブシディアンは、するのかな?」

総司『まぁ…、出来れば、します。事故など起こすと失格になるので、慎重に見極めつつ。』

剣菱「ふーん。」

総司『そちらは…。』

剣菱「いい事聞いた、ありがとう。では!」と言って通信を切る。




再びジャスパー側。

また、いつもの山の中腹の崖で採掘作業をしているブルーのメンバー達。しかしいつもと違って皆、真剣に作業をしている。

満も以前より生気のある表情で、しっかり力を込めてツルハシを振るい、崩した岩を片手で押し退けると「鉱石が出て来たぞ。」

アッシュ「やっとお出ましか。」

クリム「やっぱり監督が本気になると、鉱石が出てきますね。」

満「…お前達も本気でやれば、深く抉れて鉱石層まで到達できる。」

アッシュ「でもこの山、なかなか手強くって…。」

満「まぁな。」と言いながら鉱石層を崩し始める。

そのまま一同、黙々と作業を続ける。

暫く作業に集中していると、アッシュがポツリと呟く「…なんか静かだな。」

クリム「うん。」

礼一「…真剣にやってると、上で監視している人が喜びそう。」と言って上空の管理の船を見る。

アッシュ「管理か…。」

一同、再び黙々と作業をする。

暫くの沈黙の後、満が作業の手を止めて、ポツリと「お前達、…本当にいいのか。」

アッシュ、呆れたように「まーた。」

歩も「長兄…。」と言うと「決まった事にグチグチ言うなと。」

満、若干赤面して「そうだったな。…以前はそんな事を怒鳴っていたな、私は。」

アッシュ「なんか監督、変わりましたよね…。」

クリム「変わり過ぎ。」

満、溜息ついて「…皆、変わって行く…。護も、穣も…。」

アッシュ「護さんの変わりっぷりには驚いたー。」

進一「川に落ちてさ…。生きるか死ぬかを経験すると、人って変わるんだなぁ。」

歩「…そもそも、生きてた事に驚いた。」

満「人生、何がどうなるやら、か…。」と呟くと「しかし武藤船長がどうなるのかが気掛かりなんだが。」

アッシュ「考えても仕方ないですって。それに…。」と言うと「あの人、そんなヤワじゃないっすよ。」

歩「そうです。…今までどれだけ長兄に鍛えられた事か…。」

礼一「それでもブルーに居て、船長までやってるんだから、大丈夫です。」

満「…そうか…。」と言い再び作業を始める。