第6章 02

レッドのブリッジでもクォーツが驚きの声を上げる「船長、本船の後方に管理の船が!」

そこへリリリリと緊急電話のコールが鳴る。南部は受話器を取って「レッドコーラル南部です。」と言うと「…はい。なるほど。了解しました。」と言って受話器を置き「…黒船の意志を聞かねばならん。」

クォーツ「意志?」

南部、やや楽し気な表情で「我々をイェソドに連れて行く気があるのかどうかを。」と言いつつ通常の通信用電話の受話器を取る。

クォーツ「…。」困惑の顔で南部を見て(いつもの船長と、違う…。)。


黒船のブリッジにトゥルルルという電話のコール音が鳴り響く。

総司「…どこの船かな。」と言いつつ受話器を取り「はい黒船です。」

ジェッソ、密かに「管理からの緊急電話が来ると思ったが…」と呟く。

総司は物凄い辟易顔で受話器に「…どこへって、現場に向かってるんですが。いえ今日はイェソドに行かず内地で作業します。…そうですイェソドには行きません。なぜと言われても、こちらにも事情がありますので。…では。」と言って電話を切り受話器を置くと、大きな溜息をついて「レッドの船長はヤバすぎる!」

ジェッソ「管理に利用されてるのか、それとも自ら管理にくっついたのか。」

総司「さーて次は何をして来るのかな!」

ジェッソ「…管理さんからお電話かなぁ。」



所変わってブルーアゲート。

満が一人、何か思案しながら船内通路を歩いている。

(…どうしたものか、どうしたものか…。)と悩んで溜息をつくと(私の覇気が上がらん…。何をするにも気力が足りん…。)そこで立ち止まって天を仰ぐと(人工種の人生とは!如何に生きれば…!)それから再びゆっくり歩き出すと(こんな事ではいかん…。しかし一体どうすれば…)

悩みながらブリッジのドアをノックして戸を開け、中に入る。

満「船長、現場まではどれほど。」

武藤「何も無ければあと15分位。…それにしても管理も突然意味不明な事を言うよなー。イェソド行けとか。」

すると操縦席の八剣が「何か悪いものでも食べたんでしょうか。」

満「ああ、今朝の会議の話ですか。聞けば4隻居たとか。」

武藤「うん。…黒船船長も事情が分かってない感じだったし、あれ絶対無理矢理やん。」と言うと「何にせよウチの船には関係ないし。管理様が何か言ってきたら臨機応変に対応するだけだー。」

満「…ちなみにイェソドとはどのような所なんでしょうな。」

武藤「護さんが流れて行ったとこ。」

満「まぁそうですが。」

武藤、ちょっと黙ってから「…ネットで『イェソド』で調べると駿河のブログがヒットする。…と、明日香さんが言ってた。」

満「駿河のブログだと…? ちょっと調べて来るか。」と言いブリッジから出る。


満は通路を歩いて自分の船室に入ると、ベッドサイドの棚の貴重品保管用の引き出しのカギを開け、中からスマホを取り出して検索を始めると、すぐに『カルセドニーの記録』というブログに辿り着く。

暫くブログを見て(…可愛いな。)と思った瞬間ハッ!として(いかんいかん男が可愛いなどと思っては…!)と右手で額を抑え、(なんという事だ…。)と深刻な顔で悩む。(…その昔、透に向かって『男が可愛い等と言うな!』と怒鳴っていた私が…。…だが、これは…。この妖精という存在は…。)

