第21章 03

その頃のレッドコーラル。

採掘準備室でサイタンが叫ぶ「だから管理をブッ潰そうぜー!」

満「だが管理を潰せば我々の仕事が…。」

陸「仕返しが恐い…。逆襲されたらどうしよう。」

採掘準備室にはサイタンやウィンザー達の他にブルーの満やアッシュ達そしてシトリンの陸やターナー達も居て、皆が円になって床に座り、サイタン以外は完全に意気消沈して深々とうな垂れている。

ウィンザー、溜息をつくと「嫌だ…もうジャスパーに戻りたくない。戻ればまた管理の…。」

アッシュ「もう管理様の命令に従うのは嫌だぁー!」

コーラル「あんな狭い世界は嫌だぁー!せっかく源泉石バトル、楽しかったのに…。」

その場に集った一同、「はぁ…。」と重い溜息をつく。

そんな一同を、階段室から眺めているカイトと輪太。

カイト「なんという重い空気…。」

輪太「あれは近寄っちゃダメです…。」

カイト、頷いて「…上に行く?」

輪太「でも食堂も疲れますよね…。」

カイト、また頷いて「あっちの探知講習会はハイテンションすぎて死ぬ…。特に青い船の人が…。」

輪太「天国と地獄ってこの事だなぁ。」

カイト「…おや?」そこへ誰かがタラップを上がって来て採掘準備室に姿を現す。

南部は目の前の光景を見て思わず足を止め、「な、なんだ…?」

円になって床に座る3隻の鬱状態の人々、唯一サイタンだけが元気。

サイタン「管理を潰さねぇと俺らの明日がねぇ!」

その叫びに、南部の後から採掘準備室に入って来た4人の船長達も目を丸くする。

アッシュ「でも管理を潰したら、俺らどうなる…」

ターナー「恐いな…。」

進一「でももう内地で鉱石採掘するのは…」と言ってふと船長達に気づき、「うぉ!船長5隻コンプリート!」

武藤「コンプリートて」

満も船長達を見て「あっ船長の皆様、如何なされた!」

武藤「如何もなにも、船が給排水に行っとるから残ってる船へ…。」

そこへ船内放送のスピーカーからピピーという音が鳴ると、『春日でーす。給排水の時間になったから発進するよー。タラップ上げるから、近くに居る人退避してね。誰でもいいんで返事宜しく。』

