最終話

それから5日後の朝7時。

イェソドのターさんの家の玄関前の庭木の下では護が野鳥たちにエサをやっている。

そこへ右肩にゴツゴツ妖精を乗せたカルロスが近づくと、頭に鳥を乗せた護を見て「随分、懐いたな。」と言った途端、野鳥が頭の上からバッと飛び立つ。

護「カルさんも懐かれてるじゃん、お石様に。」

カルロス「…まぁな。しかしアンバーなかなか来ないな。7時になるのに。」

護「見送りしたいから7時に行くって言ってたんだけどねぇ、穣さんが。…まぁケセドには8時までに着けばいいし。大死然に出発するのは9時だから、それまでにチョコッとでも会えれば。」

カルロス「大死然、楽しみだな。おや?」と何かに気づく

護「微かにエンジン音がする。アンバー来たかな。」

カルロス、怪訝そうな顔で「んん?」と首を傾げる。と同時にバランスを崩したお石様がカルロスの肩からコロンと落ちる。悩み顔で「音はするのに…」と呟いたカルロスは突然ハッ!として「なんてこった探知妨害じゃないか!」

護の足元でヒマワリの種をついばんでいた野鳥たちがカルロスの声に驚いてバッと飛び立つ。

護「…なんで妨害?」と訝し気な顔でカルロスを見る。

カルロス「知らん!…エンジン音はあっちからだ!」と庭木の下から出てカルセドニーの船体近くに走って遠方の空を見て「おお?」

護もカルロスに続いて走って来て空を見上げて「おお!」と叫ぶと、バッと踵を返してターさんの家の玄関に走って行きドアを開けた瞬間、駿河と出くわす。

駿河、靴を履きながら「今行くよ。アンバー来た?」

護「ってか…。」

靴を履いた駿河は立ち上がって「なんかエンジン音が…、まさかとは思うけど」と言って玄関から出て空を見て目を丸くする。

護は家の玄関ドアに鍵を掛け、駿河の背後にやってきて「…5隻来た。」

5隻の採掘船はターさんの家の上空にやって来ると、家の前に停めてあるカルセドニー側に船首を向けて、黒船、アンバー、ブルー、レッド、シトリンの順に並んで着陸する。その模様をカル船の船体の前で唖然とした表情で見つめる3人。ついでにお石様と妖精達もやって来る。

