第13章 02

夕方、イェソド。

ケセドの街の源泉石置き場には続々と採掘船が戻って来る。

各船それぞれ指定された場所に着陸して採った源泉石を降ろすと、すぐに石置き場から飛び立って駐機場や補給所へと移動する。


係の有翼種の誘導で石置き場に着陸した黒船は、船底の採掘口を開けタラップを降ろして源泉石柱やコンテナを運び出す。と同時に下で待っていた担当の有翼種達がそれをチェックしつつ大型の台車に積む。

有翼種の一人がジェッソ達に「柱はこれだけ?」

ジェッソ「はい、その一本だけです。ちなみにそれ、等級いくつですか?」

すると有翼種は驚いた顔で「えっ。…そうか初参加だから、知らずに採ってきたのか。」と言うと「んー、俺は石屋じゃないんで正確な判定が出来ないから…ロイさん」とタブレット端末をチェックしていた黒船担当のロイの方を見る。

ロイはジェッソ達の方を見て「ならこの後、船を駐機場に移動させたら集積所に行くといいよ。デカイ柱とか見られるし石屋がウロウロしてるから、説明してくれる。…という事でD2のオブシディアン、チェック終わった。あとカメラ…いや、ここは現金払いか。えーと、査定は何時になるかな。」と時計を見て「今まだ混んでないから30分…まぁ1時間後だと確実だな。」それからジェッソに「船長さんに、カメラ持って本部行って今日の報酬を貰うように伝えて下さい。」

ジェッソ「はい。」

ロイ達は「じゃあ明日も頑張ってね!」と言うと手を振って大型台車を集積所の方へ押していく。

残った有翼種が「皆さん船内に戻って。船を駐機場に誘導しまーす。」と言い船首方面へ飛んでいく。


黒船は石置き場のすぐ隣の駐機場の一画に着陸する。暫くすると、船内から総司の他にジェッソや上総達が出て来て、集積所の方へと歩き始める。周りに泊まっている有翼種の採掘船を眺めつつ駐機場を出て、大きな倉庫のような建物の間の通路を少し歩くと集積所の通用口らしき入り口に着く。中に入ろうとすると、近くに居た有翼種が「あれっ?」と声を上げて一同を見る。

有翼種「ここは集積所だよ。本部じゃないよ。」

総司「見学に来たんです。中を見てもいいですか?」

有翼種「見学?」と驚いて「まぁあんまり石屋の邪魔しないように…。」

ジェッソ「出来れば石屋の方に、源泉石の等級を教えて頂きたいのですが。」

有翼種「えっ。…等級がわかんないの?」

ジェッソ「はい。なにせ初参加なので。」

総司「人工種の世界では、源泉石に等級を付けて無いんです。」

上総「だから勉強したいんです!」

有翼種「そしたら、ええと。」と言って集積所の中を見回し、少し離れた所で入り口の一同の様子を見ていた有翼種に「バートンさん!」と声を掛ける。

バートン「ん?」と言いつつちょっと飛んで一同の所に来る。

有翼種「彼らが、源泉石の等級を教えてほしいと。頼みます。」

バートン「分かった。」

有翼種「では俺はこれで。」と言い入り口から出て行く。

総司達、それを見送り「ありがとうございます!」

バートン「君達、オブシディアン…黒船って言うんだっけか。以前、護が乗ってた船の。」

総司「いや、護さんはアンバーです。」

バートン「あれ。カルセドニーの奴らが前に乗ってた船だよね?」

総司「いや、護さんだけは」

そこでバートン、ふと思い出して「ああ!護だけアンバー色の服を着てたもんな!駿河さんとカルさんが黒船か。」と言うと「俺、護がイェソドに来た時からずーっとあいつの採るケテル石を見てるんだ。」

