第8章 02

黒船の出発を見送りつつ、駿河とカルロスはカルセドニーの船体近くの丁度良い大きさの岩に腰掛けて、他船のメンバー達をボケッと眺める。

駿河「なんか疲れたな。管理が突然、妙な事をするからだ…。」

カルロス「石茶でも淹れるか…。」

駿河「おや。」ふと見ると輪太と春日が駿河達の方に歩いて来る。

春日、手を挙げて「やあ!」

駿河、春日を指差して「何だかレッドも色々あったみたいですねぇ。」

春日、笑って「まぁね!」と言うと「ちょっと、お話があります。」

駿河「何でしょう?」

春日「実はこの事態の発端は俺だったりしなくもない。」

駿河「え。」

春日「なぜ管理が船団採掘の選考の事を知っていたのか。」

駿河、ハッとして「ああ!貴方が!」

春日「直接言った訳じゃないよ。…俺がレッドの機関室で仕事をサボってた時にアンバーの船団採掘の話をしたら、二等操縦士の相原君が、ブリッジで雑談的にそれを喋ったんだ。そしたら船長がガッと食い付いて来て、詳しく知りたいと。んで俺が呼ばれたので色々言ったらなぜか話が管理に伝わり、こういう事態になりました。」

駿河「あらまぁ…。それで船長が監禁されたと」

春日、笑って「まさかこんな大事になるとは思わなかった!」

輪太「でもお蔭で妖精に会えるかもしれないから良かったです!」

カルロス、輪太に「残念ながら妖精は今、隠れてる。こっちの様子を伺ってるから、そのうち出てくるはず。」

輪太「はい!」と微笑む。

と、そこへ「カルちゃああん!」と叫ぶ声が。

同時にカルロス辟易して「あぁ…。」と額に手を当てる。

ジュニパーが、嫌がる綱紀の腕を引っ張りながらカルロスの方に歩きつつ「ねぇカルちゃん!ウチの綱紀ちゃんにアドバイスが欲しいの!どうしたら上手く探知できるかしら?」

綱紀、引っ張られつつ「嫌だっつってるでしょう!余計な世話だ!やめて下さい!」と激怒する。

ジュニパー「でもこんな機会、滅多に無いんだから聞きましょうよ!」

綱紀「皆が見てます!俺がヘッポコだって叫んでるようなものですし!」

ジュニパー「誰もそんな事、思わないわよ!」と言いつつ綱紀をグイと引っ張り自分の前に立たせてカルロスの前に突き出す。その声に興味を持った周囲の他船のメンバーが、野次馬的にカルロス達の所に集まって来る。

綱紀、恥ずかしさで真っ赤になりつつ(…ジュニパーの馬鹿野郎…!人を晒し者にしやがって…!)

カルロス、綱紀に「人工種ナンバーは?」

綱紀(…嫌だ、もう死にたい…。)と思いつつ、敵意の籠った目でカルロスを見て「…SSF SI E01。」

カルロス「紫剣先生の原体E型か。そういや原体E型人工種は特殊だとか以前聞いた。」

綱紀、皮肉な笑みを浮かべながら「一人だと役に立たない欠陥品です。聖司が居ないと探知できないので。」

ジュニパー「あっ、聖司ちゃんも連れてきた方が良かったかしら。」

カルロス、自分を指差して綱紀に「とりあえず私を探知してみてくれ。」

綱紀「…。」暫らく黙ってから投げやりに「してますけど!」

カルロス「してるのか。…ちょっと聖司を呼んできて…というか、離れてるとダメなのか?」

と同時にジュニパーが大声で「聖司ちゃああん!」と聖司の居る方へ叫び、綱紀の返事はそれに掻き消される。

カルロス、辟易顔で綱紀に「…もう一回言ってくれ。」

綱紀「ダメです!」

そこへ聖司が走ってやって来る。

綱紀、聖司に「探知するから触れ。」

聖司が綱紀の腕を掴む。そして綱紀が探知を掛けると…。

カルロス驚いて「ほぉ!」と思わず声を上げて「お前らとんでもない能力持ってんな!」

綱紀と聖司、同時に「え?」とキョトンとする。

カルロス「同調探知だろ、それは!」

綱紀「…確かに俺の能力の正式名は同調増幅探知ですけど。こっちは同調増幅の怪力で。」と聖司を指差す。

カルロス「使い方のワカラン能力を持たせるとはSSFに苦情を言わねばならん!」と言うと「…人工種の能力ってのは基本的に有翼種から来たもんだが同調スキルもそれで…。私はそれを有翼種に教わって今も練習中だというのに!最初からそれを持った奴が居たとはー!」と天を仰ぐと再び綱紀を見て「ともかく現在の状態は、綱紀は聖司が居ないと探知が出来ない?」

