第11章 01
翌日の18時過ぎ、採掘船本部の駐機場。
黒船のブリッジの船長席で、計器のチェックをしているネイビーの所に総司がやって来る。
ネイビー、少し驚いて「あら。早かったわね。」
総司「事務所で、特に何事も無かった。…絶対、管理が何か言って来ると思ったんだけどなぁ…。」
ネイビー「何事も無いならそれが一番。」
総司「それはそうだが、管理の妨害対策に運行クルーの乗船時間を早めてしまったんで。」
ネイビー「余裕持って出航準備できるからいいじゃない。…まぁ、もしこれが朝だったら多少不機嫌にはなったけど!」
総司「…すまんね。管理不安症で。」
そこへブリッジ入り口の方から「あっ、船長!」と声がする。振り向くとアメジストとジュリアが立っている。
アメジスト「もう釈放されたの?」
総司「そもそも事務所に管理が居なかった。」
アメジスト「え。何かあったのかな。」
総司「居ないと逆に不安になるよな。」
その言葉にネイビーが「重症ねぇ…管理不安症。」と言うとアメジストに「今夜は私とアメジストちゃんでイェソドまで操船担当するからね。」
アメジスト「はーい!船長は寝ててね!」
総司「途中までブリッジに居るけどな。」
そこへジュリアが「私も早寝するわ。だって明日の朝食、6時からだし。起きるの4時半!…なんかティム船長の時代を思い出すわね。」
総司「そうだな…。」
ジュリア「さて、食材の確認しなきゃ。頼んだ物ちゃんと届いてるかなー。」と言って船内通路の方に振り向くと「あら、上総君。」
総司も通路を見て驚き「運行クルーでもないのに、もう来たのか。早いな。」
上総「なんかワクワクして緊張するから早く来てみた!」
総司「緊張か。…探知は交代要員が居ないから一番大変だな…。」
上総は皆の所に来て立ち止まると「でも探知は楽しい。昨日の探知講習会、凄く楽しかった!」
アメジスト「どんな事したの」
上総「探知対決とか色々やって遊んだ。」
総司ちょっとガクッとして「あ、遊んだのか。」
上総「あと色んな話した。探知仲間にしかワカラン悩みとか愚痴とか言ったりカルロスさんの暴露話聞いたり。」と言うと総司を見て「それにしてもブルーの礼一さんって楽しい人ですね。」
総司「えっ。」
上総「礼一さんが、打倒ラスボス総司、あいつ出来が良すぎておかしい、どっかバグれ!って連呼してました。」
その言葉にネイビー達が爆笑する。
総司「…。」(…礼一よ…。)
19時近く、本部内通路にて。
武藤と八剣がスーツケースを引っ張りつつやって来る。
武藤「それでは副長、いつも通り先に乗船頼むわー。俺は監督を待って事務所行くから。」
八剣「承知しました。…今日だけは事務所を平穏無事に突破出来る事を祈っております。」
武藤「まぁその為に監督という盾を持って行くから何とかなるべー。」と言いつつ自販機の並ぶ休憩スペースへと歩いて行く。八剣は駐機場方面へ、通路を歩き去る。
休憩スペースのベンチに腰掛けた武藤は手持無沙汰に自販機を眺める。そこへ「あら!武藤船長!」という声。見ると楓と陸が一緒に通路を歩いて来る。
楓は武藤の所に駆け寄ると「良かったら一緒に事務所に行きませんか?」
武藤「勿論ええよ。管理対策だろ?…ただウチもなー、監督と一緒に行こうと思って今、待機中なんでちょっと待ってくれたら。19時に来いと言っといたんで、もうすぐ…あ、来た。」楓たちの背後の通路の先に、大きなバッグを持った満の姿を見つけて「監督!」と呼びかける。
満「船長!…おや、シトリンの方々もお揃いで。」
武藤「よし、これで事務所で管理様に出くわしても何とかなる。…いざ、戦地へ!」
20時近く。
