第23章 01

5隻の船はブルーを先頭に、レッド、シトリン、アンバー、黒船の順に一列に並んで真っ白な雲海を飛び続ける。

黒船のブリッジでは静流が操船を担当し、ネイビーが船長席に座っている。

そこへノックと共に入り口のドアが開き、ジェッソがブリッジに入って来ると、「あれ。」とネイビーを見て驚く。

ネイビー「船長、なんか疲れたからちょっと交代してくれって。上総君も、する事ないから休憩。」

ジェッソ「する事ない…。」

ネイビー「だって他船が先導してくれるから。後にくっついて飛べばいいだけだし。」

ジェッソ「…船長、大丈夫か?」

ネイビー「大丈夫よ。…この先、湖の手前、雲海が切れる辺りで一旦停まって5隻の隊列を変えるから、その時に船長と交代。ちなみに操船は静流さんから私に交代。」

ジェッソ「なんか初めてイェソドに行った時の事を思い出すなぁ…。」

ネイビー「まぁでも先日は特に何事も無く戻れたし。」

ジェッソ「しかし今回は、5隻で出発する時にかなりゴタゴタしたから…相手の反応が気になる。」

ネイビー「こっちはちゃんと鉱石採って戻ってきた訳だし、大人しくしてくれればいいんだけどね、管理さん…。」



暫く後。

5隻は高度を落として速度を緩めると、その場に一旦一時停止し、それからゆっくりと黒船とアンバーが並んで先頭のブルーの前に出る。次にブルーの左右にシトリンとレッドが出て来て、5隻の前後二列隊形が完成する。

黒船のブリッジでは総司がネイビーと交代して船長席に座り、ネイビーが操縦席に座る。上総もブリッジに入って来て操縦席の隣に立つ。ジェッソは船長席の総司の隣に立ち、戸が開け放たれたブリッジ入り口周辺には、恒例の野次馬メンバー達が集い始める。