綱紀「…で、聖司は俺がエネルギーを流すと怪力になるけど、そうじゃないと普通。」

カルロス「2人だけで完結してるのか。それ誰に教わった?」

綱紀「製造師と…探知の先輩に。」

ジュニパー「アタシの教育が間違ってたかしら…。」

カルロス「いやいいんだ私もイェソドに行ってなかったら、わからなかった。」と言い「綱紀も聖司も自分の力をきちんと使うには、まず2人が分離しないといけない。」

綱紀「えっ。」

聖司「分離?」

カルロス「だってお前らいつも相方の思ってる事、何となくわかるだろ?」

綱紀「はぁ、まぁ。」

聖司「特に感情は来ます。怒りなんか突き刺される感じで」

カルロス「実は綱紀は探知の基本が全然できていない。」

途端に綱紀がショックを受けたように目を見開く。

カルロス「でもそれはヘッポコとか失敗作だからではない。」と言って暫し綱紀を見つめる。

綱紀「…。」壮絶に怒りを込めた目でカルロスを見て「慰めなくてもいいですよ、正直に言って頂ければ。」

カルロスはその言葉を無視して「…探知は心的な境界線を持たないと、他のエネルギーや感情に左右されて対象に意識を集中できないんだが、聖司と綱紀はあまりに意識が近すぎてお互い干渉しまくっている為に、綱紀は聖司の力に引っ張られて対象に意識を集中できず探知がブレる。聖司は恐らく自分の力を出すと綱紀に影響が出る事を無意識に分かっているので自力が出せない。なのでまずは2人が確たる境界線を持って分離する事が第一。その上で綱紀は探知対象に意識エネルギーを集中する事を学ばねばならない。つまり探知の基本を身に着ける。一人できちんと探知できるようになってから同調探知のやり方に進むのが本当なんだがまぁ仕方ない。」

綱紀「…。」黙って(…とりあえず出来損ないって事だよな?)

カルロス「聖司に関しては、私は探知なのでちょっとワカラン。あくまで推測で言うと、多分バリアラーに近くなるんじゃないかなと。探知の上位はバリアラーで、自分の心的境界線でバリアを張るので探知より更に強固な意志とエネルギーが要る。…多分、同調でエネルギー増幅したら聖司は怪力からバリアになる気はする。」と言うと「私は同調は出来るが増幅は出来ない。それが出来るのは私の同調探知の師匠のドゥリーさんだ。」

駿河「ああ、カルナギさんの船の。」

カルロス「うん。これはもう本当に、その能力を持った有翼種にやり方を教わるしかない。だからもし自分達の能力を本気で開花させたいならイェソドに行く事をお勧めする。」と言うと「何はともあれ2人はまず各自が境界線を持って分離しなければならない。私に出来るのは綱紀に探知の基本を教える事くらいだ。」

ジュニパー「良かったわねぇ綱紀ちゃん。流石はカルちゃんステキだわぁ。」

綱紀(…エラソウに色々言いやがって…。)

聖司「あの、分離ってどうやれば…。」

カルロス「とりあえず同調禁止。で、意識を自分自身に向ける…と言っても多分難しいよな。…そうだなぁ…。」と考えて「例えばの話、綱紀が黒船に乗ってビシバシとスパルタされて四六時中何かを真剣探知しなきゃならないような状態が続くと綱紀の境界線が出来て、自然と聖司と離れる。」

ジュニパー「あらまぁ!」

カルロス「とはいえ今の黒船はイェソドに行くだけなのでそこまで真剣探知するもんが」

ジュニパー「何言ってんのよ、これから源泉石の探知があるじゃない!」

カルロス「あ、そうか。」

駿河「チャンスだな!」

ジュニパー「綱紀ちゃん!アタシは探知しないから、頑張ってね!」

綱紀「え…。」

カルロス「ただ…。お前は恐らく探知妨害に滅法弱い。」と言って綱紀を指差した瞬間、綱紀が「うわ!」と叫んでフラッとよろめき地面に膝を付く。

ジュニパー、慌てて「やりすぎよ、カルちゃん!」

綱紀(…こ…の野郎…!)