すると総司がタラップ開閉レバーの所へ行き、「上げるんで、皆さん退避して下さい。」

船長4人はタラップのエリアから離れる。それを確認した総司はレバーを操作しタラップを上げ、船底を閉じる。

それから横の電話の受話器を取ると「黒船の総司です。タラップ上げて採掘口閉じました。」

すると受話器から春日が『えっなんで貴方が!ここレッド…ああ、もしかして黒船が給水に行ったからかな』

総司「はい。ここに船長5人、コンプリートしてます。」

春日『なにぃ!皆いるのか。了解だー、…しかしビックリしたよ、もう…。発進します!』

総司は受話器を置くと、円になって床に座るメンバー達の傍へ。

南部も一同の傍に立つと「皆さん、ここで一体何を?」

ウィンザー「愚痴大会です。」

アッシュ「お悩み相談室!…あ、船飛んだ。」

陸「…ジャスパーに戻るのが嫌だなぁという話を…。」

楓「そもそも何でレッドに?」

陸「…ヒマなので、ジュニパーさんと綱紀がレッドに行ったし、何となく見に行くかなぁと。」

満「我が船の場合は礼一が、暇なら来いと言うので。」

アッシュ「監督がレッドに行ったら芋づる式に皆レッドへ。」と言うと武藤を見て「船長、これからの予定は?」

武藤「未定だー。特に決まっとらん。」

満「ジャスパーへ戻るのは、いつ?」

武藤、剣菱達を見て「いつ?明日?」

楓「やる事ないなら明日よね…。」

剣菱「まぁウチの船は明日はイェソドの街で遊んで帰るっていう手もあったりするが。」

楓「いいなぁ…。3隻はやっぱりまだよね。」

武藤「つーか、それを聞いて来るの忘れたな…。」

ウィンザー「何にせよジャスパーに戻れば…。」と言って、はぁーと大きな溜息をつくと、「鬱だ…。」

サイタン「だから!管理倒そうぜ、霧島研に殴り込みしちまえ!」

クラリセージ「でも管理を倒してもさ…。俺ら、何の為にイェソド鉱石を採るのか。」

陸「わかる。」

再び船内放送のスピーカーからピピーという音が鳴ると、春日が『10分後に給排水作業開始だからトイレ行くなら出来るだけ今のうちに。』

楓「あ、ちなみに探知講習会は?」

陸、上を指差して「食堂でやってます。」

サイタン「んじゃどーすんだよ、またクソ管理にヘコヘコしながらつまんねー仕事すんのかよ!」

満「…護のように、イェソドで仕事が出来れば…。」

陸「せめて黒船みたいにイェソドで鉱石採掘出来たらいいですよね。」

武藤「毎日5隻でイェソドで鉱石採ったら凄い量だなー。」

楓「それこそ採り過ぎで妖精さんに怒られそう。」

ウィンザー「でも管理が許してくれるか…。」と頭を抱える。

そこへ総司が「…皆さんの望みって、何なんでしょうね。」

進一「…望み?」

総司「例えば俺なんかは、黒船船長やりたいし、やると自分が決めたから、どんだけ管理に責められても船長続けて来た訳ですよ。だから皆も、もし本気でやりたい事があるなら、管理なんか関係無くやるだろうなって。」

武藤、頷いて「実際、源泉石採掘に行こうって時、そうだったやん。何がどうでも源泉石採りに行きたいと。」

満、溜息をついて「しかしそれが終わってしまった今…、新たな目標が見つからん…。」

剣菱「探すんだよ。穣なんかいつもそうだ。あいつは常に何か、新しい可能性を探してる。」

総司「…俺、思うんですよ。皆の本当のポテンシャル凄いなって。…前に、黒船だけで4隻分のイェソド鉱石採ったけど、マジで出来るのかと思ってたら皆が喜々として仕事してたので驚いた。源泉石バトルを見ていても…。」と言って暫し言葉を切ると「皆の底力はもっとある、イェソド鉱石採掘だけでは勿体ない。それを無意識に感じるからこそ、今、皆、鬱々してるのかなと。」

剣菱「実際、有翼種に認められたしなぁ。」

総司「皆もう管理に言われて採掘なんて絶対無理ですよ。自分達の可能性に気づいちゃったから。」

そこへ南部が「…とは言っても向こうに戻れば管理が…。無視する訳にもいかないし。」

途端にサイタン、南部を指差し「つーかテメェは管理に利用された癖に、何でそんな弱気なんだよ!管理をブッ飛ばしてぇとか、ねぇのか?」

南部「…。まぁ…。」と困ったように腕組みして溜息をつく。

そこへ船内放送のスピーカーから『給排水作業始めるよー。』と同時に外から若干ザザァーという音が聞こえて来る。

総司「管理を気にしたら同じ土俵に縛られるだけです。それより…。」と言って溜息をつくと「さっき有翼種の方に、源泉石採掘に参加してくれてありがとう、と言われたんです。5隻全部にですよ。もしも、ジャスパーの本部が、我々に対して『イェソド鉱石を採ってくれてありがとう』とか、有翼種のように本気で言ってくれれば、皆はもっとヤル気が出ると思うんです。」

陸「それは言える。」

満「確かにな。」

武藤、溜息ついて「そりゃせっかく採っても喜ばれない所か責められるんじゃ、ヤル気も無くなるわい…。」

総司「…で、実はさっき、ケセドの石屋組合の方が、我々5隻に石屋との取引許可を下さったんです。つまりそれは、良い石を採って来て欲しいという事ですよね?…我々は認められたんです、期待されたんです!」と言いつつ手に持っていた封筒を皆に見せるように前に出して、少し掲げる。

一同、ちょっとポカンとする。

ウィンザー「つまり何か売れそうな石を採って来て売ってもいいよっていう?」

陸「でも俺らは別に、イェソドで暮らす訳でもないんで…。」

総司「ヘッポコな採掘船に取引許可なんか出しませんよ、そもそもこっちが要求してもいないのに、向こうから来たんです!」

満「…なぜだろうな? 何か採って来て欲しいのか?」

総司「…向こうはこっちの事情を分かっているから無理強いはしません。人間と色々あって選考採掘に遅れて来た、それでも全力で源泉石を採ろうとした、彼らはそれをしっかり見てるんです。…つまり、管理みたいに『採って来い』ではなく、我々が望むなら、もし良ければ、仕事を頼みたい、という事なんです!」

