第16章 02
一方、その頃カルセドニーは。
霧深い森の中、一本だけ生えている源泉石柱を採ろうとしている護。駿河とカルロスが護の背後に立ってその様子を見ている。
石柱は、護の腰の高さ程でそれなりの太さがある。その平らなてっぺんを触っていた護は、屈んで側面をコンコンと叩き、傍らに置いた白石斧を取って刃を石柱の側面に当てる。そのまま暫しじっとしてから立ち上がると、今度は斧を石柱のてっぺんに当てる。そこで何か考えると斧を石柱から離して下に降ろし、はぁ…っと溜息をつく。
そんな護の様子を見て、カルロスが「…どんな切り方でもいいから、とにかく切ってしまえば…。」
護「でもこれ多分、等級7だと思うんだ。こんな光ってるし。」
カルロス「周囲が霧で薄暗いから、明るくは見えるけど、多分等級6だぞ?」
護「でも形がいい。てっぺんが綺麗に平らになってるし。」
カルロス「…ただちょっと太いよな…。思うに、てっぺんが平らなのは上を切られたからでは?」
すると駿河が「あ、なるほど!それ切り口なのか!」
カルロス「推測だけどな。」
護「とにかくもう失敗したくないんだ!」と言うと「もしこれが切り口だとしたら、やっぱり横に切るべきで、相当キレイな切り口にしないと等級が落ちる…。」
カルロス「でもそれ根元近くで横に切るの難しそうな。」
護「だからこそ、頑張るんだ!だって難しい事が出来たら評価上がるし!」と言って斧を寝かせて柱の根元付近に当てる。
カルロス「…。」
若干不自然な姿勢で、護は思い切って斧でガンと石柱の根元を叩く。斧の刃が太い石柱の中央付近まで入ったと思った瞬間、そこから上に向かって縦にヒビが入る。
護、ビックリして「あー!」と叫んで動きを止めると「ああーもう!割れた!」と投げやり的に言い、イライラした様子で斧をゆっくり引き抜くと同時に縦に割れた柱の半分がゴロンと地面に転がる。
護「また失敗したし!ちくしょー!俺のバカあぁ!」と叫びながら残り半分の石柱の根元を斧で切って倒す。
駿河は地面に転がった石柱の片割れを持ち上げると「おっ。俺でも持てる!」
護「これ等級いくつになるんだろう…。」
カルロスは残りの石柱を抱え上げると「船に戻るぞ。」と言って駿河と共に薄暗い森の中を歩き出す。
石柱を持った2人の後を、ガックリと肩を落とした護がトボトボと付いて行く。
少し歩くと木々が少なくなり、草原の中に着陸しているカルセドニーの船体が見えて来る。
3人は船体横の扉を開けて貨物室の中に入ると、空いているコンテナに源泉石柱を入れる。
護は貨物室の扉を閉めるとションボリ顔で「カルさん、ごめん。せっかく良い物を探知してくれたのに…。」と言い貨物室の中を見回して、「まだ半分も埋まってない。早く満載にしたいから、質より量で行くかなぁ…。」と溜息をつく。
そんな護に駿河が「そんな急いで満載にしなくても。」
護「でも…。俺、質の良い物をキチンと採る自信なくなって来た…。物量作戦の方が、認められるかなって…。」と言いつつ視線を床に落とすと「なんかホント、カルさんゴメン…。俺、カルさんの労力を無駄にしてばっかのような。」
カルロス「…。」
護「とにかく頑張るから、次のとこ探知して…。」
カルロスは溜息をつくと「そんなガチガチに緊張してたら採れるモンも採れなくなるだろう…。」と呟き、「だから石茶でも飲めと。」
護「だからそんな暇は無いって!」と怒る。
カルロス「んー…。」と腕組みをする。
護「だって俺、このチャンスを活かさないと…。だって来年の選考採掘に参加できるか分からないし、カルさんが居てくれるかどうか…。」
カルロス「私より凄い探知と出会うかも。」
駿河「人生奇想天外だし。来年の事はワカラン。」