総司、溜息ついて「大仕事になるのか単純な仕事になるのか…管理様次第だ。」

ネイビー、レーダーを見て「後方のレッドが上昇を始めたわ。…準備完了だって。」

総司「ブルーとシトリンも上がり始めた。…じゃあ隣のアンバーが上がったらウチも出発…って言ってる間にアンバー上がったから出発です。」

ネイビー「いっきまーす!」


黒船とアンバーを先頭に5隻が前進を始めると、やがて雲海が完全に切れて、夕日に赤く染まる空と湖が見えて来る。

ネイビー「雲海から出た。」

上総「今んとこは特に何も無いなぁ。この間みたいに、無事帰れる事を期待!」

湖を通り過ぎて、そのまま暫く飛び続ける5隻。

ネイビー「そろそろ管理波が来て、ジャスパーの航路ナビが復活すると思うんだけど…。」

太陽が沈み、辺りは一気に暗くなると同時に遠方に微かに街の明かりが見えて来る。

ネイビー不安げに「ちょい待って、なんか変。まさかこれ、管理波が来ないとか…」

総司「そんな気がしてきたな。」

ネイビー「いや待って、管理波のナビが無いと怖くて街に近づけないんですが!」

総司、溜息ついて「しゃーない、ちょっと減速!」

ネイビー「はい!」

総司「そんな手を使って来るとは…。」とカックリする。

上総「俺が探知をすれば」

ネイビー「ダメ、こっちは相手を探知出来ても相手の船はこっちを認識できない、衝突される危険がある!」

上総「あっ…!なるほ…。」

ネイビー「レーダーには映っててもナビに出てないと、相手が混乱するし」

総司「ってかこれってどういう…管理区域に入ったら自動的に管理波が来るはずだよな?」

ネイビー「んー…例えば探知妨害みたいなもんで、5隻だけ管理波に入らないようにされてるとか…そんな技術あるのかな?」

総司「知らん。…とりあえずこの辺で停止。」

ネイビー「…停船します。」

総司「これ他船がウチの船に衝突した場合は真面目に管理の責任ですからね。」

上総「とりあえずこの付近には船、飛んでないけど…。もっと街に近づいたら、確かに恐い!」

総司「もしかしてこれ、探知が居るからって街に突っ込んで事故って『管理波もねーのに突っ込んで来たテメーが悪い』と俺が叩かれて罰せられるっていう算段?」

ネイビー「え。…そんな策略、考えるかなぁ管理さん…。」

ジェッソ「やりそうで怖い。」

そこへリリリリと緊急電話が鳴る。

総司、溜息をついて「これって管理なのか、他船なのか、悩む…。」と言いつつ受話器を取ってスピーカーのボタンを押し「はい黒船です。」

剣菱『剣菱です!ビビった?』

総司「そりゃビビりますよ管理かと思うし!」

剣菱『管理波が無くて通常の通信が使えんからしゃーない!…何で管理波来ないん!』

総司「ですよねぇ。どうしましょうか。」

剣菱『こうなったら航空管理にSOS出すか。管理波が来なくて街に入れません助けて下さいって。』

総司「おお。…その手を使います?」

剣菱『うむ。俺がやる?』

総司「いや俺がやりますよ、では。」と言って受話器を置くと「管理波が来ないので、航空管理にSOSを発信します。」

ネイビー&上総「おお!」

上総「ホントのSOSやるの?!」と言って船長席に駆け寄る。

ジェッソ「マジですか!」

総司、「うん。」と言いつつ船長席の電話の上の赤いラインで囲まれた透明なプラスチックカバーを強く押してそのカバーを跳ね上げると「訓練以外でコレを押す事になろうとは…。」と言って、中の赤いボタンを押す。するとそのボタンの上部のSOSと書かれたランプが光りだす。

総司「これ周辺の船にもSOS行くから、他の4隻にも」と言い掛けたその時。

スピーカーからピピーという音と共に『こちら航空管理。どうしましたオブシディアン。』

総司はジェッソ達に「この通信は他の船にも聞こえる公開回線。」と言って受話器を取ると「黒船の総司です。管理波が来なくて困っています。」

管理『5隻がどうしてもジャスパーに戻りたいというなら管理波を出すが。』

途端に脱力した総司は受話器を持ったままガックリと項垂れる。

総司「…そりゃ当然、戻りたいので管理波出してくれませんか…。」

ジェッソ、総司の肩を掴んで密かに(…頑張れ!)

上総も密かに応援のガッツポーズを総司に送る。

総司はゆっくりと顔を上げて、椅子から立ち上がりつつ受話器に「…だってこっちは鉱石満載で戻って来たんですよ。それは要らないと?」

管理『何でも鉱石を採って来れば許されるという訳では無いのですよ。』

総司「一週間空いたので、そちらは鉱石無くなって、困ってるんじゃないかと思うんですが?」

管理『君達も、ジャスパーに戻れないと困るだろう?』

総司(…俺はもう疲れたわ…。)と天を仰ぐ。

上総とジェッソがそんな総司をジェスチャーで何とか励ます。野次馬の黒船メンバー達もブリッジの入り口から静かに応援する。

総司は虚ろな目で受話器に「…俺、もう独立しようかな…。」

管理『なに?』

総司は立ったまま片手を腰に当てると仁王立ちして「実はイェソドで有翼種の方から仕事を頂いて来たんですよ。先方が、ぜひ取引をしたいというので。どの仕事を請け負うか絞り込みに悩む程、沢山依頼が来ましてね。…で、ジャスパーではイェソド鉱石は要らないようなので、俺は黒船のメンバー全員を引き連れてこの船を降りて、向こうで新しい船を持って独立しようかなと。有翼種側の仕事を主にしますが、ジャスパー側でも何かご依頼があれば、やります。」

管理『そんな勝手な事は許されない。』

総司「じゃあどうすればいいんですか。…勝手に出て行ってごめんなさい、これからは管理さんの言う事を聞きます、と言えと?」

管理『君達には反省が必要だ。』

総司「では今度イェソドに行ったら、管理の命令で有翼種に頼まれた仕事が出来なくなりましたと先方に言いますよ。」

管理『…本当に、有翼種から仕事を依頼されたのか?』

総司「本当です。契約書、見ます?」

管理『勝手な契約をするから先方にも迷惑がかかるんだ。』

総司、呆れてガックリしつつ「…アンタら大丈夫か…。」と言うと「もう管理の皆さん、いつか5隻と一緒にイェソド行きましょ?…実際に有翼種と会って話をした方がいいですって。人工種を間に挟まず、管理と有翼種で話をして欲しい。」