一同「!!」衝撃を受ける。

満、唖然とした表情で「…我々が望むなら、だと!?」

ウィンザーも目を丸くして「もし良ければ頼みたい、って…!」

サイタン「説明が長ぇんだよ!シンプルに言え!そんな事ならやるに決まってんだろ!」

総司「…実は俺も今、考えながら話してて気づいた…。」

陸「それホントに?黒船だけじゃなくて?」

総司「5隻です!」と同時に他の4人の船長達も各自、封筒を皆に見せるように少し掲げる。

満「有翼種の方はそんなに我々を尊重して下さっているのかー…!」

進一「これは恩返しをしなければ!」

総司「皆さんが望むなら俺が明日、仕事を頂いて来ますよ!」

サイタン「やるぜやるぜ取って来い仕事!」

ウィンザー「何でもやらせて頂きます!」

陸「あの、できれば面白い仕事がいいです。源泉石みたいに難しいやつ…。」

ターナー「その方が頭をひねる事が出来るしな!」

満「うむ。遣り甲斐ある仕事を頼む!」

剣菱、総司に「アンタなかなかイイコト言うな。」

総司「…あともう一つ思いついた。」と言うと一同に向かって「皆さん、実は有翼種からもう一つ頼まれ事がありまして、イェソドで人工種を研究したり人工種について学びたいという学生が居るので、いつか人工種に詳しい先生を招きたいと言われたんですが。」

満「おお。」

アッシュ「先生なら、やっぱSSFの周防センセ?」

総司「どこぞのアンバーの穣さんが、イェソドにSSFの支部というか分室?を作りたいと言っていたので、マジで作っちまったらどうかと!…だって皆さん今後、有翼種の仕事を請け負って稼ぐ訳でしょう。そのお金でSSF分室を建ててしまうという手が。」

一同「…。」

総司「別に小さな事務所みたいなもんでもいいんですよ、皆でお金を集めて」

陸「俺は賛成です!ウチの製造師が喜ぶ。」

アッシュ「んー…ALF出身としてはあんまり」

総司「俺もALF出身なんだが。」と言い「人工種の研究が進めばそのうち異種間混血とか出来るかもしれないし、種の未来に貢献できるんですけど!」

武藤、総司に「そこはSSF関係者だけって訳じゃなく、誰でも来て研究していいんだよな?」

総司「勿論です!そもそも言い出したのはALF出身の穣さんだし。」

剣菱「あいつは人工種の街を作りたいんだとよ。その第一歩がSSF分室らしい。」

総司「まぁ護さんの家もですけど」

陸「街ぃ?!」と驚く

ターナー「とんでもない夢を抱く…。」

満「…。」

サイタン「何でもいい!とにかく俺は、源泉石採掘みたいに、この有り余るパワーをガチで使えれば満足だぜ!」

ウィンザー「俺らを大事にしてくれる人の為にね…。」

総司「じゃあまぁとりあえず、明日は俺が仕事を取りに行くという事で…今日はこのまま適当にフリーですね。」と剣菱を見る。

剣菱「仕事取るのは一緒に行くよ。今日は18時夕飯って以外は特に何も無いな。あ、そういやイェソド鉱石採掘をしないと。」

武藤「それは3隻がやるわい。」

満も「うむ。前回の借りを返さねばならん。」

剣菱「あれ?…3隻って、もう山麓のイェソド鉱石採掘場行けるの?」

武藤「うん行ける。有翼種の人に聞いといた。」

剣菱「なら3隻には午前中から採掘場で5隻分…いやカル船の分もかな。採ってもらって、あの遺跡で積み替えるか。」

武藤「うん」

楓「そうしましょう。」

剣菱「じゃあこの後、黒と茶色のコンテナを3隻の方に入れよう。カル船のは…」

そこへ満が「アンバーのコンテナは、我が船に!黒船のコンテナは、レッドへ。」

武藤「こだわる…。」

サイタン「よーし黒船のコンテナ貰ったぁ!…ガッツリ積んでやろーぜー!」

陸「ウチの船は何すれば…。」

サイタン「適当に積んでろ。」

満「ご自身の船の分を。」

陸「ちくしょーなんか悔しくなってきた。」

楓「待ってカルセドニー忘れてる!」

サイタン&満&陸「ああ!」

陸「カルセドニーします!」

楓「一緒にジャスパー戻るのかどうか分からないから、先方に聞いて、必要ならやります。」

剣菱「うん。…明日の朝は、3隻は何時に出る?」

武藤「…8時半頃?」と楓と南部を見る。

楓「うん、それで。」

南部「了解です。」

剣菱「黒と茶色はまぁ…街に行きたい人は行けって事で。」

総司、剣菱に「ふと思ったんですけど、有翼種の仕事を取りに行くの、明日じゃなく今から行きませんか。今だとあの石屋の方々、まだ本部に居ると思うんで。」

剣菱「ああ。んじゃこの船が駐機場に戻ったら行くか。」

総司、一同に「という事なので、皆さんで黒船とアンバーに押しかけて、メンバーに事情説明してコンテナを強奪…いや」

一同思わず「強奪?!」

総司「間違えた!コンテナ積み替え作業を」

サイタン叫ぶ「よっしゃー強奪しようぜ強奪!」

満「任せておけ!」

アッシュ「強奪だー!」

進一「強奪作業だー!」盛り上がる。

総司「……。」脱力してクッタリする。

そんな総司の横で爆笑する剣菱や武藤。

陸、総司に「大丈夫です総司船長!間違えたって分かってますから!」

総司は俯いたまま「…何だか知らんが強奪って口から出て来た…。」と言うと顔を上げて剣菱の方を見て「明日は、黒船とアンバーは昼頃にここを発って、遺跡で積み替えて、5隻がジャスパーに着くのは夕方という予定で。」