護「とにかく頑張らないと!」
カルロスは「んー!」と唸ると「よし、良い所を探知したぞ!行こう船長。」と駿河を引っ張ってブリッジへと歩き出す。
護、それを追いかけつつ「次こそ頑張るから!」
それから約30分後。
カルセドニーは雲海を出て、晴れた空を飛んでいる。
ブリッジの窓から外を見ていた護は、怪訝そうに「雲海から出ちゃったぞ…?」
やがて前方に、蛇行する川が見えて来る。
カルロスはそれを指差して「あの河原に着陸。」
駿河、思わず「え?」と怪訝そうな声を発する。
護も驚いて「あそこ行くの…?」
カルロス「うん。」
その河原には明らかに人為的に造られた、平らな石が敷き詰められたスペースがあり、更にそこから川に向かって平らな石が道のように並べられている。カルセドニーはそのスペースに着陸する。
護「…ここ、前に皆で作った温泉ですけど。」
カルロス「よし温泉入るぞ護!」と言ってブリッジから出て行こうとする。
護、慌てて「待って何言ってんのカルさん!」とカルロスの腕を掴んで引き留める。
カルロス「急がば回れだ!急ぐ時ほど回るんだ!」
護「だからって温泉?」
カルロス「ってか私を温泉に入らせろ!」と言って護を振り切ってブリッジを出て行く。
護「ええ…。」と唖然としていたが、やおら駿河を見て「船長…。温泉だって。」
駿河「いいと思う!焦っても仕方ないし。」と言うとエンジン停止の操作をしつつ「この川、鉱石水の川だからなぁ…。俺も入れるかどうかは、緑色の妖精さん次第だなー。」
護は不服そうな顔で駿河を見ていたが、諦めたようにトボトボとブリッジを出て行く。
数分後。カルセドニーの搭乗口からバスタオルを腰に巻いた裸のカルロスが出て来ると、平らな石の道を渡り歩いて川の傍に来る。
カルロス、川の中に手を入れて「ちょっとぬるいな…。」と言うとバスタオルを外してその場に置き、川の中の、大きな石で囲まれた所に入り、そこで腰を下ろして胸の辺りまで湯に浸かる。
続いて護がやってきて、バスタオルを外してその場に置くと、渋々といった感じで川の中の湯に入る。
カルロス「ちょっとぬるいがリラックス出来る。」
護「…。」
そこへ服を着たままの駿河が、周囲をキョロキョロ見回しつつやって来ると「こんな時に限って妖精が居ない!…俺も温泉入れるのかなぁ?」
カルロス「今日のエネルギーは前に来た時よりちょっと高いから、妖精が…」と言い掛けて、ふと川の上流を見る。つられて駿河もカルロスの視線の方向を見る。少しすると、プカプカ浮かぶ何かが上流から流れて来るのが見える。
駿河「来た!」
カルロス「…ドンブラコして来るとは…。」
流れて来た数匹の妖精達は、大きな石を乗り越えてカルロス達の所に来ると、プカプカ浮かんだりバシャバシャとしぶきを上げて泳いだりし始める。その中の一匹、緑色の妖精が駿河の所に近づく。
駿河はその緑色の妖精を抱き抱えると、妖精に「俺も温泉入れるかな?…え、今日はダメなの?」
カルロス「中和石の妖精が居てもダメか。」
駿河「うん。仕方ないから俺はここで見学してる。」と妖精を抱いたまま、その場に腰を下ろす。
カルロス、お湯を手ですくって自分の肩に掛けつつ「まぁ今日はちょっとぬるいしな。個人的にはもう少し熱いといい。」
護、ポツリと「…こんな事してんの、ウチの船だけかも…。」
カルロス、暫く黙ってから「何となく思うに、イェソドに来る前の、昔の護はこんな感じだったんだろうな。」
護「…。」
カルロス「あの満が長兄で、次男が穣で、三男はよくワカランが満とベッタリなのはわかる、四男が護、末子が透で穣とベッタリ。お前、孤独だったんじゃないか?」
護「えっ?」と顔を上げてカルロスを見る。
駿河「確かに、ちょっと中途半端な位置付け。」