満は深く長い溜息をつくと「…可愛い…。」

そこへ船内スピーカーからピピーという音が鳴ると『採掘監督!急いでブリッジへ!』

ハッと我に返った満は、急ぎスマホを引き出しに仕舞って鍵を掛けると船室を出る。


満がブリッジに入るなり、武藤が「今、管理様から電話が来た!」

満「何と?」

武藤「黒船を止めろと。」

満「またですか。…しかしなぜ黒船を止めねば…」

武藤「管理様の言う事を聞かんから。つまり3隻をイェソドに連れて行くのは嫌だと。」

満「…それはいけませんな。」と言うと「黒船を止めるのはブルーの役目、やらねばならぬ。」

武藤「いつからそんな事に」

満「前回のリベンジを」

武藤「むぅ…。黒船の船長にはスマンけど、我らの命運もかかっている。管理様のご機嫌は大事…という事で八剣君!黒船に進路を取れ!」

八剣、礼一に「探知の方、進路を下さい!」

礼一「…黒船はあっちです。」と右手で方向指示をしながら「許せ総司、お前に向かって突撃だぁー!」



レッドではブリッジ前の通路にメンバーが集まって、南部の話を聞いている。

南部「どうやら黒船は他船をイェソドに連れて行きたくないらしく、管理から黒船を止めろと命令が来ました。他船も協力に来ますが、何とか皆さんで黒船を止めましょう。…サイタン君。」と一同の後方にいるサイタンを見ると「お願いできますね。貴方ならできる。」

そこへ輪太がおずおずと手を上げて「…船長、質問です!」

南部「何かな。」

輪太「どうして黒船は、他の船をイェソドに連れて行かないんですか?」

南部「それを聞く為に、黒船を止めねばならないんだ。電話では話が通じないのでね。直接交渉しないと。」

輪太「…そうなんですか…。」

南部「という事で、サイタン君。」

サイタン、イライラした様子で「…るせぇな…。」と言うと「ウィンザー!」と怒鳴る。

ウィンザー「は、はい。」と返事して前に進み出ると、南部に「俺が…。行きますけど、何をしたら…。」

南部「…まぁ他船も来てくれるから大丈夫でしょう。」と言い「とりあえず船を停船させて、船長と直接話をさせて下さいとお願いするんだ。」

ウィンザー「…拒まれたら?」

南部「どちらにせよ管理が来る。…素直にイェソドに3隻を連れて行ってくれればいいんだが。」

ウィンザー「つまり…管理が来るまで黒船を止めておく、みたいな…?」

南部「うん。」

ウィンザー「…はぁ。…何とか頑張ります…。」と溜息をつく。



シトリンでは、何人かのメンバーが船長席の周囲に集って頭を悩ませている。

楓、大きな溜息をついて「何の連絡かと思えば、黒船を止めろって…。もぅ…。管理の考えてる事が良く分からない。今朝の会議といい、一体何がどうなってるの…。」と項垂れる。

ジュニパー「どうしましょ、監督?」と陸を見る。

陸「止めろと言われてもねぇ…。そんなのやった事ないし。」

操縦席からコルドが「とりあえず船を黒船の上に着けて、甲板に降りて、話をするとか。」

楓「それ黒船が停船してくれないと無理じゃない?」

コルド「速度を合わせたら飛びながらでも…無理かなぁ?」

陸「風使いが居るからワイヤーとかも使えば、出来なくはないけど…。」

ブリッジの入り口の壁際で、一同の話を黙って聞いている綱紀は、つまらなそうに欠伸して(…なーんかゴタゴタしてるな。まぁ俺には関係無いし。)

そこへトゥルルルと電話が掛かって来る。楓は受話器を取ると「はいシトリン楓…えっ、南部船長。」と若干驚く。それから「…えっと…、レッドが上で、シトリンが下ですか。黒船の下に行けばいいんですね、わかりました…。」と言い受話器を置くと「レッドが、一緒に黒船を止めましょうって。」

陸「上と下で挟むの?」

ジュニパー「サンドイッチ作戦ね。」

陸「あのさ。黒船の下って事は、黒船のメンバーがウチの船の甲板に来るって事もあり得るんでは。」

一同ちょっと黙る。

楓「でもレッドが上から黒船の甲板に降りるから…。黒船はそれに対処しないと。」

陸「…下にも来そうな…。まぁ、やってみるしかないか…。」

ジュニパー「来たら来たで歓迎してあげればいいのよ!」

陸「…うーん…。」悩む。

楓「それよりも…」と言って以前、事務所で総司と出会った時の事を思い出して(…あの目…。)

