第10章 02

翌日、朝8時55分、採掘船本部の駐機場。

ショルダーバッグを肩に掛けたカルロスが、アンバーのタラップを上がって採掘準備室に入ると…。

ジュニパーが突撃してきて「おはようカルちゃー…」

カルロスはハグしようとしたジュニパーをサッとかわして「距離感は大事!おはよう。」と言いつつ、既に並んでいる一同の方へ歩く。

穣「カルロス来たから全員揃った。あとは船長が来れば」と言い階段室の方を見て「来た。」

階段室を出た剣菱が皆の方に歩きつつ「皆、揃ってるかー!朝礼するぞー!」と言いながら一同の前に立つと「皆さんおはよう!」

一同「おはようございます!」

剣菱「昨日は黒船が頑張ってくれたお蔭で採掘船6隻が鉱石満載という凄い快挙を達成し、管理に文句言われず済んだけど、明日から源泉石採掘の為に鉱石を採れなくなるので今日は出来るだけ沢山採っておきたい。…カルロスさん、鉱石満載で20時頃には本部に戻りたいんですが、探知講習会はどういう感じに?」

カルロス「講習会の事はあまり気にせず、イェソドに行って採掘したら雲海ちょっとウロウロして戻る感じでいいですよ。」

剣菱「なるほど。航路ナビは貴方が?」

カルロス「基本的にマリアさんで。あ、そういえば。」と言い探知メンバーを見て「各船の探知の皆さん、ここで自己紹介を。…じゃあ貴方から」とマリアを指差す。

マリア「アンバーのALF KUR D14マリア・レストールです!宜しく!」

上総「オブシディアンのSSF SU SSC03周防上総です。クォーツとは同い年!」と言い隣を見る。

クォーツ「レッドコーラルのSSF SI F01紫剣クォーツです。宜しくお願いします。」

礼一「ブルーアゲートのALF ETO ALA460江藤礼一でっすぅ、よろしゅー。次どぞ」と隣の綱紀を見る。

綱紀、ジュニパーを見て「…ジュニパーさん先に。」

ジュニパー「どうして?綱紀ちゃん言いなさいよ。」

綱紀「だってシトリンの探知は全部ジュニパーさんが」

そこへカルロスが「いいから気にせず自己紹介してくれ。」

綱紀「…SSF SI E01紫剣綱紀です。」

ジュニパー「MF SU C186周防ジュニパーよ。はい次カルちゃん!」

カルロス「…カルセドニーのMF SU MA1023周防カルロス。この朝礼が終わったら探知の皆さんはブリッジ前の通路へ。そこで講習会しますから。」と言い「…こちらは以上です。」と剣菱を見る。

剣菱「じゃあ探知の皆さん頑張って。それでは出航しまーす!」


駐機場を飛び立つアンバー。

ブリッジ前の通路には探知メンバーがズラリと並んでいる。カルロスはブリッジの戸が開け放たれた入り口前に立ち、肩に掛けていたショルダーバッグを床に降ろすと中からA5サイズの分厚い本を出して手に持ち通路に並んだ探知メンバー一同を見て「それでは今から探知講習会を…」と言って言葉を切ると「探知じゃない人が居るのは何でだ。」

マゼンタ「野次馬!」

悠斗「どんな事をするのかなーって。」

カルロス「…ヒマ人め…。」と言いつつ手に持った本をめくって栞を挟んだページを開くと「まず皆さんに源泉石の写真を見せます。コレです!」と言って皆に見せる。

礼一、写真を見ながら「おぉ…。」

マゼンタも「ほぉー!」

ジュニパー「透明な石なのね。クリスタルみたい。それよりこの栞なんだけど…」

上総「この栞、妖精の形してて凄い可愛い。」

マゼンタ「可愛いの好きなの?」

カルロス「これ護から借りた本だから護の栞だ!」

そこへブリッジからマリアが「私も見たい!」と言って出て来ると栞を見て「かわいい!」

カルロス「源泉石を見てくれ!」

マリア「見ました!」

カルロス「このイメージを元に源泉石を探知する訳だが、ハッキリ言おう。探知で等級を識別する事は、君達には無理だ!」と言って本を閉じる。

上総達「ええー!」

カルロス「最初からそんなハイレベルな事を考えない方がいい。君達はまず、雲海に慣れて正確な探知が出来るようになるのが第一、源泉石を探知出来るようになるのが第二。…選考期間が始まったら等級なんか考えず、とにかく凄そうな源泉石を探知して、なんか良さげだと思ったら突撃して採ってみる!」