管理『有翼種は狡猾で危険な存在だ。』という声に、ピーピーという音が重なるが、管理はそれを無視して『お前達は相手に騙されている。』

総司「コール音に重なって、貴方の話が聞こえないんですけど。どっかの船が呼んでますよ。」

管理『…どうぞ、レッドコーラル。』

南部『レッドの南部です。聞いて呆れるような会話が続いていますが、とりあえず我々の使命は皆の生活を支える為にジャスパーに鉱石を降ろす事です。それを阻む理由は一体何なのでしょうか。』

管理『我々管理の命令を聞かず』

南部『ヘッポコな命令するからです。もしあなた方が、真っ当で納得のいく命令をしてくれたら人工種も我々もキチンと聞きますよ。』

管理『お前達がしっかり理解しないからだ!』

南部『何を理解して欲しいんですか。管理とか人間は人工種より偉くて上だから黙って言う事を聞けって事ですか。…ちなみに私は人間ですが。』

管理『貴方と話す事は無い!』そこへまたピーピーとコール音が鳴る。

南部『なら他船と話して下さい。』

管理『アンバーと話す事は無い!』すると更にピーピーというコール音が増える。

総司「コールがうるさいんで回線を開いて頂けませんか!会話が聞こえない!」

管理『ちょっと待て!』そこで暫し間があってコール音が止むと、『いいか、余計な発言をするんじゃないぞ!』

満『一言だけ宜しいか、ブルーアゲートの満ですが』

管理『船長以外の発言は許さん。』

剣菱『アンバーの』

管理『アンバーと話す事は無いと言った筈だ!』

楓『じゃあシトリンとお話ししましょうか?…なぜそんなに人工種を支配しようとするの?』

管理『人工種を自由にしたら我々人間の立場が危うくなるだろう!』

楓『なぜ!』

管理『あれはまだ未熟な存在なんだ、有翼種に扇動されて我々に反旗を翻したらどうするつもりだ!』

南部『…もう結構反旗を翻した気がしますが。』

穣『いやまだだ、もっと反旗を翻したーい!アンバー穣でっしたー!』

管理『だから言っているだろう!』

総司「ってか反旗を翻されたくなかったら、とっとと管理波くれ。」

南部『そうですよ!管理が阻むから…あっ…』そこで少し間があってから

サイタン『ゴタゴタ言わずにとっとと管理波よこしやがれ、クソ管理!』

管理『なんだと、貴様、誰だ!』

そこへ『受話器返しなさい!』という南部の小さな声が聞こえ、ガサゴソという雑音と共に『もっと言わせろ!』『あんまり刺激しちゃダメです!』そこで雑音が消えて、やっと南部が電話に出ると『…失礼しました。』と言い、『本当に人工種を支配したいのなら、人工種の首についているタグリングへの管理波を、最大に強めたらどうですか。』

管理『我々は人工種を苦しめたい訳では無い!』

南部『違います。あなた方が、苦しみたくないからなんです。』

管理『なんだと?』

南部『タグリングへの管理波を最大にして、それでも人工種が屈しなかった時。管理は絶対に人工種を支配できないという現実に直面するからなんです。…でも、もう既に気づいているでしょう。以前、黒船から死を覚悟で逃亡した人工種が出た時に。』

管理『…。』

南部『恐らくその時、あなた方は、彼に対して全力で勝負して、完全に負けたんではないですか。…だからタグリングが効力を失って行った。だからどこぞの船で、船長を監禁するような人工種が出て来たんです。我々はもう、完全に負けているんです。』