出勤してきた剣菱が事務所に入ると、通常通りの手続きを済ませて事務所から出る。駐機場への通路を歩くとチラホラと各船の採掘メンバー達と出会い始めて、エレベーターの前は若干混んでいた。
剣菱の姿を見つけたオーキッドが「あっ、船長だ!こんばわ!」
オリオン「夜だけど、おはようございます。」
剣菱「…皆さん、採掘師なんだから階段で行ったらどう?」
ジュニパー「あら。だってアタシ探知だから非力なのよ。」
昴「怪力の人が階段に行けばいいんだ。」
ウィンザー「ええ…。」
そこへエレベーターが来て、一同ゾロゾロと乗り込む。
アッシュ「何とか全員乗れましたね。」
剣菱「…同時刻に5隻出航だと、こんな混むんだな。」
夏樹「まぁ、時間に余裕持って来ればいいんですけど。」
昴「時間ギリギリ連中がこんなに。」
ウィンザー「…ウチの船長、来てるかなぁ…。ちょっと不安。」
剣菱「え。…南部船長?」
ウィンザー「来て下さいって念を押しといたんだけど。」
ジュニパー「…探知したけど、まだ来てないわね。」
エレベーターが3隻の駐機している階に到着してドアが開く。レッド、ブルー、シトリンのメンバー達が降りていく。再びエレベーターの扉が閉まる。
剣菱、不安げな顔で「…この時間に来てないってのはなぁ…。俺が今、来たのは昨日準備しといたからで…。」
昴「何だか嫌な予感。」
20時半、レッドコーラルのブリッジ。
春日、神妙な顔で「…船長が来ない。」
ティーツリー「マジで来ないんですかね?!」
クォーツ、探知をかけながら「少なくとも本部の敷地内にはいません!」
相原「どこにいる?」
クォーツ「…個人のプライベートは探知しちゃいけない事になってるんで、詳しくは…。少なくとも本部の周辺には居ません。」
春日「とりあえず誰か事務所に行って出航手続きしないと、物凄い叱られる!」
相原「副長ぉ!速攻で急いで事務所へ!時間がっ」
ティーツリー物凄い焦って「えっ、でも、船長が来ない理由ってどう言えば…。」
春日「そんなの知らーん!こっちはとにかく船長来ないんで代理ですと言うしか。」
ティーツリー、不安げな顔で「はぁ…。」と言うと「人工種だけでは不安なんで相原さん、付いて来てくれませんか…。」
相原「わ、わかった…。行くか!」と言ったその時。
ブリッジに輪太が駆け込んで来るなり「大変です、管理の方が来ました!」
一同「えっ?」
クォーツ「ああっ!船長の探知に集中してて気づかなかった!」と悔し気に頭を抱える。
輪太「全員、下に来いって言ってます!」
春日「…ってか管理がブリッジまで来いよって。問答無用で船の頭を抑えられるチャンスなんだからさ…。」
相原「ですよね。」
そこへピピーと船内放送のスピーカーからコール音が鳴ると『こちら人工種管理です。乗員全員、採掘準備室へ来なさい。』
春日「しゃーない。行こう。」
クォーツ「あっ。ちなみに、ブルーにもシトリンにも管理が!黒船とアンバーには今の所は居ません。」
その頃、アンバーでは一同が採掘準備室に集って出航前のミーティングをしていた。
マリアが探知を掛けつつ「うわぁ…。3隻の採掘準備室に管理がいっぱい!大変な事になってる!」
穣、マリアに「で、レッドの船長はやっぱり居ないの?」
マリア「うん。本部周辺にも居ないから、多分お休み?」
剣菱、溜息ついて「嫌な予感的中…。」
剣宮が心配そうに「管理さん、黒船とかウチにも来るのかな…」
穣「もし来たらバリアでブッ飛ばすだけだが、3隻は大丈夫か…?」
剣菱「…レッド、船長いなくて出航できるかな…。とりあえずどっかから連絡来るかもしれんから、俺はブリッジに行こう。副長、ここ頼むわ。」
剣宮「はい。」
再びレッド。管理達が待つ採掘準備室に、メンバー一同が集まって来る。