上総「えー…。」

カルロス「そもそもプロの石屋が見ないと正確な等級なんかワカラン。」

ジュニパー「カルちゃんは等級判別できるの?」

カルロス「一応出来る。確実とは言わないが。何せケテル石で散々鍛えられてるからな…。ケテルは本当に難しい…。」と言うと「まぁ源泉石は、採るのも大変だと思うぞ、人工種は。」

上総「そうなの?」

カルロス「多分そうだと思うが、やってみないとワカラン。…とにかく皆、今回初めて源泉石採るんだから、凄いの採ろうなんて思わず、やってみて色々覚えりゃいいんだ。全ての船が同じ土俵で、だからどの船も本気でやれば合格できる可能性がある。…では今から…。」と言って言葉を切ると「皆でマゼンタ君を探知します!」とマゼンタを指差す。

マゼンタ驚く「ほへ?」

悠斗「ご指名がっ!」

カルロス「私が探知妨害するので、皆はそれに負けずマゼンタ君を探知する!全員目を閉じて。マゼンタ君は逃亡!」

マゼンタ「ど、どこに?」

カルロス「どこでもいいから動き回る。」

悠斗「船内マラソンでもしたら。」

マゼンタ「んー、とにかく行ってきまーす!」と通路を走っていく。

悠斗「行ってこーい!」

カルロス、探知メンバー一同に「今から私の探知妨害のレベルを段階的に上げていくので、マゼンタ君を感知できなくなった人は手を上げて。」

すると綱紀が手を上げる。

カルロス「あ。…綱紀は仕方がない。手を挙げたら目を開けていいよ。」と言いつつ探知妨害をしながら暫く一同の様子を見る。

そこへブリッジの方からマリアが皆の様子を見て「いいなぁ私も参加したい。」

カルロス「参加していいよ。航路ズレたら私が指示するから。」

マリア「はい!」

カルロス「じゃあ更に妨害レベル上げます。」

すると礼一が手を挙げる。カルロス思わず驚いて「え、礼一君、ホントに出来ないの?」

礼一「はい。」

カルロス「もう少し頑張ってみよう。出来ると思うんだけどな。」

礼一、困った顔をして「…んー…」と唸ると「…難しいです。」

カルロス「…そうか。」と言うと「じゃあ更にレベル上げます。」

途端にジュニパーとクォーツが手を挙げる。

カルロス「なるほど。ここまでにしてもいいけど…。」と言って上総とマリアを見て「もう少しやるか。今からどんどんレベル上げるので。」

徐々にカルロスの身体が青く光り始めると同時にマリアと上総の身体も光り始める。

その様子を見ながら、クォーツ思わず「…凄いな。」と呟く。

2人は必死に探知を続ける。そして遂に、2人同時に手を挙げる。

カルロス「OK、わかった目を開けて。」と言い探知妨害をやめて「…2人とも同じレベルだな。」

上総とマリア、同時に「ええー!」と声を上げる。

マリア「黒船の子と同じなんて、悔しいー!」

上総「弟子として頑張ったのに!」

カルロスは悠斗の方を見ると「悠斗君、貨物室と採掘準備室の間をマラソンしてるマゼンタ君に、もういいよと伝えて来てくれ。」

悠斗「了解っす。行ってきまーす。」

カルロス、礼一に近寄ると「…なぁ礼一君。君はもっと出来る筈だがな。」

そこへジュニパーが「ブルーの探知って、いつもすぐ諦めちゃうわよね。」

クォーツも「わかる。」

ジュニパー「レッドの探知は執念深いのに」

クォーツ「シトリンの探知も執念深いですよね。粘着質で。」

ジュニパー「あら。だってお仕事ですもの。」

カルロス「…ブルーの採掘監督はあの満さんなのに、なぜ君は簡単に諦めてしまうのか。」

礼一「…だって…。」と言って下を向いて黙るといきなり顔を上げて「…この2人が俺を潰しにかかって来るからです!」と両手でクォーツとジュニパーを同時に指差す。

ジュニパー「何言ってんのよ反撃すればいいじゃない!」

礼一「例えば俺がレッドと妨害合戦してたらシトリンが参戦してきたり、シトリンと場所取り合いしてたらレッドが来て俺に妨害を!」

クォーツ「仕事ですので。」

礼一「以前は俺も頑張ってたけど黒船とアンバーがイェソドに出てからはブルーが最下位にされて、2対1の構図が!監督もヤル気無くて俺が頑張っても意味ないし!」

カルロス「なるほど。」と言って「…ちなみに昔、上総が黒船に入って来た時は全くヤル気が無くて、こっちがどんだけスパルタしても適当に」

上総「そんな適当にしてないです!」

カルロス「とか言ってるが酷かったぞ。俺には無理だ無理だ出来ないの連発で。」

マリア「そんなだったんだ。」

クォーツ「わかる。甘ったれてて。」

上総「だって俺よりクォーツの方が凄いと思ってたし!黒船にはクォーツが入るべきなのに、何で俺がー!カルロスさんと同じSUだからって期待されてもー!と、思ってたし!」