総司たち「!」

ジェッソ「そうでしたか!」

バートン「黒船ねぇ…。もし君達が本気で大死然採掘に行きたいなら、もーっと頑張らないといけないぞ。」

ジェッソ「と言うと…。」

総司「ウチの成果は、どんな感じなんですか?」

バートン「…じゃあ実際に君達が採って来た石を見ながら説明してやるか。こっちへ」と手招きする。

集積所の中に入ると右に大型台車の巨大な搬入口があり、その周辺で何人かの石屋が採掘船から降ろされたコンテナや源泉石柱を選別、仕分けする作業をしていた。左には等級別の源泉石保管スペースがあり、バートンは『3』という大きな張り紙のある壁際に向かう。そこには木箱が少し置いてある。バートン、それを指差して「まずこれ、君達の採って来た等級3の源泉石。」

ジェッソ思わず「え!」

総司も「3…なんですか?」

バートン、木箱の中の源泉石を手に取り「採り方が荒くて雑に砕かれて、細かくなってしまったから3。採り方が良いと等級4になった。」

上総「それでも4なの…。」

バートン「別に等級が低いからってダメな石って訳じゃない。各等級で性質が違うから用途も違って、それぞれ需要がある。ただ、等級が低いものは採るのが簡単だから、特に小型船が大量に採って来る。…だから大型船には大型船が採れるものを採って来て欲しいって事。」

総司「…なるほど。」

バートン、右側のエリアに移動しつつ、『4』という大きな張り紙のある壁際に積まれた木箱を指差し「こっちは等級4なんだけど、大型船には等級5以上を採って来て欲しいので、5に行く。」と更に先へと歩く。すると『5』と張り紙のある壁の下に沢山の木箱や石柱が積んであるのが見えて来る。

バートン、積まれた石柱の一番上を指差して「この一番上のが君達の採って来た柱。」

レンブラント「ほー!」

昴「あれ5だったのかー。」

バートン「あと等級5の石が、確かコンテナ1個分位はあったかな。それが今日の黒船の一番良い成果。この中のどっかに入ってる。」と隣に積まれた沢山の木箱の山を指差す。

ジェッソ「うーん…。」と腕組みして「6以上が無いとは…。」

バートン「厳しい言い方をすると、今の黒船は普通の小型船レベル。とはいえ護もイェソドに来た最初は何も分からないから酷い石を採って来た。それがどんどん上達したから君達にも期待してる。」と言い「ここは等級5までで、6以上は通路を挟んであっち側の建物だ。」と搬入口の更に先を指差して「行こう。」と歩き出す。