カルロス腕組みして「うーん。」と唸ると溜息ついて「これはイカン…。」

ジュニパー「探知妨害だけアタシがするわ。」

カルロス「いや。」と言って綱紀を見ると「…スパルタする?」

綱紀「えっ。」とカルロスを見る。

カルロス「今、どうせヒマな時間だし。特訓して欲しいならしますよ?」

すると野次馬に来てカルロス達を見学していた礼一が「いいなぁ…。」と呟く。

クォーツも「ちと羨ましい。」

綱紀は(野次馬うるせぇな…。仕方ねぇ…。)と溜息ついて、それから渋々「…宜しくお願いします。」

カルロスは立ち上がり「じゃあ探知の基本を教えるから綱紀だけウチの船の中へ。」と言いカルセドニーの搭乗口の方へ歩いて行く。

綱紀、それに続いて歩きつつ(…散々責められんのか…。)と密かに溜息をつく。



カルセドニーの船内に入ったカルロスは綱紀を連れてキッチンのあるフロアへ。

ロフトの下の壁の隅に置かれた二脚の小さな折り畳み椅子の一脚を綱紀に渡しつつ「ここに小さなテーブルが」と言い壁の上の方に付いているボタンを押してロックを外すと、壁に収納されていた正方形のテーブルがゆっくり手前に倒れて来る。同じ壁の下部分を扉のように手前に引いて上のテーブルとT字になるように下に支えを付けると、カルロスと綱紀は正方形のテーブルの辺に椅子を置き、向き合って座る。

カルロス「さてと。じゃあ始めるか。…まず目を閉じて私に意識を向けてくれ。探知せずに、ただ意識を向ける。」

綱紀「はい。」と言って目を閉じる。暫くそのまま静かな時間が流れる。

綱紀(…な、なんか…。突き刺されるような感じが…。)

カルロス「…何か変化があるかな。」

綱紀は目を閉じたまま、言い難そうに「あ、あの…。」と言って小さな声で「怖いんですが…。」

カルロス「お前、相当、管理に虐められたな。」

綱紀「えっ?」と驚いて目を開けてカルロスを見る。

カルロス「だから探知出来なくなったんだ。」

綱紀「どういう事ですか。」

カルロス「…幼少期に君はこれを感じたが、同時に聖司もこれを感じたので恐怖を感じた聖司は自分と綱紀を守ろうとして君の感覚を遮断した、だから探知できなくなった。」

綱紀「…これ…、というと?」

カルロス「恐らく君は『特別な原体E型』って事で注目された、しかし能力が発現しないから管理に失望された、それで相当痛い思いしただろ。」

綱紀「まぁ製造師にも失望されましたしね。」

カルロス「んー、紫剣先生は失望はしてないと思うぞ、あの人の性格的に…。ただ、例えば管理から『こんな失敗作を作りやがって』とか散々責められたらそりゃどんな人でも凹むわな。その痛みを君は感じたんだと思うな。」

綱紀「…つまりあの痛みは製造師のものだと?」

カルロス「多分。」

綱紀「こんな失敗作どうでもいいと諦めたのでは。」

カルロス「それは無いな。管理は、紫剣先生に対して勝手に失望したと思うが、それは管理の問題であって。」

綱紀「…。」(よくわからん…。)

カルロス「まぁ、私もなー。何だか知らんが過大な期待をされたが、しかし私の場合は守る人が居なかったんで、耐えるしかなかったんだな。お陰でこんな奴になった。」と自分を指差し、「君の場合はたまたま聖司という盾が一緒に居たから仕方がない。とりあえず…、ちょっと目を開けたままやってみるか。さっきと同じように、私に意識を向けてくれ。」と言ってじっと綱紀を見る。

綱紀はカルロスを見て、意識を集中しようとするが、少しするとやや恐れを浮かべた表情になりカルロスから目を逸らし、そして体を強張らせて小さく「…恐いんですが…。」と呟く。

カルロス「んー…。」と唸って少し考えて「どうしたもんかな。」と言って腕組みをする。

綱紀(…やっぱり俺はダメなんだ。…呆れられた…。)そして俯いて、「…こんな出来損ないですみません。」

途端にカルロスがアッハッハと笑って「…違うんだな。…どう説明したらいいものやら。」と言うと「私は何も思っていないんだ。つまり君が感じる恐怖とは、…例えるなら鏡のようなもので、反射しているだけなんだ。」

綱紀「反射…?」

カルロス「うん。…私は、どうやったら君の能力を開花させられるか、それしか考えてない。」

その言葉に綱紀が目を大きく見開き(…えっ…?)と驚く。

カルロス「でも、君は、過去の経験を私に投影して見ている。例えば管理に責められた時の事とか。…今まで君が人から意識を向けられた時、それは殆ど責めたり見下されたり攻撃的なものだった、だから私が意識を向けると君は恐いと感じる、けれどそれは過去の投影、って事だ。だって私は別に君を責めてないから。」