マリア「そうね、あの頃ほんっとに存在感無かった!」

カルロス「そんな奴がだよ。私が居なくなったら、こんななった訳だよ。」と上総を指差す。

上総「だって!もう必死でしたよあの時は!」

カルロス「別に黒船捨てて逃げても良かったし自分には無理だと言っても良かったんだが?」

上総「…だって、貴方の弟子ですし、必死で探知しろと言われたし…。俺は貴方みたいに逃亡するものかぁ!って意地で頑張りました!」

マリア「あっ、でも私もね、あの時に凄く能力が伸びたの。」

ジュニパー「やっぱり気合よねー。探知って気合勝負!」

クォーツ「確かに。」

礼一「…そもそも俺、探知妨害あんまり得意じゃないんです!」

カルロス「そんな気がする。」

礼一「え…?」と怪訝そうにカルロスを見る。

カルロス「他人の気持に引っ張られるタイプだから。満さんのヤル気が無くなると頑張るのをやめる、他船の2人の探知の為に妨害を諦める。ちょっと自分軸が弱い。」

途端に礼一がショックを受けたように目を見開くと、俯いて「それは…。ちょっとトラウマがあって…。」

カルロス「トラウマ?…あっ。」と何かに気づくとブリッジ内に顔を出して「進路もう少し1時の方向へ。若干、風に流され気味なので。」

操縦席の剣宮が「はい」と返事をする。

カルロス再び礼一を見ると「何かあったのか?」

礼一「…俺、江藤一族の中で唯一の探知人工種なんですけど、俺の一つ下が黒船の総司で、俺とあいつの性格って正反対なんです。」

カルロス「それはよくわかる。」

礼一、溜息ついて「昔、俺に探知の指導をしてくれた人が、総司が探知だったら良かったのに、と…。」

するとカルロスちょっと脱力して「…それがトラウマ…。」

礼一「だって俺、総司みたいに自分の意思を貫けないし、あいつ凄すぎて」

カルロス「あれはあれでどっかに置いとけ!」

上総「でもその気持ち分かるかも。俺もクォーツが凄くて自分ダメだって思ってた!」

綱紀「そんな事を言ったら俺なんてSSF最大の失敗作だと管理に面と向かって言われたんですが。」

クォーツ「ちなみに俺は。レッドで緊張とストレスでいつも…下痢止めの薬を飲んでた。」

上総「ええ!」と驚いて「本当に?!」

クォーツ「だから船長が監禁されて本当に楽になった…。」

カルロス「…私は黒船時代に拒食症になったが。」

クォーツと綱紀が「ええっ!?」と驚愕する。

カルロス「だから黒船から死を覚悟で逃げたんだ。」

クォーツ「貴方が拒食症に?」

カルロス「うん。でもそれを必死に隠して普通に平気な顔をしていた。あれは本当に辛かった…。」

そこへジュニパーが「アタシなんて男なのに女だから、管理にはバカにされるし仲間の人工種にも変な目で見られるし、製造師にも悩まれたし、色々ありまくりよ!」

カルロス「皆、色々ある!とにかく話を戻すとだな、礼一君はまず自分がどうしたいのかを」

礼一「それ総司にも散々言われました…。」

カルロス「んで、どうしたいんだ? 君の底力は相当あるからそれを活かすも捨てるも自由だが。」

礼一、驚いたようにカルロスを見て「底力がある?」

カルロス「そうでなければ満さんがヤル気満々で君臨していた頃に潰れてるだろ。」

礼一「…。」

カルロス「まぁ別に、探知人工種だからって探知しなきゃダメって訳でもないし。石茶にハマって石茶屋やってもいい訳だよ。」

マリア「やるんですか?」

カルロス「わからん。とにかく自分のお好きなようにって事だ。…そろそろ雲海に入るな。あっ、そういや源泉石採掘で、他の船は雲海切り、どーすんだ…。」

上総「風使いの風で霧をぶっ飛ばせばいいと有翼種の人に言われました。」

マリア「うん。雲海切りできなくても風を上手く使えば視認出来るようにはなると。」

カルロス「なるほど。じゃあ…」と言って「上総とマリアさんは雲海に慣れてるから、綱紀の練習に付き合って欲しい。」

上総&マリア「はい」

カルロス「綱紀はちょっと特殊で、探知の基本から練習なので」

すると上総が「えっ」と驚き「そうなの?」

カルロス「1人で探知できないまま自己流で同調探知やってたから基本が出来てない。昨日やっと本来のやり方を説明した。…私だってイェソドに行って初めて同調探知を知ったんだ、仕方がない。」