ジュニパー、楓を見て「なぁに?」

楓「…黒船に…まぁでも管理さんが止めろって言うならやるしかないわね…。」と言いつつ俯いて(…なんか、罪悪感…。ごめんなさい総司船長。だって管理が怖いんです…。)



所変わって再び黒船。ブリッジにトゥルルルという電話のコールが鳴り響く。

総司「今度はどこかな。」と言いつつ受話器を取り「はい黒船です。」

ジェッソ「…管理からの緊急コール来ないな…。」と呟く。

総司、電話しつつ「はぁ?甲板で話し合いですか?」と声を上げてジェッソを見る。

ジェッソ「…。」

総司「もし、お断りしますと言ったらどうなるのでしょうか。」

南部『ではそのように管理側にお伝えしますので。』

総司「いや待って下さい。もし仮にという事を言っただけです。」と言うと「…なぜ貴方はそんなにイェソドに行きたいんですか?」

南部『管理側の要望ですから。』

総司「…いや貴方が…。」と言って一旦言葉を切ると「…なぜそんなに管理の言う事を聞くのかと。」

ジェッソ、ちと驚いて「お。」

南部『それが船長としての務めですよ?…逆に貴方はなぜ反抗するんです?』

総司「…。」暫し悩んで溜息をつき「貴方も話が通じない人のようですね。」と言うと、「いいですよ、話し合いに臨みましょう。」

南部『理解が速くて助かります。では。』通話が切れる。

総司、受話器を置くと「副長、停船してくれ。レッドが話し合いに来る。」

ジェッソ「そこまで管理とくっついた船とは思わなかった。」

上総「クォーツの船が…。」

総司、溜息ついて「なんか…。昔さ、黒船がアンバーを止めようとした時、剣菱船長こんな気持ちだったのかな…。」

途端にネイビーがちょっと笑って「そうねー! 駿河船長にマジで怒ってたからね!」

総司「…ブルーが黒船を止めに来た時は、駿河さん相当辟易してたけど、俺は面白かった。」

上総「あれは爆笑した…。」

総司「次はレッドだ。」と言ってジェッソを見ると「俺が出るべきかな。」

ジェッソ「とんでもない!貴方はここに。採掘監督の出番です。」

総司「じゃあ船内放送で皆にお知らせしよう。」と言い受話器を取ると船内放送のボタンを押し「船長です。事態が急展開しまして本船は今、管理の船に追われています。」そこで一旦言葉を切ると「…今、レッドから連絡が来まして甲板で話し合いをしたいという事ですので、ヒマな方は採掘監督と共にレッドの相手をしてあげて下さい。宜しくお願いします。」


