第13章 01

再び源泉石採掘バトル中の黒船。

死然雲海の中を飛ぶ黒船のブリッジでは、上総がメモ帳とペンを持って必死に探知をしながら「2時行って少し左で下がって…これ等級ナンボなんだろ」と言いつつメモを取る。「…で、10時行くと谷だから下がって直進して…右かな左かな。」

そんな上総に総司が「あのー、探知君。このまま直進してていいのか?」

上総「今んとこは直進で。…で、えーと何だっけ。あれ?」と言って「しまった!風に流されたぁ!」と言うと「静流さん、ちょっと右よって右!」

操縦席の静流、不機嫌そうに「ちょっとと言われても。」

上総、必死にメモ帳をめくりながら「さっき探知したのどれだっけー…あ、これだ。」と言うと静流にメモを見せて「こんな感じで飛んで。」

静流がメモを見ると乱雑な絵と指示が書いてある。『2時、少し左、谷、降下、背の高い木、左の崖』

静流、呆れて「…どんな指示…。それ船長に見せたら激怒案件だよ。」

上総「え。」

総司「見せて。」と船長席に座ったまま左手を上総の方へ伸ばす。

上総「いや静流さんだから見せたんだー!」

静流「同じSSCだからって甘えるな!分かるかそんなん!」

総司「見せて下さい!」と上総に手招きする。

その模様を見て入り口近くに立っていたジェッソが「どれどれ見せてみ」と言いつつ上総の近くに来る。

上総、メモを隠して「もっとデカイ紙があればー!あと5分そのまま飛んだら若干左!」

静流、溜息ついて「…俺のタブレットに絵を描くツールあるから、それ使うといいかも…。」

途端に上総が「ああ!あれいいよな!静流さんの後で貸して。」

静流「…ちなみにレンブラントさんは俺のよりデカくて軽いの持ってる。」

するとジェッソが「ああ!あの絵を描く奴か。」と言い「ちょっと貸してくれるか聞いて来よう。」と言ってブリッジから出て行く。



アンバーでは既にマリアがタブレット端末を使って図を書きつつナビをしていた。

操縦席のバイオレットにタブレットを見せつつ「こんな感じ。谷の中に入るから、10分直進したら高度を下げて減速して2時半位へ。」

バイオレット「了解!」

マリアの隣に立つ穣もタブレットを見つつ「マジで人型ナビだよなー。死然雲海って探知人工種が居ないと絶対無理。」

マリア「でも迷っても妖精さんがいるから。」

穣「源泉石どこ?ってのは教えてくれないけど。」

マリア「ご機嫌とったら教えてくれるかも?」

穣「ところで次のとこは等級どんな感じ?」

マリア「さっきの所よりは上物の源泉石だよ。」

穣「よっしゃ!…黒船には勝ちてぇな。…しかしなー。」と言って暫し言葉を切る。

マリア「…何?」怪訝そうに穣を見る。

穣「…ブルーも居れば面白かったなって。なんかすげーヤル気満々だったから、勿体ないなって。」

そこへ剣菱が「…満さん、レッドとお友達になってたな。不思議だ…。」

穣、頷いて「あれは謎だ…。」

マリア「あの3隻が居たら、探知も楽しかったのに。」

剣菱「せっかく探知講習会したんだしな。」

穣「管理なんか無視して来りゃいいのに。」

剣菱「ただレッドは船長が…。」と言って溜息をつくと「何にせよ本人達次第だな。昔、ウチの船が勝手に外地に出たように。」

穣「あの時に比べたら、今は応援する仲間がこんなに居るんだから。」

剣菱「頑張って欲しいねぇ…。」



再び黒船。

上総がA4サイズのタブレットに図を描きつつ「これ便利だなぁ。」と呟くと、「これでわかる?」とタブレット画面を静流に見せる。

静流「…さっきよりはマシになった。」

ジェッソもその図を見て「そういやカルロスさんは、図で説明するのも上手かったな。昔、採掘現場が難所だと、どの辺に鉱石があるか採掘準備室のホワイトボードに図を書いて説明してた。」

上総、ちょっと凹み顔で「…俺、もっと絵心を鍛えないとダメかなぁ。」

静流「絵心というよりも…。」

ジェッソ「…説明心というか…。」と言って、ふと窓の外を見て「えっ!?」と驚いて右舷側を指差し「あれ!」

上総と静流もそれを見て驚く「!」

死然雲海の濃い雲の中に、うっすらと船のような影が見え隠れしている。

静流、右舷側の窓を見ながら「真横に船がいる!」

その言葉に総司「えっ?!」と驚き船長席を立ち、「レーダーに何も映ってないぞ!」と言いつつジェッソの所に急ぎ来ると右舷側の窓を見て「何で…?」

上総も唖然として「俺も何も感知してない…。」と言ってハッとすると「あっ…えっ?もしかして…?!」と混乱しつつ驚いて「こんな至近で船のレーダー妨害出来んの?」と驚愕の顔になる。

総司、そんな上総を見て「って事は…!まさか」と言うと、バッと船長席に駆け戻って受話器を取り、どこかに電話を掛けて「こちら黒船の総司です!」と言いつつスピーカーのボタンを押す。