上総、納得の顔で「ああー…そういう事だったのか!」

カルロス「綱紀、上総を探知してくれ。マリアさんがそれを妨害するから妨害に負けず上総を探知する。」

綱紀「はい。」

カルロス「マリアさん、最初弱めに。探知出来たら徐々に上げて行く感じで宜しく」

マリア「了解です!」

カルロス「んで、こっちは」と言って礼一を見ると「礼一君にスパルタするか。ここから昨日の遺跡を探知してくれ。」

礼一「はぁ…。」と言って目を閉じて探知をかけるが「んー…。ちょっと遠いです。」

カルロス「じゃあクォーツ君、礼一君に探知妨害を」

礼一「えっ!」と目を開ける。

クォーツ「…妨害、するんですか?」

カルロス「うん。ガチで妨害する!」

礼一「ちょっと!」

カルロス、礼一に「以前クォーツに妨害されたんだろ、仕返しするチャンスだ!」

礼一「無理です!」

カルロス「仕返ししたくないのか?」

礼一「…いや、それは、まぁ…。」

カルロス「だって君は、さっきマゼンタ君を探知した時、二人への抗議で探知をやめたんだろ?」

途端に礼一、目を見開きショックを受けたように「…そんな事は!…いや、あの…。」真っ赤になって弁明しようと焦りまくって「そんな、なんで…わかっ…。」

カルロス「長年、探知やってると、相手がどんだけの力量持ってるか分かるんだな。礼一君は力があるのに何で探知やめるのかなーと。」

礼一「だって俺、自分はダメダメだと思ってたから!」

カルロス「さ、礼一君。全力で遺跡の探知を。クォーツ君の探知妨害なんかふっ飛ばして。何ならジュニパーの妨害も一緒にどうぞ。」

ジュニパー「…やってやろうじゃないの!」ニヤリ

礼一「あああ!もうー!ちーくしょー!」と叫んで全力で探知をかける。

その様子を見てマリア思わず「あら凄い!」

上総も「…出来るじゃん…。」

礼一「遺跡、たーんち…できそう…な。」

ジュニパー「つまり貴方、今までアタシ達に手加減してたのね。許さないわよ!」

礼一「手加減っつーか、うぅ…。うがぁぁ!遺跡ワカランなったぁぁ!」と更にパワーを上げる。


10分後。

礼一がヘトヘトに疲れ切った顔で「遺跡、位置確定しましたぁぁぁぁ!」と叫ぶ。

カルロス拍手して「おめでとう!」

クォーツ「…手強かった…。」

ジュニパーも疲れた顔で「貴方こんなにパワーあったのね…。」

カルロス「じゃあ少し休んだら今度は妨害役を交代して、クォーツ君が遺跡の探知。」

礼一「妨害役を交代?」と言うとニヤリと笑ってクォーツを指差し「ふ…。レッドの探知め覚悟しとけぇぇ!」

クォーツ辟易顔。

ジュニパーも辟易顔で「何なのこの子…。いい気になっちゃって…。」

上総も思わず「ホント総司さんとは正反対…。」

礼一「なんだって?」睨む

上総「アッ」

礼一「総司の一つ下の明日香なんて俺より変だぞ、俺と明日香の間に挟まれた総司が何であんな出来がいいのか謎すぎる!」

マリア「でも私、明日香ちゃん好きだよ!」

礼一「…物好きな…。」

そこへジュニパーが「じゃあ礼一君、今度はアタシ達の執念の探知妨害でレッドを倒すわよ!」燃え上がる青いエネルギー。

礼一も青い光を纏いつつ「承知した!いざ勝負、レッドコーラル!」

クォーツ「くっ…。」必死に探知を掛ける。

上総は綱紀に「綱紀さん、もうちょっと俺に集中して。」

綱紀、悩み顔で「向こうが気になってしまって…」

マリア「あっち、うるさいしね。」

綱紀「いい訓練にはなるが…。」

クォーツ、探知を強めつつ「…ここで負けたらSSFのF型シリーズの01としての立場が!」

その言葉に綱紀「…ちなみに俺はSSFのE型の01なんだが…。」

その時、ブリッジの中から剣菱の声「もしもしカルロスさーん!」

カルロス、ブリッジの中を覗いて「はい?」と剣菱を見る。

剣菱「航路ナビ、大丈夫なのかなと思って。アンタの事だから心配ないとは思うけど。」

