第18章 01
翌日、選考6日目の午後1時。
3隻の採掘船がケセドの源泉石置き場に戻って来ると、誘導された位置に着陸する。
各船タラップを降ろして源泉石柱やコンテナを運び出す。同時に下で待っていた有翼種達がそれをチェックしつつ大型の台車に積み始める。
3隻のうち、最初にシトリンが積み荷降ろしの作業が終わる。
シトリン担当の有翼種、アンさんが陸に「これで全部かな?」と確認。
陸「はい。」
アンさん「じゃあ次は補給だね。」と言ってタブレット端末を見ながら「この先の駐機場の隣に給排水するとこあるんだけど、混んでるから予約とっといた。D3、D4、D5の順だからシトリンはレッドの次。…まぁ時間になったらそのカメラに連絡来るから、誘導に従って。」
陸「何時頃になりますか?」
アンさん「大体2時間後…かな。多分。」
陸「ちなみに、給水はイェソド鉱石水ではない水で」
するとアンさん笑って「大丈夫!前にカルセドニーがそれを散々言っていてね…。中和するフィルタ付けてからは言わなくなったけど。」と言い「あと食料のお買い物だけど、何時がいい?」
陸「2時半以後だと助かります。…今から昼食なので。」
アンさん「じゃあ…3時にしよう。3時に調理師さんを迎えに来るから、2時から3時の間に船長は本部で報酬を受け取ってね。カメラ持ってくの忘れずに。」と言って「いや、本部で合流にしたらいいのか。船長と一緒に調理師さんも本部に来てくれたら3時から担当の人と一緒にお買い物に行ける。」
陸「はい。ではそのように伝えます。」
3隻の船は石置き場から飛び立ち、隣の駐機場に移動する。
ブルーの食堂ではご飯タイムが開始されている。アッシュや進一がトレーを持って配膳カウンターに並び、そこから食堂の壁に沿って順番待ちのメンバーの列が出来ている。
そこへ満が入って来ると、ちょっと立ち止まって「…メイさんに伝達事項があるのだが…。」と言い、皆が並んでいる側と反対側の壁沿いに歩いてキッチンへの入り口に来ると、そこから遠慮がちに若干キッチンの中に入って「ご多忙中、申し訳ないが…。」
メイは配膳カウンター前に来た礼一にご飯と味噌汁を渡しつつ「はいはい何でしょう? 今日は豚肉の生姜焼きですよ!」
満「2時半になったら船長と一緒に選考採掘本部へ行って欲しい。そこでお金を受け取り、有翼種の方と共に食材の買い物へ。」
礼一「いいなぁメイさん、有翼種の街に行けるの!」
メイ「楽しみー!」と言って生姜焼きを盛りつけた皿を礼一に渡す。
満「買った物は有翼種の方が船まで配送してくれるとの事だ。」
メイ「どれだけ稼げたかで買う食材変わるから、もしあんまり稼げてなかったら、以後はショボイお食事になるよ!」
満「そこは…アッシュや進一達が頑張ってくれたので、大丈夫だと思う。」
午後3時近く。
レッドのタラップから南部と、調理師のフェンネルが出て来る。2人がタラップから離れると、タラップが上がって船底の採掘口が閉じられる。
南部、周囲を見回して「ええと。集積所の建物の間の通路は…あそこか。行こう。」と言って歩き出す。
フェンネル「はーい!」
2人が少し歩いて船体から離れると、その背後でレッドが静かに上昇を始める。
南部は、給水所へ向かって移動を始めたレッドの船体をちょっと見ると「…何となく、置いて行かれた気分になるな。」
フェンネル「…そうですか?」
南部、呟くように「何せ船長が二人も乗ってる船なので…。」と微妙に寂し気な表情になる。
そんな南部とは対照的に、フェンネルは満面の笑顔で楽し気に「船長と2人でお出かけって初めてですね!」
南部「…私は買い物には一緒に行かないが。」
フェンネル「本部までだけど、2人だけって珍しいじゃないですかー。」
南部「まぁ、うん。」
2人は集積所の間の通路に入ると、若干キョロキョロと周囲を見つつ歩く。
フェンネル「なんか翼の付いた人ばっかりで、変な感じ!」
南部「…逆に翼が無いとちょっと恥ずかしいという…。」
暫し歩くと選考本部の入り口が見えて来る。中に入ると受付カウンター前に楓と武藤が居た。
2人が南部に気づく。
南部「…どうも。」
武藤「待ってましたよ。」
フェンネルはカウンターの端のモニターを見ているフランキンセンスとメイに気づいて「フラン!やっほぉー!」
フランもフェンネルに手を振って「今日は3隻一緒に買い物だよ!こっちはブルーのメイさん。」
メイ「どもー!メイ・ジルフェスっていいまーす!」ニッコリ
フェンネル「レッドのフェンネルです、皆でお買い物、やったー!」
武藤、そんな3人を見て「楽しそう…。」
楓「…私も一緒に行きたい…。」