黒船は速度を落とす。その後方にどんどん近づくレッドと、やや遅れてシトリン。

その周囲を緩く囲むように管理の船が散開しつつ近づいて来る。その遥か彼方にブルーの船影。


ブルーのブリッジ前の通路では、一同が集って満の話を聞いている。

満「…何の因果か我々は再び黒船を止める事となってしまった。今こそ前回の雪辱を果たす時…。狙うは船長、最初から出てきてくれればいいが、恐らく彼らは抵抗するはず。」

進一「ついにウチの一族の総司さんがラスボスに…!」

アッシュ「ラスボス昇格おめでとう!」

クリム「あんまりめでたくない気が」

その時、ブリッジの方からトゥルルルという電話のコール音が聞こえて来る。

満「船長が抵抗すれば捕縛も止む無しと。」

アッシュ「捕縛!」

進一「総司さんを縛るのか…!」

満「という事でだ。黒船に突撃するメンバーだが」

進一「参戦希望!」と手を上げる。

アッシュ「俺も!」

クリム「俺も!」

そこへ武藤が「監督!」と叫びつつブリッジから出てくると「レッドから連絡で、一緒に黒船を止めませんかと。」

満「ほぉ?」と怪訝そうな顔をする。

武藤「いいですよって返事したら。レッドの上に着けてくれって。」

満「返答済みでしたか。」と言い「…先方と共闘するならそんなに人数は要らんな。」

武藤「共闘て。」

満「先ほどの3人の勇者を連れて行く事としよう。」



黒船に近づくレッド。

上部甲板へのハッチ前では、ウィンザーが悩んでいた。「…一緒に行くのは…クラリセージと、バーントシェンナ…あと、カイトさん…かなぁ…。」

南部「うん、それで行こう。」

ウィンザー、溜息をついて「何とかやってみます…。」

南部「まぁ特にこちらから手出しする事は無い。向こうが荒っぽい事をしてきたら、その時にはやり返すしかないが。」

ウィンザー「正当防衛ですね…。」

南部「ブルーのメンバーがサポートしてくれるから大丈夫だ。…そろそろ彼らを迎えよう。」

ウィンザー「では…ハッチ開けます。」


レッドの上部甲板のハッチを開けると真上にブルーの船底がある。既に船底の採掘口は開いていて、そこから満がレッドの様子を伺っている。

ウィンザーは甲板に出ると、満に「ブルーの方、こちらへどうぞ!」と叫ぶ。

満は自分の背後に待機しているメンバー達の方を見て「船内の事はお前に任せたぞ、歩!」

歩「はい。」

それから自分の耳に着けたインカムに「では船長、行って参ります。」と言うと「行くぞ!」と叫んでレッドの甲板へ飛び降りる。続いてアッシュグレー、進一、クリムゾンレーキの3人もレッドの甲板に飛び降りる。

満はウィンザーに近寄ると「ブルーの満と申します。宜しく。」

ウィンザー「レッドのウィンザーです。こちらへどうぞ」と満達をハッチ内へ招き入れる。

一同は階段を下りて船内通路に出ると、その先の中央階段へと向かい、中央階段を下りて採掘準備室に入る。

ウィンザー「黒船の上に着くまでここで待機です。」

するとアッシュが「久しぶりですねウィンザーさん。」

クリムも「やっほーバーント!」

満「お前達、静粛に!」

進一「だって久しぶりに会ったので。」

そこへクラリセージが「もしかして同じ製造所生まれの連中なのか。」

進一「うん、ALF!俺は江藤一族、アッシュとクリムとバーントとウィンザーさんはレストール一族!」

クラリセージ「レストールも人数多いよな。俺はMF生まれのSU。」

満「周防か。…私は十六夜一族だ。」


一同から少し離れた所でその様子を見ていた輪太は、ちょっと寂し気な顔で(…いいなぁ皆…。)

それから静かにその場を離れると、階段室の方に向かう。俯いて歩きながら(僕は、自分の製造師の事を言えない…。…僕には『仲間』が、居ない…。)

突然、前から「どうした輪太君。」と名前を呼ばれて思わず立ち止まる。顔を上げると目の前に春日が立っていた。

春日「イェソドに行けるといいな。」と微笑む。

輪太「うん。…でも…。」と言って言葉を切ると「…もし、黒船の皆さんが嫌なら、行けなくても…。」

春日「なぜ?」

輪太「だって、そんなの駿河さんが喜ばないし。」

春日「へ?」とちょっと驚く。

輪太「…僕、駿河さんに希望を貰ったから恩返ししたいんです。だから無理にイェソドに行くのは、…嫌なんです。」

春日「…。」

輪太「もし叶うなら、もし出来るなら、駿河さんに、…良く頑張ってイェソドに来たなって、褒められたいんです、でも…。」と言い少し黙って「僕には無理かもしれないから、イェソドに行けるチャンスがあるなら行ってもいいのかも…。」

春日、黙って輪太を見ていたが「…そうだな。本当は、凄く行きたい奴だけが、行けばいいんだ。」

輪太は背後を振り向き、採掘準備室に集うメンバー達を見ながら「皆、行きたいんだと思います。」

春日「まぁなぁ。」

輪太、溜息をついて「ただ僕は…。」と言うと、踵を返して階段室の方を向き「黒船には同じSSFの仲間も乗ってるし、無理したくないんです。」と言って階段室の中へ歩いて行く。

春日「…。」