カルロス「ちゃんと見てます。このままの進路で問題ありません。」

そこへクォーツの「断じて負けない!」という叫びと共に

ジュニパー「愛してるわ、クォーツちゃん!うふふ!」

クォーツ「その粘着テープみたいなエネルギーが嫌すぎる!」

剣菱、笑って「随分賑やかな探知講習会だな!…面白い。」

カルロス「…うるさくて申し訳ない…。」



一方その頃。

ジャスパーの採掘船本部の狭い会議室の入り口付近で、南部が数人の管理に取り囲まれている。

管理の一人が驚いたように「拘束された?…誰に。」

南部「ウィンザーや、サイタンに。」

管理「サイタンだと?…せっかく採掘監督の地位を与えてやったのに反抗するとは。」と言って「まぁ中に入って、掛けて下さい。」と南部を部屋の中へ招き入れ、椅子を勧める。南部が椅子に座ると管理達は立ったまま南部を囲んで立つ。

南部の正面に立った管理が「それで、奴らに船の指揮を取られてしまったと。」

南部「…監禁されましたので。」

管理は呆れたように溜息をつくと「ダメだなぁ…。貴方には期待していたんですよ?…あの5隻の中で唯一『使える』船長ですから。」

南部、無表情なまま目の前の管理を見て「…そうですよね。」

管理「しかし今まで大人しくしていた奴らが、なぜ。」

南部の右側に立つ男が「…黒船に影響されたか、またはブルーの連中に引っ張られたか。あの時、余計な奴が来たからだ!」と言うと忌々し気に「…駿河の野郎…。」

その隣に立つ管理も頷き「奴のせいでブルーが勝手な行動を!」

南部、やや俯いて「一つ疑問があるんです。あの時、なぜ三等操縦士が勝手に黒船に行ったのか。私は行けと言っていない。」

管理「…春日の事か。」

南部「サイタン達が突然変化したのは、彼が原因ではないかと。彼はなぜレッドに入れられたのでしょう?」

管理「…。」黙って、疑問を投げかけるように自分の隣の管理を見る。

その管理も「…わからん。」と周囲の管理を見回す。

すると管理の一人が「…ブルーに入れるには勿体ない人材、と噂で聞いた事はある。」

南部、やや顔を上げて「皆さん、彼が以前、航空管理だったという事は当然ご存知ですよね?…履歴を見ればわかる。」

管理「…。」

若干気まずそうな顔で黙りこくる管理達。

やおら、南部の正面に立つ管理が「…ならば本来は、我々と共に人工種を」

南部、その管理の目を見据えて「履歴を見れば分かりますが、彼は船長経験者ですよ。」

管理「なん…だと?!」目を見開いて驚く

南部「どうしても人工種の採掘船に乗りたいから空いた三等に来たと以前、本人は言っていましたが、…私はてっきり、私に何かあった時に、次の船長にする為に、彼をレッドに入れたのかと思っていました。」

管理「…。」

誰も何も言葉を発しない。南部はそんな管理達の様子を見て「…どうやら航空管理や採掘船本部の中に、あなた方の意見に賛同しない人々が居るらしい。」

管理達の顔に、微かに不安の表情が浮かぶ。

その重苦しい沈黙を破るかのように、南部の前に立つ管理が「…貴方には船長を続けて頂かないと。この失態の責任を取って頂かねば。何せ他にロクな船長が居ない。貴方にはぜひ、頑張って頂きたい。」

南部「…私は大失態を犯した『使えない』船長ですが。」

管理「だからこそ汚名挽回のチャンスをやろうと言うんだ。責任を取れ。逃げてはならない。」

南部「…。」

管理「奴ら、鉱石を沢山採ってきたからっていい気になりやがって、…これ以上好き勝手にさせるものか…。」と言うと南部を見据えて「再び人工種達に規律を!彼らを正しい道に導くんだ。…君には出来る。期待している。」

南部は暫し黙ってじっと管理を見ていたが、やおら無表情なまま、ポツリと「…光栄です。」

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