武藤、南部に「とりあえずここにカメラ出して。」とカウンターを指差す。
南部「ああ。」と言いつつカメラをカウンターに置いて「D4のレッドコーラルです。」
受付の有翼種「はい。ちょっとお待ち下さいね。」
武藤「レッド大勝利だなー。」
南部「えっ」
楓がモニターを指差して「そこのモニターに結果が出てるんです。」
武藤「レッド、ブルー、シトリンの順!」
南部、フェンネルと一緒にそのモニターを見て「…でも3隻似たり寄ったりな…。」
楓「一緒に協力して採ってますからね。」
フラン「だって3隻共闘でしょ?」
南部「しかし、有翼種の船のレベルが凄いな。黒船でも合格圏に入れないとは。」
武藤「そりゃ黒船も源泉石では新人だし。」
楓「…これ、もしも5隻一緒にスタートしてたらどうなったのかしら…。」
武藤「今、アンバーと黒船が殆ど互角だから、5隻同時だったらレッドが黒船を抜くってのもあったかもなー。」
楓「ブルーが黒船抜いたかもよ?」
そこへ受付の有翼種が「D4の赤い船の方!」
南部、一瞬キョトンとして「は、はい。赤い船です。」
有翼種「なんか見事に赤青黄の三原色が揃っているので、つい。」と言いつつカメラと封筒を出して「カメラの返却と、報酬です。中をお確かめ下さい。」
南部「ありがとうございます。」とそれを受け取る。
そこへ本部の中に2人の女性有翼種が入って来ると「えーと、食材の買い物に行く方!」
フェンネル達「はーい!」
有翼種「今日は私、タオと、こっちのミノルの二人がお買い物に付き合います!」と隣の女性有翼種を指差しつつ言う。
武藤「…また、みのるが…。」と言い「俺の名前も実。」
ミノル「えっ!人工種にもいるんですね!」
武藤「いや」と言い、ふと「あー」と思い出して「いる。」
メイ、武藤を指差して「この人と私は人間です。この船長達もだけど。」
ミノル「あ、そうか。人間もいるんだった。」
武藤「つまり人間にも、人工種にも、有翼種にも、みのるがいる!」
ミノル「そんな種族を超えた名前だとは思ってなかった!」
そこへ南部が「いくら位、お金を渡せばいいのかな。」
楓「私は全部渡したわ。日用品も必要だし。」
南部、楓を見て「えっ。」
武藤「だってその報酬、給排水料金とかの必要諸経費は既に引いてあるし。残り全額食料とかに使っても別に問題ない。」
楓「何がどの位の値段か分からないから。今回は全部渡すって事で。」
南部、「じゃあ、ウチの船もそういう事で…頼むよ。」とフェンネルに報酬の袋を渡す。
フェンネル「お任せ下さい!」
タオは腰のポーチから緑色の腕輪を出して「人間の方はこの腕輪を着けてね。」
メイ「はい」と返事しつつ腕輪を受け取る。
武藤「それ中和石の…。」
タオ「そう。まぁ市場までだから別に要らないんだけど、一応。…ではお買い物へ行きますか!」
フェンネル「はーい!」
フラン「行く行く。」
一同は本部の外の通路に出る。
タオ「買い物はこっち」と駐機場とは逆の方向を指差す。
フェンネル達「船長、行ってきまーす!」と手を振る。
南部達も手を振りつつ「行ってらっしゃい」
武藤「行ってらー。」と言うと南部に「じゃー船に戻りますか。ウチの船は給水所だけど!」
南部「ウチの船もだよ。」
武藤「んじゃご一緒か。ちと遠いがテクテク歩きますよ。…飛べばすぐだけど翼がねぇ…。」
楓「ウチの船は、もし駐機場に居なかったら給水ね。」
南部「…給排水の所まで遠いなら、船が戻ってくるまで駐機場で待機していても…。」
武藤「じゃあ船長3人でボケッと立って待ちますか。ウチの船が戻るまで。」
南部「ブルーが来たら、中で待機させて下さい。」
武藤「勿論。茶でも出しますわ。」
船長3人が駐機場の出入り口付近でボケッと立って有翼種の船を眺めながらブルーの帰りを待っていると、石置き場の方から見慣れた船が駐機場にやって来る。
楓「あら。アンバーが戻って来た。」
やや遅れて黒船も駐機場に入って来てアンバーの隣に着陸する。少しすると、2隻の船のタラップが降りて、各船から2人ずつ、合計4人の人影が駐機場の出入り口に向かって歩いて来る。ジュリア、アメジスト、アキ、セルリアンの4人は船長達に気づくと、駆け足で船長3人の所にやって来る。
武藤「お、セルリアン君やん。」
セルリアン「武藤船長!ここで何してるんですか?」
武藤「給水に行った自分の船を待っとる。」
セルリアン「え。」と怪訝そうな顔をする。
武藤「…船長は本部に行かなきゃならなくて、でも船は給水に行く時間で。こっちの用事は終わったが、船はまだ給排水で、向こうまで行くのメンドイし、ここで待ってる。」
セルリアン「なるほど…。」
アメジスト「それで船長が3人も居るんですね。」