駿河『カルセドニーの駿河です。』スピーカーから声が流れる。

総司「隣を飛んでますよね?レーダーに映らないんですけど!」

駿河『…ホントに?』

総司「本当です!」と言っている所へ上総が駆け寄って来て、自分も話をしたいというジェスチャーをする。

駿河『…この金髪の人型探知機、恐ろしい事しますね…。』

総司「全くです!こんな視界の悪いとこでレーダー妨害って危険でしょう!ガッツリ航空法違反ですし!一瞬、レーダーがトラブったのかと思いましたよ!」

静流も操船しながら溜息をついて「びっくりした…。」

駿河『こっちのレーダーでは黒船見えてるから、まぁ…安全な距離を取ってはいるけど。なんか俺の後ろでコソコソと、黒船だからやったんだとか言ってる人が』

総司「上総に代わります!」と言って上総に受話器を渡す。

上総、受話器を受け取るなり「カルロスさん、もしかして同じとこ狙ってんですか!」

駿河『…後ろで、もーちょっと雲海が濃かったらバレなかったのにーと本人が悔しがっております。』

上総「もし同じとこなら絶対譲らない、意地でもカルセドニーに付いて行く!」

駿河『というか、大型船が小型船と同じとこ狙ってどうするん…。ウチと同じとこ行っても』

上総「ちなみに等級いくつのを狙ってるんですか。」

途端に護の『秘密だー!』という声が聞こえて来る。

駿河『…秘密です。まぁその』と言って暫し黙ると『…モタモタ飛んでるからウチに追いつかれるんだ、と金髪の人が。』

上総「だって源泉石探知慣れてないし等級ワカランし雲海の航路ナビの説明難しいし!」

駿河『まだ最初だもんな。』

上総「だから付いて行きます!」

駿河『さっきアンバーにサービスしたから、黒船にもサービスしよう。』


カルセドニーは黒船を引き連れて雲海を飛ぶ。暫く飛ぶと徐々に高度を下げて速度を緩めていく。

徐行で飛ぶカルセドニーの搭乗口のドアが開いて右手に黒石剣を持ったカルロスが戸口に現れると、左手でドア前の手すりに掴まりつつ右半身をドアの外に出して進行方向を見る。そこでバッと軽く黒石剣を振ると、前方の雲海が若干払われて周囲の景色がうっすら見え、前方に、岩山の谷間に一本だけ生えた背の高い木が見えて来る。カルセドニーはその真上に来ると停止してカルロスが木の近くに飛び降りつつ黒石剣で周囲の雲海を思いっきり切り拓くと同時に、採掘道具を入れた麻袋を背負った護も続いて飛び降りる。2人が木の左側の若干白く光る崖に向かって走っている間にカルセドニーは木の近くに着陸する。黒船はその後ろの上空に停止する。