綱紀、不審げな顔で「…本当に、責めてないんですか。」

カルロス「責めてないよ。ある意味で君は自分で自分に探知妨害をかけてるようなもんだ。」

綱紀、不服そうに「…だって。…じゃあ、どうしたらこの恐怖は無くなるんですか。」

カルロス「そうだな。んー…」と考えてから「ちなみに別に探知人工種だからって探知が出来なきゃダメだって事は無い。もし探知が辛いならやめて他に自分が幸せを感じられる事をしたらいいんだ。」

綱紀、思わず「え、えっ?」と戸惑ったような声を出して「どういう…事ですか?」

カルロス「…私なんぞ黒船から死ぬ気で逃亡したら人生奇想天外で何がどうなるやらだ。とりあえず君は普通に探知できるようになればいい。ただまぁ人生それだけじゃないって覚えとけ。」

綱紀、キョトンとして「はぁ。…まさか貴方がそんな事を言うとは全く思いませんでした。」

カルロスちょっと笑って「そうか。」と言うと「じゃあ…。さっきの続きで、私は君に意識を向けるから、君も頑張って私に意識を向けるんだ。今度は途中に変なモンを入れるから何か見えたら言ってくれ。…目を閉じて。」

綱紀「…はい。」と目を閉じる。

暫し無言の時間が続く。徐々に綱紀は険しい表情になると「あの…。」と呟いて「…これ…俺が間違ってるかもですが…。」

カルロス「間違いは散々やった方がいい。私も過去に散々探知ミスをした!」

綱紀「えっ。」と驚き「…そうなんですか…?」と目を閉じたまま首をかしげる。

カルロス「黒船で探知ミスした時なんて自殺したい位、恥ずかしかったぞ。」

綱紀「はぁ。…んー…、…変な形の岩?みたいなイメージが…見えるんですが…。」

カルロス「もっとよく形を見る。細かい所まで。」

綱紀「…握った手のような…いや、じゃんけんのチョキかな…。」と言って「えっ。顔?」と驚いて「手に顔が。」

カルロス「手じゃないんだな。まぁでも合格。ではそのまま、そのイメージのものを探知してみよう。どこにいる?」

綱紀「このイメージのものを探知…?」

カルロス「この船の中には無いから、範囲拡大してこの周辺に意識を向ける。」

綱紀は暫く悩んでいたが、突然「うわ!」と声をあげると「動いた!イメージが勝手に動きました!」

カルロス「そりゃ生き物だから動くよ。」

綱紀「生き物?…岩じゃなくて?」

カルロス「うん。とにかく続けて。」

綱紀、不安げに「…俺は探知出来てるんでしょうか…。」

カルロス「出来てる。お前は紫剣先生が作った探知なんだから出来るに決まってる。」

綱紀「…。」自信なさげな顔で暫く黙って探知を続けていたが、「んー…」と唸ると「なんか増えたり減ったりするんですが…。」

カルロス「もっと詳しく。どういう事なのか?」

綱紀「どう…。」と言って目を閉じたまま悩む。額に手を当てて「うーん…」と集中を強める。

そこへ船内に駿河が入って来て綱紀達の居るフロアにやって来ると、綱紀のすぐ横の壁にもたれ掛かって個人授業を見学し始める。

綱紀、それには全く気付かず「んー…」と眉間に皺を寄せて悩むと「これ…。分かりません。俺は一体何を探知してるのか…。そもそも探知出来てるのかどうか。」

カルロス「出来てる。ではその中の一つに焦点を当てて、どこにいるか詳しく実況してみよう。」

綱紀「実況?」と驚く

カルロス「今、焦点を当ててるそれが、どんな所にいるのか周囲に感じられるものを言っ…あっ!そこから意識をズラすな焦点そのまま!」

綱紀「でも、周りを」

カルロス「焦点そのままで周囲を感じる。またズレた、動かすな。」

綱紀「何で分かるんですか…ズレたって。」

カルロス「意識エネルギーの動きが分かるから。…しかしお前ホントに訓練し易いな。」

綱紀「えぇ?」と驚く。

カルロス「ってか私が同調探知を覚えたからだな。同調探知同士だから相当やり易い。…よし、ここで大サービスして一気に飛び級させてやろう。お前にはそれが出来る!目を開けてくれ。」