少し歩くと石屋の人々が大型台車からコンテナを降ろし選別をしているエリアに差し掛かる。

バートン、歩きつつ「この辺に来るのは小型船のコンテナ。小型船で6以上はまず無いから。」

そこへ搬入口からコンテナと源泉石柱を載せた大型台車がやって来て、バートン達の前を通って行く。

途端にバートンが「あっ!」と声を上げて「それちょっと待って!」と大型台車を引き留める。

ジェッソも気づいて「D1!」と台車を指差す。

見ればコンテナや石柱にD1のラベルが付いている。

総司「アンバーの積み荷か!」

台車を押して来た有翼種が「そう、アンバーのだよ。…皆さん、なぜここに?」と黒船のメンバー達を指差す。

バートン「源泉石の等級が分からないから教えてほしいって、来た。」

有翼種「…なるほど…。」

バートン、台車に積まれた源泉石柱を指差して「この柱、全部5だな。」

有翼種「あぁ…。もしかして、それで柱が多いのか。」

バートン「うん。いい作戦ではあるよな。」

ジェッソ「…どういう事でしょう?」

有翼種「柱の方が採り易いから。」

バートン「形を崩さずそのまま採るだろ。変な砕き方して等級が落ちる心配がない。」

ジェッソ達「!」

レンブラント、ガッツポーズで「なるっほー!」

ジェッソ「そういう事かぁ!…しかしアンバーはそれが分かってて柱多めに採ったのか、それともたまたまなのか…!」

昴「イイコト聞いた!」

有翼種「でも等級5の柱では…。小型船ならともかく」

バートン「君達、大型船だろ?せめて6、出来れば7の柱が欲しい。…ただ等級上がると、力任せに叩き切ると、ヒビが入って変に割れるから気を付けて。」

ジェッソ「むぅー…!」

レンブラント「筋肉作戦がっ…。」

総司「…ちなみに、今日の成果は、黒船とアンバーどっちが勝ちそうですか?」

有翼種「アンバーの分は、これからだよ。」

バートン「ただ2隻とも同じレベルだとすれば、柱の多い方。」

総司「そうですか…。」

ジェッソ「大丈夫です船長、明日からまた頑張ります!」

昴「アンバーには負けない。」



暫く後。

剣菱とセルリアンが、集積所の隣の建物に向かって歩いている。建物内に臨時に設けられた選考本部の入り口を見つけて中に入ると、受付のカウンター上にカメラを置きつつ「D1のアンバーです。本日分の報酬を頂きに来ました。」

受付の有翼種はカメラを受け取ると「チェックするので少しお待ち下さい。」と言ってカウンター下の机に置かれた端末で何やら作業を始める。

剣菱の隣で物珍し気に周囲を見ていたセルリアンは、ふとカウンターの端に置かれた薄いモニター画面を見つけると、剣菱の腕をつついて「船長、あれ!」とモニターを指差して「今日の成果一覧です!」

剣菱「おお。」と驚きつつモニターを見る。

そこへ本部の入り口が開いて総司とジェッソが入って来ると剣菱達を見て「あっ」と声を上げる。

その声に剣菱とセルリアンも2人を見て「あっ。」

総司、若干呆れた顔で「なんかタイミングが被りますね…。」

剣菱、モニターを指差して「結果出てるぞ。」

総司「…知ってますよ、アンバーの勝利って。」

剣菱「え。誰かに聞いたの?」

総司「実際に見ました。さっき集積所に源泉石の等級を勉強しに行ったら、丁度アンバーの荷物が届いた所で。」

剣菱「なんと!」

総司「石屋に色々教わっていたら、アンバーの皆さんも集積所に来たので黒船は退散した所です。」と言って受付カウンターの前に行くと、カメラを出して「D2、オブシディアンです。本日分をお願いします。」

有翼種「はい。」と言ってカメラを受け取ると剣菱の方を見て「D1のアンバーの方、まずカメラを返却します。」と言ってカウンター上にカメラを出す。剣菱はそれを受け取る。次に有翼種はカウンター上に封筒を出すと「これが本日分で、中に明細が入っているのでお確かめ下さい。」

剣菱は「どうも」とそれを受け取ると、モニターのある方に少し移動してから中の明細書を出して現金を確かめ始める。

その間にセルリアンはモニターを見て「…カルセドニーはまだ戻ってないんですね。」

するとジェッソが「満載するまで戻らないのかもな。」

セルリアン「えっ。」

ジェッソ「まぁ、いつ戻って降ろすかは各船の判断だ。例えば遠方行って大量に採るなら一旦降ろしてから行くし。」

総司「ウチは石の等級が分からないから、とりあえず戻って採った石の評価を見ようと思ったら、アンバーと被りました。」

剣菱「ウチは、初日から飛ばすと後々疲れが溜まるから、初日はゆっくり行こうって事で戻って来たんだ。」

総司「そうだったんですか。」

有翼種「D2オブシディアンさん、カメラの返却と…。」と言ってカメラをカウンターの上に出す。

剣菱「…いつも黒船って呼んでるからオブシディアンって聞くと妙な感じがする。」

セルリアン「別の船かと思いますよね。」

総司「…実は俺も妙な感じがしてました。」

ジェッソ「いつも黒船船長だしなぁ。」

受付の有翼種はちょっと総司を見てから、カウンター上に封筒を出すと「こちら、お確かめ下さい、オブシディアン船長さん。」

総司「…ど、どうも。」微妙な顔で封筒とカメラを受け取る。

ジェッソ「物凄い違和感…。」

セルリアン「オブシディアンそのものはブルーアゲートと同じような長さの言葉なのに、なぜ長ったらしく感じるんでしょう。」

剣菱「やっぱり黒船が正式名称なんだな!」

総司「…そうですね…。」