護「カルさん写真!」

カルロスは上着の胸ポケットからカメラを出して源泉石層を撮ると、写した画像を確認して「撮った!画像も確認済み。」

その間に黒船の採掘口からメンバー達が降下して来る。

護は「んじゃ採るぞ!」と言いガンとツルハシを源泉石層に振り下ろす。

何回かガンガンとツルハシで石の層を叩くが石は全く削れもしない。

護「むぅ…。これはなかなかキツイ…。」

カルロスも黒石剣でガンガンと石の層を叩いて「確かに、んー…。」と考えて「石に負けそうだな。」

そこへ上総がカメラ片手に走って来て「写真撮ります!」

同時にジェッソが護の隣に来て「ちょっとやらせてくれ。」と言ってツルハシを構え、ガンッと振り下ろす。

途端にツルハシが石に食い込み、源泉石層に大きなヒビが入る。

カルロス「おお。」

護、ちょっと唖然として「凄い筋力…。」

ジェッソ「崩すぞ、離れてくれ!」

カルロス達は若干離れる。

ジェッソはガンッガンッと数カ所を叩いて亀裂を増やすと、場所を確かめてツルハシで亀裂を抉る。すると石の層がガラガラと崩れて源泉石の塊の山が出来る。

カルロス若干呆れた顔で「…おお…。」

ジェッソ「源泉石は筋力だ。この日の為に鍛えた甲斐があった!」

護とカルロス、微妙な顔で「えー…。」と否定的な声を上げる。

カルロス、皮肉な笑みで「筋力で、ここまで出来る事に驚いた…。」

護も「どんだけ筋トレしてるん…。…俺、どうやって採ろう…。」

レンブラント「護も筋肉を鍛えるのだ!」

護「源泉石って本来は、石の性質に合わせて自分のエネルギーを上手く使って採るんだ…。」

レンブラント&ジェッソ同時に「そうなのか。」

護「うん、それが出来ないなら筋力で…。」

すると上総が「そういう事なのかぁ。」

ジェッソ「石の性質に合わせる、とは?」

護「荒い物にはより荒く、繊細なものにはより繊細に、っていう感じ。」

ジェッソ「…ほほぅ。よし練習してみるか!」

カルロス「筋力がある上に、石に合わせて自分のエネルギー使えるようになったら、最強だな…。」

護「!」その言葉にショック受けて「た、確かに…。エネルギーは練習出来るが筋力はすぐには増やせん…。」

レンブラント「護、やっぱり筋トレだ!」

護「一週間で筋肉そんな増えないし!」

カルロス「ちなみに、この源泉石は恐らく等級5だからな。小型船なら平均レベルだが大型船だと物足りない。」

ジェッソ達「!」

護「大型船は人手があるから人海戦術で等級7とか採る。…等級7は筋力で採れるのかなぁ。」

ジェッソ、嬉しそうな顔で「どんだけ硬いんだ等級7…腕が鳴る!」

レンブラントも喜々として「なんかワクワクして来たな!」

昴「楽しみになってきたー!」

カルロス「…硬いと喜ぶのか…。」

護「俺はとにかく等級5の攻略!…くっそー…参ったな…。」と言いつつツルハシで源泉石層をガンと叩く。




その頃、ジャスパー側。

レッドは山麓の崖の近くに着陸し、メンバー達は崖の大きな割れ目の中のイェソド鉱石を採掘している。

ブリッジの窓際に立って上空の管理の船を見ていた春日は、操縦席の相原の方を見て「管理さん、いつまで監視すんのかなあ。」

相原「さぁなー。」と言って欠伸する。

春日「…こんな状況でも皆キチンと採掘すんのね…。サイタン以外は。」

相原「いつものパターン。」

春日「管理に反抗して全員サボってもいいのに」

相原「それで春日さんがクビになって、あの人が戻って来たら困る。」

春日「んー…。」と考えて「…そこなんだよなぁ。別に俺はクビになってもいいんで、強硬手段でレッドをイェソドに連れて行ってもいいんだけど、しかしその後にあの人が船長に返り咲くとなぁ…。」

相原「そしたら俺も船を降りる。…多分、岩代さんも一緒に降りる。」

春日「…人間はいいけど人工種達は降りられない…。」

相原「んー…、それは…。」

春日「…あの船長、一体…。」と悩んで「…俺はいつまでレッドの臨時船長やるんだ…。」

相原「このままずっと船長でもいいけど。」

春日、暫し黙って「このままじゃ管理に頭が上がらないしスッキリしないし。皆、心の中モヤモヤしてるだろ…。」

相原「まぁねー。」

春日「せっかくサイタンの闘志が目覚めて、面白そうだと思ったのに。」

相原「サイタン、凄い燃えてたな。…あれは源泉石採掘させてやりたかったよなぁ。」

春日「あのエネルギーが勿体ない。」と言うと窓から管理の船を見て「いつか暴発しないうちに何とかした方がいいぞ、管理さん…。」


シトリンは森の中を流れる川の近くの拓けた場所に着陸し、川岸の崖の鉱石を採掘している。

その上空には管理の船が一隻。

怪力の陸やターナー達が大きな鉱石をコンテナに詰めている横で、ジュニパー達は崩した細かい鉱石をシャベルで集めてコンテナに入れる作業をしている。一同、暗い顔で、あまり元気がない。

ふとジュニパーが手を止めて溜息をつくと「…探知講習会、楽しかったわねぇ…。」

綱紀「…うん。」

そこへコーラルが「どんなことしたの?」

ジュニパー「ブルーのお坊ちゃまをいじったり、レッドの王子様を弄んだり。」

コーラル「それってどんな…。」

ジュニパー「久々にカルちゃんと沢山お話したわ…。」と言うと溜息をついて「カルちゃん、ステキになったわねぇ…。」と顔を赤らめる。

コーラル「…。」

ジュニパー「昔は氷のようにキンキンに冷えてたのに。あのクールなカルちゃんもステキだったけど、今のマイルドな深みのあるカルちゃんもステキ…。」

コーラル「謎の領域に入ってきた…。」

綱紀「…そんなにカルちゃんラブだと、ターナーさんが嫉妬しますよ。」

ジュニパー、うふふと笑って「いいのよ。」と言うと「…源泉石採掘、行きたかったわねぇ…。」

綱紀「…有翼種に会いたかったな…。」

コーラル「どうして?」

綱紀「未知の世界で、自分の力を育ててみたい。」

するとジュニパーが「もー、綱紀ちゃんもマイルドになっちゃって。カルちゃんのお蔭ね!」

綱紀「はぁ、まぁ…。」と照れる。

コーラル「マジで突然、すげーマイルドになった。雰囲気ガラッと変わったし!」

綱紀、嬉しそうに微笑んで照れつつ「…まぁでもホントに、源泉石採掘やりたかったですよね。」

コーラル「やりてぇー!…他の船と一緒に何かするって滅多に無いし!」と言うと「なんかずっと他船はライバルで嫌な奴らって思ってたけど、この間のアレで、他船の奴って楽しいんだなって。」

ジュニパー「特にレッドなんてガンガン燃えてるし。」

コーラル「だからさー、…源泉石採掘バトル、やりてぇよ…。せっかく面白い事が出来ると思ったのに…。」

綱紀「ですよね…。」と言って寂し気に溜息を付く。