綱紀「…はい。」と言って目を開ける。

カルロス「…横を見てみ?」

綱紀「横?」と言って駿河に気づいて「わぁビックリした!」と驚いて椅子から立ち上がる。

駿河「…そんな驚かなくても…。」

カルロス笑って「その位、集中してたって事だ。」と言うと駿河に「…船長、あのブログの写真を見せてくれますか。」

駿河、上着のポケットからスマホを取り出しつつ「写真というと、もしやアレかな。」と言ってスマホをいじる。

カルロス「お石様を彼に見せて。」

駿河「ああ。」と言って画面にゴツゴツ妖精の写真を出すと、綱紀にスマホを渡す。

綱紀はそれを見た瞬間「ええっ!」と驚きの声を上げると「な、なんですかこれ!」

駿河「妖精さん。名前はお石様。」

カルロス「探知、出来てただろ?」

綱紀、信じられないという体で「…俺の想像が変なんだと思ってた…!」と言い、駿河にスマホを返して椅子に座る。

カルロス「ここからが本題だ。今からお前にハイレベルな探知を実際に体験させてやる。すると以後はその体験を参照して自分で練習できるようになるから。」

綱紀、やや不安げな顔で「…はい…。何をするんですか。」

カルロス「目は開けたままで。そのゴツゴツした妖精さん、今どこにいる?」

綱紀「妖精…」と言うと同時に綱紀の身体がやや淡く光り始める。「いる…!」と言って目を大きく見開くと、唖然としたように「見える…!」

カルロス「実況してみよう。」

綱紀「カルセドニーの前方にある木の根元、白く光る石の影に、丸くて耳のある妖精と一緒にこちらを伺っています。」

カルロス立ち上がると「よしこのまま行ってみよう!」

綱紀「ええっ…探知したまま」と言って立ち上がるがフラッとよろける。慌てて駿河が綱紀を支える。

カルロスも綱紀を支えて立たせると「大丈夫だ。このまま支えて行こう。」

駿河、綱紀を支えつつ「スパルタな…。」

綱紀「眩暈が…」

カルロス「慣れれば普通になる。探知は皆、これを常にやってる。」

綱紀「ええ…。」

カルロス「何せ今は壮絶な飛び級だからな。お前が同調探知だからこそ出来たんだ。良かったな!」

駿河「紫剣先生に感謝だ。」

綱紀「…んー…。」

フラつく綱紀を支えつつ、3人はカルセドニーの外に出る。

綱紀「あ…動いた…妖精が…なんか凄い喜んでるんですけど…。」

駿河「お石様はカルさんラブだから…。」

カルロス「いつも叩かれる…。」

船体の前方の、何本かまばらに生えている木の方へ向かって歩いていると、ポンポンポーンとゴツゴツ妖精が跳ねてきてカルロスの顔面めがけて跳んだと同時にカルロスの手にパシッと挟まれる。

綱紀「ホントに居るとは…。」と言いつつ前方の木の所まで歩いて木の根元を見ると「イメージと一緒だ!白い石と丸い妖精が…。」

カルロスはモゾモゾ暴れるお石様を胸に抱きかかえつつ「…という事で、今、体験したそれを、自分で出来るようになろう。」

綱紀「はぁ。」と言って呆然とした顔でカルロスを見ると「あれを自分で…ですか。」

カルロス「出来る出来る。練習すれば。だってお前、少し前まで無理だと思ってた事が、もう出来たじゃないか。」

綱紀「…確かに、出来ましたけど…貴方のお蔭で。」

カルロス笑って「失敗作じゃ無かったな!」

綱紀「でも…まぁ、はぁ。」と言った途端、突如感極まって目から涙がポロリと零れて「あ…。」と慌てて涙を拭い「なんか涙が出た。」と言うと「だって今まで、どんだけ…。」と言って言葉が続かなくなり、それから「だって、…今まで…!」と言って拳を握り締めて俯く。

カルロスはお石様を離して綱紀の傍に寄ると、その肩に手を置いて「…悔しいよな。散々バカにされ見下された。」

綱紀「…っ!」涙がポロポロ零れる。そのまま涙目でカルロスを見て「なぜ貴方は俺をバカにしなかったんですか。」

カルロス「…何で苦しんでる奴をバカにしないといけないんだ…。紫剣先生が作った人工種だし、出来るだけ能力開花させたいと思うわな。本人が望むならば。」

綱紀「…。」

カルロス「まぁ、どっかの昔の上総みたいに、出来るのに、諦めてやらないって奴にはマジでスパルタするけどな。」

綱紀「あいつはすっごいムカつく。」

するとカルロスと、駿河まで笑って「そうだよな!」

カルロス「でもあいつも反省して真面目になったから許してやってくれ。」

綱紀、涙声で「俺は、…全然出来なくて、…責められて、馬鹿にされまくっ…。」そこで言葉に詰まって泣き出す。

カルロスはそんな綱紀を抱き締めて「これから、どんどん出来るようになる。」

号泣する綱紀。