アキ「私達はこれから4人で食材の買い出しです!」
武藤「じゃあこの3隻の調理師連中と会うかも。さっき有翼種と一緒に買い物に行った。」
楓「ミノルさんっていう女性の有翼種と一緒に!」
アキ「あらまぁ。」
ジュリア「急がないと、夕飯作りの時間になっちゃう。」
アキ「うん。じゃあ行ってきまーす!」
楓「いってらっしゃい」
武藤「いってらー」と4人を見送る。
そこへ給排水施設の方からブルーが戻って来るのが見える。
南部「ブルーが戻ってきましたよ。」
武藤「じゃあウチの船で茶菓子でも食べますか。」
午後5時。
選考採掘本部に剣菱と穣が入って来る。
剣菱はカウンターの上にカメラを出して「D1アンバーです、お願いします。」
受付の有翼種「はい。ちょっとお待ちを。」
2人は早速、結果が出ているモニターを見る。
途端に穣が「あー!」と声を上げると悔しそうに「すっごい惜しい…。」
剣菱も結果を見て「これは惜しいな。微妙に黒船に負けてる…。」
穣「でもなー。ヌシが居た所の柱は黒船に助っ人してもらって7だった訳だから、まぁ…やっぱ黒船強ぇわ。」
剣菱「…ウチはほら、護が抜けた分ちょっと怪力の人手が足りないし!」
穣「そんな事言ったら黒船なんてカルロス抜けてますよ。」
剣菱「あー! そうだった。もし今、黒船にカルロスさんが居たら凄い事になるかもな。」
穣「おっかねぇ…。絶対勝てねー…。」と言い「まぁ今アンバーに、護が居たとしても…。」
剣菱「わからんぞ、今の護は有翼種に鍛えられてるから!」
穣、モニターを見ながら「しかしレッドとかあの3隻、そこそこ採れてんなぁ。頑張ってるじゃーん。」
剣菱「そういやカルセドニーは?」
そこへ受付の有翼種が「D1アンバーさん報酬です。…カルセドニー、凄いですよ。」
剣菱、カウンターに出されたカメラと報酬の封筒を受け取りつつ「何が凄いんです?」
穣がモニターを見つつ「うわ合格圏内入ってる!」
剣菱「えっ」
有翼種「ギリギリですけどね。」
剣菱「…何かあったのかな。」
有翼種「石屋の話によると、前から徐々に上達して来てはいたんだけど、最近それが加速して本当に良いものを採って来るようになったと。…熱意がハンパ無いって。」
剣菱「へぇ…。」
穣「護の特性は、あの情熱だな。まぁでもカルロスが…って、後ろ。」と剣菱の背後を指差すと、丁度ジェッソと総司が本部に入って来た所だった。
剣菱「やぁ、お疲れさん。」
総司「何かカルロスさんの話が聞こえましたが。」
穣「…あのカルロスが一緒だから護も頑張るよなーって。」
ジェッソ「それは言える。」
総司、カウンターにカメラを置いて「D2の黒船です、お願いします。」
受付の有翼種「はい。」
穣「カルセドニーがギリギリ合格圏内に入ってしまった。」
総司&ジェッソ、驚く「!」
総司「凄いな…。」
穣「護なぁ…。無理してなきゃいいんだけど。」
総司「多分、あの船長が無理させませんよ。」
穣「だなー。」と笑う
ジェッソ「ところでアンバーは等級8を採った事あるか?」
穣「ありません!…大型船ランキング見る?」とモニターを指差す。ジェッソと総司はモニターを見る。
総司「…僅差か。」
ジェッソ「予想通りだった。…明日の最終日、何とかして等級8を採ってみたいんだがなぁ…。」
穣「8か。8が採れたら黒船、合格できるかなぁ。」
ジェッソ「どんな8を採るかによるな。」
穣「もうこうなったらアンバーが手助けして8採って黒船を合格させてやるかー!そしたら黒とカル船、一緒に大死然行けるし!」
総司「いや二隻で協力すればアンバーも」
穣「採ったモンを一隻にまとめた方が確実だろ?」
総司「それは…でも、勝負が。」
穣「カル船は黒船と一緒がいいと思うんだー!」
そこへ剣菱が「二隻どっちも不合格よりは、チャンスがあるなら黒船に賭けたい。俺は個人的にはアンタに大死然に行って欲しい。」と総司を指差し「カル船の船長が喜ぶ。」
総司「…。」剣菱を見つめる。
ジェッソ「まずは8を採れるかどうかが問題だ!」
穣「よっしゃー明日は二隻で8採り大作戦で決まった!」
受付の有翼種「…決まった所でD2オブシディアンさん、報酬をどうぞ。」
総司「あ、…ありがとうございます。」とカメラと封筒を受け取る。
有翼種「合格できるといいですね、本当はどっちも合格して欲しいんですけど。…8採り作戦、頑張って。」
総司「…はい。」
穣「明日の朝、何時に出航にする?」
剣菱「8採りだから8時で!抜け駆け厳禁!」
総司「…そう来たか…。」
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