ティーツリーが管理達の前に進み出て「一同、集まりましたが…。」
するとリーダーらしき管理の男が「皆さんのお望み通り、船長は謹慎させましたよ。」
ティーツリー「え…。」と驚く
管理「船長室に監禁してしまう程、あの船長が嫌だったんだろう?申し訳ないね、あのような人を船長にしてしまって。きちんと反省させる為に謹慎させたから、安心してくれ。」
ティーツリー「しかし、船長が居ないと出航できません。何とか、来て頂く事は…。」
管理「連れて来てもいいが、また君達に監禁されるんじゃなぁ。」
ティーツリー「監禁しませんので。」
管理「君達が船長の指示通りに動くならば、連れて来よう。」
ティーツリー「…指示は、聞くように致します。」
管理「では源泉石ではなくイェソド鉱石採掘に行ってくれるんだな。」
ティーツリー「それ…は…。」
管理「船長は源泉石採掘には反対している。」
ティーツリー「…。」暫し黙って「源泉石採掘が出来ないなら本船は出航できません。」
管理「副長の君が臨時に指揮を執ってもいいんだよ?…本来は、船長の許可が無ければ副長であっても船を動かす事は出来ないが、今は緊急事態だ。特別に許そう。…その代わり」
ティーツリー「イェソド鉱石を採れ、と?」
管理「我々の監視の元に鉱石採掘をして頂く。」
ティーツリー「…私はまだ副長として未熟でして、船長の代わりなど務められません。船長が来られないなら本船は出航できません。」
管理「ならば仕方がないなぁ。船長を連れてくるしかないなぁ。」
ティーツリーは暫し黙った後、諦めたように「…お願いします。」と言ったその時。
サイタンが前に進み出て「…あんな船長、要らねぇ。」
ティーツリー「しかし」
サイタン「レッドは休みだ!源泉石採れねぇなら何もしねぇよ!」
ウィンザー「そんな。」
管理「勝手に休まれても困る。」
サイタン「なら源泉石採らせろ、それがダメなら1週間休みだ。」
管理はティーツリーを指差して「君、いいから黙って臨時の船長をしなさい。」
ティーツリー「私には出来ません。」
管理「でも実際、船長監禁後のレッドを指揮していただろう?」
ティーツリー「…それは」
管理「君なら出来る。」
ティーツリー「…お断りします、俺には出来ません!」
管理「なら船長を」
サイタン「また監禁してやらぁ!」
管理「君達、言う事を聞きなさい!」と言い「全く…子供でもあるまいし、駄々をこねられても。…ん?」そこで別の管理がその管理に何やら耳打ちをすると、「ちょっと失礼」と言いレッドメンバー達からやや離れた所で管理同士で小声で相談をする。それから再びメンバー達の前に戻って来ると、春日を指差す。
管理「貴方に、臨時の船長をやって頂きます。出来ますね?…貴方は船長を務めた経験がお有りだ。」
一同「!」驚いて春日を見る。
相原「そうなの…?」
ティーツリー「どうして三等に…」
春日「…しかし、そうすると三等が居なくなるのでは。規定では三等が居ないと出航アウトですよ。」
管理「今は緊急事態と言う事で臨時に許可する。その代わり、航空管理の船と共に行動してもらう。」
春日「はぁ。…なんか人間だけの船と違って、人工種が乗る船って規則の運用がアバウトですね…。」と言って「それで、イェソド鉱石を採れと?」
管理「勿論。」
春日、メンバー一同を見る。
ティーツリー「…。」困ったような顔で春日を見る。
サイタン「…。」春日から視線を逸らす。
春日、溜息をついて「わかりました。…今夜はこれからどーします?」
管理「明日の朝、出航で採掘だ。8時頃にまた来る。」
春日「りょーかいです。」
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