護「なんてこった…。」

やがて各船のタラップが下りて、メンバー達がタラップを駆け降り護達の所にやって来る。

穣「おっはー!ジャスパーの採掘船5隻、ただいま参上!」

マゼンタ「おはようイェーイ!」と走りつつ右拳を上に上げてジャンプしながら「カルセドニーよ、驚いたか!」

護「…お、驚いた。アンバーだけ来ると思ってたのに…。」

穣、フヒヒと笑って護達を指差し「まんまと策に引っかかったな!」

護「策って。」

5隻の一同がカルセドニーの船体の前に立つ3人を取り囲む。

駿河は戸惑い顔で「なんで…。」

武藤はニヤニヤしながら駿河の前に近寄り「駿河、おはようさん!」

駿河「お、おはよー…。」と言うと「何でターさんが居ない時に…。」

護も「この光景をターさんに見せたかった…。5隻揃った所を!」

武藤「ターさんって、そこの家主か。」と背後の家を指差して「採掘船ブルートパーズの人だろ?」

護「うん。あれは主力の船だから、ターさん昨日からケセド行って船に乗って準備とかしてる。」

武藤「ってかアレが、駿河たちが暮らしてる家かー。」

満「家賃は払っているんだろうな?」

護「…。」

武藤、満に「まぁ細かい事は気にすんなや。」

駿河「一応、稼いでますんで…!」

そこへ「カルちゃーん!」という声と共にジュニパーがカルロスにハグしようと突撃しつつ「激励に来たわよ!」

カルロス身を引いてかわしつつ「そ、それはいいが…。」

ジュニパー、フッと笑って「流石のカルちゃんも、アタシと王子とお坊ちゃまと弟子2人の探知妨害総攻撃には勝てなかったわね。」

カルロス「え。…そもそも全く予期せんかったし…。」

礼一が喜々として「勝ったぁ!」

上総も「勝った!」

マリア「わーい!」

カルロス「…総攻撃されても…。」

武藤「で、護さんの家はどの辺に建つん?」

護「ほぇっ?」と目を丸くして「まだ具体的に考えてないけど…、この辺に…。」

ジュニパー「そのうちここにSSF分室が建つわよ。…ちなみに駿河さん。」

駿河「はい?」

ジュニパー「SSFに行ったら周防先生と紫剣先生が凄く喜んで、貴方の子供を絶対作りたいって!」

駿河「………。」赤面

上総も「別に分室じゃなくても、ジャスパーのSSFで作れるから安心しろって。」

さらに陸も「うん。遺伝子さえあれば年齢は関係無いからいつでも大丈夫だと!」

ジュニパー「何なら死んだ後でも」

武藤「死後!」

楓「それはダメよ!生まれた子供が可哀想じゃない!親が居ないなんて。」

満「まぁ仮にそんな事になったら我が十六夜一族で責任持って育てて」

穣「ちょい待て!それはやめとこうぜ…。」

駿河「ま、まぁまだまだ先の話だし…。」

上総「んでも周防先生たち、凄い喜んでた。やるべき使命が出来たからカナンさんみたいに120まで生きねば!って。」

カルロス「…ほぅ。」

陸「…ちなみに有翼種側から要望された人工種学の先生は、ウチの紫剣先生が行く事になりまして。」

カルロス&駿河「ほぅ!」

陸「ただ紫剣先生、来月まではちょっと無理って事なんで、それをイェソド側に伝えて今、日程とか調整中です。」

ジュニパー「SSF分室は有翼種の研究者と一緒に建てることになったの。」

陸「うん。それこそがイェソドの分室の存在意義だと」

護「なんか色々と物事が進んでるね…。」

駿河「あれからまだ数日なのにな。」と言うと総司を見て「ちなみに、管理さんのご機嫌はどんな感じ?」

総司「管理さんは大人しくなりましたよ。最近会ってないし。」

駿河「そうか」と微笑む。

そこへ春日が「つい先日聞いた所によると、なんか管理さんは辞める人続出で、人手が足りなくて困ってるみたいですよ。」

一同「!」

南部「本当に?」と春日を見る。

総司「それホントですか?」

剣菱「マジですか!」

春日「噂を小耳に挟みました!…まぁ、引き留めた方がいい人を、引き留めないと、ヤバいんじゃないかなぁ。」と言ってニヤリ。

総司「なるほ…。そういう感じですか。」

剣菱ニッコリして「いい感じだ。」

南部も「いい感じですね。」

護「…ところで皆さん、俺達の見送りした後どうするの?」

穣「5隻で採掘バトル!」

護「え。」

ジェッソ「イェソド鉱石採掘場で、黒茶と3隻の勝負を!」

穣、喜々として「だって5隻で同じとこで一緒に採掘した事ないし!」

駿河「なんかメッチャ大混雑しそう…。」

ジェッソ「だからローテーションしながら採掘するんです。んでどっちが早く満載にするか!」

駿河「2隻と3隻で?」

途端にサイタンがジェッソを指差し「あいつら1隻で4隻分採るようなアホだぞ、3隻で総力かけてブッ潰しておかなきゃなんねぇ!」

駿河「…なにゆえに…。」

満は穣を指差し「穣、貴様も潰しておかねばならぬ!」

穣は満を見て「この石頭も叩いておかんとなー。」

サイタン、陸を指差して「そこの黄色は道連れだ!」

陸「へいへい。」

そこへカルロスが駿河の腕をつついて「そろそろ行かないか。」

駿河「ああ。」と言って一同に「ではウチの船はこれからケセドへ行って船団に合流します。」

穣「大死然に出発すんの9時だよな、でもケセドの駐機場は大死然採掘関係の船以外は停められないし、5隻で上空をウロウロするのも邪魔になるから、お前らへの見送りはここでする。」と言うと「皆さん、ここでカルセドニーの見送りだー!」

一同「おー!」

透、手を振り「頑張れぇ!」

バイオレットも「頑張ってー!」

ウィンザー「頑張れカルセドニー!」

春日「応援してるー!」

アッシュ「頑張ってー!」

礼一「気合じゃー!」

聖司「頑張って下さーい!」

コーラル「がーんばー!」

メリッサ「頑張って!」

昴「ご安全に!」

皆それぞれ励ましの言葉を叫ぶ。

護、「ありがとー!」と皆に手を振りつつカルセドニーの船体の方を向いて「…なんか恥ずかしい…。」

カルロスも「…参ったな。」と言いつつカルセドニーの搭乗口の方へ。

駿河も皆に「ありがとう!」と言ってカルセドニーへと歩きかけた、その時。


総司「ありがとう、カルセドニー!」


その一際大きな叫びに、思わず立ち止まる駿河。バッと振り向いて総司を見る。

駿河から貰った人間用の船長制服を着た総司が、制服の胸に手を当てて駿河を見つめている。

更に上総が真剣な顔で「ありがとう、カルセドニー!」

ジェッソも真顔で「ありがとう、カルセドニ―!」

ネイビーや静流やレンブラント達も「ありがとう、カルセドニ―!」

さらに武藤が「ありがとう、カル船!」

礼一が「カル船サンキュー!」

綱紀が絶叫する「ありがとうー!カル船ー!」

ジュニパーも「ありがとーカルちゃああーん!」

クォーツ「ありがとうー!」

春日「ありがとう!」

輪太「ありがとうございまぁぁーす!」

どこからともなく拍手が起こり、それは大拍手になる。

駿河達3人は呆然とその様子を見ていたが、やがて駿河がちょっと微笑して「…ありがとう、皆さん。」と言うと、きちんと一同の方に向き直り、満面の笑顔で凛とした声で「では、行って参ります!」と叫んで深々とお辞儀をすると、カルロスと護の方を向いて「出航するぞ!」と叫んで搭乗口から船内に入る。