剣菱「そんな感じかなー。」

総司は大きな溜息をつくと「…しかし管理さんが喜んでくれなくても我々ちゃんと鉱石採って戻るんですからエライもんですよね。」

武藤「全くだ」

剣菱「全くだ!」

楓「…でもそれは、管理さんにとっては、当たり前の事なのよね…。そりゃまぁこっちはそれが仕事だし、当然っちゃ当然だけど、でも、要求が激しいというか…。」

武藤「管理って決めつけるよなー、人工種は鉱石採る存在だとか、人間に従って当然だとか。内地から出るなとか!」

楓「それ以外の考え方を受け入れないわよね。」

南部、ちとションボリして「…耳が痛い…。」

剣菱、南部に「…って思うアンタはまだマシだ!」

総司「ですよ。管理は鉄板ですから。そもそも聞いてないし。」と言うと「まぁ長年、人工種が管理の言う事を聞く人形になってたから、管理さんが増長していい気になっちまったというのも」

剣菱「ワガママな子はキチンと叱って教育しないとな。」

総司「…向こうがコッチに対してそう思ってんですよ…。」

剣菱「だから困るんだ…。」

総司「マジで我々が鉱石採らなくなったらどーすんだテメェらと思わなくもないですが。」

剣菱「…5隻が有翼種にこんだけ必要とされてるって知ったら管理さんビビると思うぞ。」

武藤「あっ!確かに!」

楓「それは言える!」

剣菱「ってか今、自分で言って気づいた。5隻がイェソドで、こ、ん、だ、け、必要とされてるって知ったら管理さんビビるよな!だって我々が鉱石を採らなかったら向こうの世界はメッチャ困る訳で!」

総司、ポンと手を叩いて「これはなかなか良い管理対策!」

そこへ南部がボソッと「すると…管理の皆さんが脅威を感じて人工種への締め付けが厳しくなるのでは。」

剣菱「…。」呆れたような顔で南部を見る。

総司「…。」上に同じ

武藤「…。」上に同じ

楓「…それで増々締め付けて皆が潰れて死んじゃったら、一体誰が鉱石を採るのかしら。」

南部「う、…うん。まぁ、そうですね…。」

剣菱、南部に「…じゃあ管理さんが脅威を感じないように、アンタはこのメンバー達を、管理の望み通りに抑圧すればいい。」

南部、慌てて「いや、そんな。」

総司「…貴方の本心は何なんでしょうね。皆に監禁されてもレッドに戻って来たのは何故なんです?」

南部「…。」

サイタン「…そのテメェの本心をブッ潰したのが管理なんだよ!」

途端に南部がハッとしたように目を見開く。

サイタン「テメェを、余計な事してウゼェ事ばっか言うクソ船長にしちまったのは管理なんだよ!」

南部「…。」

剣菱、微笑して「アンタ、いいメンバーに恵まれたな。…大事にした方がいい。」

南部、やや俯いて「…うん。」



暫し後。

駐機場には黒船とアンバー、そしてブルーが並んで停まっている。そこへレッドが飛んで来ると、ブルーの隣に着陸する。船底の採掘口が開いてタラップが下ろされ、南部以外の4人の船長がテクテクとタラップを降りるとその背後から採掘準備室に居た連中がダダダとタラップを駆け降りて喜々としてアンバーと黒船の方へ走って行く。

サイタン、元気に「行くぜ黒船、コンテナ強奪!」

ウィンザーも嬉しそうに「全部ブン取りましょう!」

陸「カルセドニー!今行くぞー!」

ターナー「って小型船エリアまで結構あるなぁ!」

剣菱と総司は、何だかんだ叫びながら走って行くメンバー達を見送りつつ、武藤と楓に「では行ってきます。」

武藤「いってらー。」

楓「行ってらっしゃい。」

そこへアンバーの方から満たちの声が聞こえて来る。

満「いいか問答無用で強奪するのだ!」

アッシュ「覚悟せいアンバー!ふははははは!」

進一「貴様のコンテナは我々が頂く!」

剣菱は総司と共に駐機場の出入り口へと歩きながら「テンション高ぇなぁ。」

総司「ってか高い時と低い時の差があり過ぎでは…。」

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