管理『貴方は負けただろうな。』

南部、苦笑して『私は負けましたよ、完全に。』と言うと毅然とした口調で『貴方も負ければ楽になる。』

管理『…。』

不穏な空気と共に緊張を孕んだ暫しの沈黙。


その時、上総が総司の腕をつついてコソッと「…船が来ます。」

総司は会話が聞こえないように受話器を離し、小声で「どこの?」と言いつつレーダーを見て驚く。

上総「…謎の船…。」

管理は忌々し気に『…人工種に懐柔されるとは情けない。失望しましたよ貴方には。』

南部『では私をクビにするなりご自由に。…まぁ個人的にちょっと寂しいですがね、レッドの皆と別れるのは。』

そこで突然サイタンの『貸せ!』という声が聞こえると、怒鳴り声で『コイツをクビにしたらレッドはストライキ起こしてやらぁ!…少しは苦しみやがれクソ管理!』

管理『船長を降ろされたくなければ我々の命令を聞け!』

すると武藤が呆れ声で『またそれ…。もういい加減にしませんかいな…。』

楓『とりあえず話を戻して、ジャスパーに戻れないなら採って来た鉱石は一体どうすれば?』

武藤『積み荷、捨てるかー。』

管理『…今、そちらに鉱石輸送船が向かっているだろう。鉱石だけそこで積み替えてもらう。』

武藤『なんだとう?!』

楓『それで船が…。』

上総も総司も同時に「それで…!」

ジェッソ唖然として「馬鹿な…。」

総司はガックリと肩を落とすと「アホか、そんな…。」と呟く。

管理『君達をジャスパーに入れる訳には行かない。…反省するまではな。』と言うと『一週間も鉱石を採らず、勝手に好き放題して、我々をどれだけ困らせたか君達に分かるかね?』

総司は脱力して落としかけた受話器を持ち直すと、疲れ果てたように虚ろな目で「じゃあ分かりました、こうしましょう。…俺が黒船の船長を辞めるから、その代わり俺以外の全員をジャスパーに入れて頂けませんか。」

一同「!」

上総が驚いて「そんな」と言い掛けるが総司の手にバッと止められる。

総司「俺は黒船を降りて、駿河船長のように新たな船を持ちます、イェソドで。」

管理『…そんな勝手な事は』

総司「大丈夫ですよ、俺以外のメンバーは全員黒船に残りますから。俺一人だけイェソドに行きます、二度とこちらには戻りません。…だから俺以外の全員をジャスパーに入れて頂けませんか。」

管理『勝手な事は許さないと言っている。』

総司「じゃあ俺だけここで黒船から降りて、カルセドニーのカルロスさんが俺を見つけてくれるまで、雲海をウロウロしますんで、勝手は許さんと言うなら俺を捕まえて下さいね、…捕まえられるならば。って事で、他の全員をジャスパーに入れて下さい。」

管理『待て。』

総司「だって俺が目障りなんでしょう?黒船船長には相応しくないって何度も聞かされましたよ。新しい船長を用意してあるから辞めて欲しいと。」

管理『貴方がもっと素直で』

総司「管理さんの言う事を聞けばいいんですよね、副長時代の俺のように。」

管理『そう、副長ならば』

総司「俺は船長になっていい気になって傲慢になってワガママで自分勝手で反抗的になったんですよね。管理さんにとってはそれが心配なんですよね。こんなダメな奴に黒船船長させてていいのかと不安なんですよね。何度も何度も言われたから自覚してます。」

管理『そもそも人工種が船長などと』

総司「ええそうですね、人工種には人間と違って話が通じないんですよね、バカだから。何度も何度も嫌になるほど聞かされたから、よーく分かってます。だから船長辞めますよ。」

管理『貴方には反省が必要だ。』

そこへ突然、楓が『もうやめて下さい!』と悲痛な叫びを上げるとやや涙声で『貴方達はどれだけ彼を苦しめたら気が済むの?…彼が船長を辞めるというなら私も辞めます!』

武藤『俺も!』

総司「とりあえず、皆をジャスパーに入れて下さい。俺の願いはそれだけです。」

管理『…分かった。貴方がここで降りるなら』

途端に南部が『バカを言うな、本気で言っているのか?』

管理『彼は船長には相応しくない。』

南部、呆れて『どこまで強情なんだ貴方達は…。…信じられない、それが貴方達の本質だったのか。』

管理『我々がどれだけ彼に苦しめられたか貴様らに分かるか!我々の言う事を聞かず勝手に行動し、他の船まで巻き込んでこんな事態を』

総司「逆です!…だったら俺とか皆を大事にして下さい…、あなた方が苦しみたくないならば、俺達を尊重して下さい。そしたら俺達も管理の言う事を聞くし、皆が幸せになれるんです。思い通りにならないからって責めて叩き潰すから、あなた方も苦しむ羽目になるんです!」