護は「はい!」と返事をし、搭乗口の所で一同に「皆、ありがとう!」と叫んで船内へ。

カルロスは搭乗口の所で皆にちょっと一礼し、「皆さん、こちらこそありがとう!」と言うと船内に入って搭乗口のドアを閉める。


カルセドニーのブリッジに入った護は、「びっ…くりしたなぁ…。」と言いつつ操縦席の駿河の後ろに立つと「なんか皆、雰囲気変わったよね。何かあったのかなぁ。」

そこへカルロスもやって来て「何だか知らんが照れるじゃないか!…まぁ元気なのは良い事だ。管理さんも大人しくなったらしいし。」

駿河はエンジンを始動させて「…大死然の写真を沢山撮って、後でブログに載せよう。皆に未知の世界を見せたい。」

護「削除されないといいねぇ。」

カルロス「もう大丈夫な気がする。」

駿河「では発進!」


カルセドニーはゆっくり上昇すると、5隻の採掘船の上空をぐるっと一周してからケセドへ向かって飛んでいく。

5隻のメンバー達は手を振ったり声援を送りつつ、それを見送る。

春日、ボソッと「大死然かぁ…。どんな所なんだろうな。」

輪太、満面の笑みで「後でカルセドニーの皆さんが教えてくれます!」

武藤、ちと溜息ついて「…ほんとアチコチぶっ飛んでいくよなー…駿河。」

満もため息交じりに「我が船も大死然に行ってみたいものだ…。」

総司「…いつか行けるかもしれませんよ。」

武藤「んだ。心の底から行きたいって思ったら何がどうでも行くだろ。」

満は2人を見て「…確かに、そうですな。」と微笑む。

空の彼方に消えて行くカルセドニーの船影。


総司「よし、では皆さん、鉱石採掘場に移動しますか。」

サイタン「戦場だ戦場!」

アッシュ、サイタンを見て「あの人、いっつも熱い…。」

サイタン「ったりめーだ、どこぞのカル船がどんどんどんどん新しい世界を開拓しちまうからよ!鬱々してらんねー!」

すると陸が大きく頷き「うん、ここにSSFの分室を建てなきゃならないし!」

サイタン「おめーはそっちに熱いな…。」

穣「んでもって、街!」

サイタン「…なんかもう、お前らと付き合ってると無理な事はねぇような気がしてくる!」

その言葉に一同ちょっと笑う。

満「全くだな…。」

穣「だってまずやってみないと無理かどうかわかんねーし!やってみて無理だったら別の事考えたらいいし!」

満「それは行き当たりばったりと言わんか…。」

穣「最初っから無理って思って諦めるよりマシだと思うんだぁ俺はー!」

陸「同感です!」

サイタン、思わず陸を見て「おめーが言うな!」

総司、笑いつつ「人は変わる…。」

剣菱も微笑んで「変わるねぇ…。」

穣「ここに護の家が建ったら採掘船の施設も建てようぜ。あー、カルロスの石茶屋も。」

サイタン「だから早く戦場に行こうぜ!…なんか妖精も増えて来たしよ!」

ウィンザー、足元に来た妖精を抱き抱えて「野次馬だって。何をするのか面白そうだと言ってる。」

穣「面白いぞ!」

マゼンタ「面白いぞぉ!」

ジェッソ「…今日、5隻で鉱石を沢山採っておけば来週はEL鉱石とケテル採掘に集中できる。じゃあ船に戻って出発だ!」

総司「行きましょう!」

マゼンタ&悠斗「よっしゃー!」

進一&礼一「打倒、ラスボス黒船総司!」

サイタン「俺達はもう人形じゃねぇからな、暴れるぜぇー!」

アッシュ「爆裂しますぜぇぇい!」


5隻のメンバー達は妖精を引き連れて、それぞれの船に駆け戻る。

全員が船内に入ると各船タラップを上げ船底の採掘口を閉じてエンジンを始動する。


『…そう、俺達はもう、人形じゃない。何があろうと二度と、人形にはならない。』


黒船が上昇し、続いてアンバー、ブルーアゲート、レッドコーラル、シトリンの順に上空に上がる。


『自己意志で、未来を切り拓いて行く!』


晴れ渡る快晴の空、朝の澄み切った空気の中を

5隻の採掘船は眩い太陽に照らされつつ、空の彼方へ飛んでいく。



紺碧の採掘師2 -カルセドニーの記録- 2023年6月WEB掲載版  -完-