管理『我々は君を尊重していた!人工種だが黒船船長にしてやっている。』

その会話を遮るように剣菱が『…今、周囲に輸送船がいる。この会話は彼らにも聞こえている。と言う事は、このまま動けば彼らが我々を護ってくれる可能性が』

南部『同感です剣菱船長!同じ事を考えていました。』

武藤『行こう!』

楓『行きましょう!ジャスパーへ』

管理『待て、航空船舶法違反に』

武藤の絶叫『んなもん知っとるわ!だってもう免許全部要らんし!』

途端に総司が「ダメです!」と叫ぶと「貴方の免許が無くなったら駿河船長が悲しむ!」

武藤『カルセドニーの貨物室に乗っけてもらうからええわい!』

総司「ダメです!」と言うと涙声で「俺が降りるから管理波を下さい!お願いします管理の皆様!」

武藤『あんな奴らに頭下げんな!』

総司、涙を流しつつ「だってもし駿河船長だったら今、絶対に貴方達を止める…!だって悲しすぎませんか、明日カルセドニーがこっちに来たら船長全員居なくなってるって、そんな、…そしたら俺は一体何の為に苦しみに耐えて船長を続けて来たのか…。せっかくあの人が俺を船長にしてくれたのに…あの人の信頼を柱に、俺はここまで耐えて来たのに…。」

武藤『…。』

総司、全身から絞り出すような悲痛な声で「なぜ、こんな理不尽な…。」

そこへ春日が『…大丈夫だ、この会話は全て記録してあるから、ここで航空法違反になっても裁判すれば絶対に勝てる。』

総司「えっ。」

春日『というか、勝たねばならない。こんな事が罷り通るなら航空法や航空管理の存在意義が無い!』

剣菱『全くだ!』

楓『うん!』

春日『だから行くぞ、ジャスパーへ。貴方もだ、総司船長!』

武藤『出発だ!』

剣菱『ウチが先導する、付いて来い黒船!』

その声にネイビーが涙を流しつつ「了解です剣菱船長!」と叫ぶ。

ゆっくりと動き出すアンバー、それに続く黒船。そして3隻がその後に続く。

管理、焦って『ち、ちょっと待ってくれ。』

そこへピーピーというコール音が鳴る。それは一気に増えて、コール音で管理の言葉が全く聞こえない程になる。

武藤の怒鳴り声『とっとと回線開け、耳が痛い!』

すると突然コール音が止み、少しの間の後、スピーカーから聞き慣れない男の声で『あ、あ、…あれっ?ああ、回線開いてた。アンバーの前方に居る大型輸送船C1です、ウチの船が航路の先導をするから付いて来て下さい。』

剣菱『えっ、あ…ありがとうございます!』

更に別の男の声で『もしもし? えーと、安全の為に緊急信号出して5隻の周囲を何隻かで囲むように飛びますから、安心して下さいね。』

剣菱『助かります!』

総司も「…ありがとうございます…。」

男『…我々の仕事はあなた方が採って来てくれる鉱石で成り立ってるんです。だから当然の』

その時、管理が『勝手な通信を…、混乱して来たので回線を切る』と言い掛けた瞬間

春日が咄嗟に『切るな!』と怒鳴ると『ここで回線切ったらどうなるかワカランのか馬鹿野郎!事故起こしたくないなら回線開けとけ!』

管理『…。』

春日『ってかこれ重大案件だからな!…こんだけの事しといてただで済むと思うなよ、真面目にアンタら覚悟しとけよ本当に!』

管理はそのまま沈黙する。

総司は放心したように、受話器を口元から離して小さな声で「やっと…」と呟くと、目からポロリと涙を零し、俯いて、受話器を上総に押し付けるようにして持たせると、「この苦しみを…」と言い崩れるように椅子に座り込み、堪らず両手で顔を覆って「分かってもらえた…。」と言って声を殺して号泣する。

そんな総司を、上総は驚いた表情で呆然と見つめる。

ジェッソは屈んで総司の肩を抱き、自分も静かに涙を流す。


既に真っ暗になった夜空を、大型輸送船を先頭に、5隻は様々な船に囲まれてジャスパーへ向かって飛んでいく。