カルロス「三男と、どっちが長兄に認められるか競ってて、かといって次男の穣の言う事も聞かないと、末子の透に嫌われる。」
護「…まぁ、物凄い気を遣う立場ではあったよ。いつも相手の顔色伺ってばっかりで…。」
カルロス「逆に言うとお前ホントに共感性が高いというか…。人の機微を良く見ているというか、だから私はお前に出会って救われたんだ。」
護、ちょっと微妙な顔でカルロスを見て「…そうなのか?」
カルロス「うん。…で…。」と言って暫らく黙って考えると、やおら溜息をついて「とにかくもっと気楽にやって欲しいんだ。いくら私が探知が出来ると言っても採るのがお前しかいないんだしお前は新人なんだから、…誰もお前に過度な期待はしてないぞ。」
護「それはそうだけど…。」
カルロス「多分、長兄の声がお前の頭に響いてんだな。人様に迷惑かけるなとか、製造師を喜ばせろとか、過去に色々言われた事が自動的に出て来る。でもお前は当時から相当頑張っていたと思うんだよ。今のお前を見てると分かる。」
駿河「それは本当にそう思う。」
カルロス「むしろ今以上に、長兄に認められたいと必死に頑張ってたと思うんだ。しかしだな。」と言って一旦言葉を切ると「正直、私にとっては護が私の為に頑張る事は、非常に重たくてウザくて嫌なんだな。」
護「…。」多少、ショックを受けた顔でカルロスを見る。
カルロス、護を指差し「多分、その事に何となく気づいてるだろ、お前は。」
護「うんまぁ…。」と言葉を濁して「だけど、なんか、…どうしてもさ…。」
カルロス「もしも私が、護の為に!って壮絶に頑張ってたらお前、嫌だろ。」
護「そうだねぇ…。」と言って長い溜息をつく。「だけどせっかく凄い探知のカルさんが居て、良い石を探知してくれるのに、何で俺はそれをちゃんと採れないのかって、悔しいんだ…。自己嫌悪したくなる。せっかくのチャンスを自分で潰してるって。」
カルロス「それを私のせいにするな。」
護「え?」と怪訝そうな顔をする。
カルロス「お前が自分の技量不足を嘆くのは自由にしたらいいが、カルさんに申し訳ないってのは要らん!」
護「…うん。」と言い、それから「…でも…。」と言ってちょっと黙り、目に涙を滲ませるとポロリと涙を零す。
カルロス、そんな護を見て、ため息交じりに「…お前…。」
護は右手の甲で涙を拭い、「カルさんが俺を責めてないのは分かるんだけど…。」
駿河も護を見つつ「…自分に厳しいんだなぁ…。それだけ真剣って事でもあるけど。」
カルロス、護を指差して駿河に「こういう真面目で真剣な奴をブッ潰すのが管理とか、どこぞの満みたいな奴だよな…。」
駿河、頷き「こんな頑張ってるのに、もっと頑張れって言うからね…。」
護は両手でお湯をすくってバシャバシャと顔を洗う。
カルロス、溜息ついて「…何度も言うけどお前はアンバー時代に今の自分を想像できましたか!」
護、俯きつつ「…出来ませんでした。」
カルロス「黒船のカルロスと一緒に裸で温泉入るとか、当時想像できましたか!」と言いつつ目の前にプカプカ浮かんでいる幸せそうな妖精を掴んで護の方に投げる。
護、それを受け止めて「出来ませんでした!人生は何がどうなるやらです!」
カルロス「って事は選考に落ちてダメだと思ってても後々いつか奇想天外な事で大死然採掘に行けるかもしれないし!」と更に別のニコニコ妖精を掴んで護に投げる。
護、それも受け止めて、若干やけくそ気味に「そうですね!」
カルロス「だったら今は楽しく気楽に源泉石採掘を楽しみませんか!」
護「…はい!」と言って涙を拭う。
カルロス「よーし。」と言うと「ぬるいけど温泉気持ちいいな。もう少ししたら上がろう。」
駿河「今日は早めに昼飯にしますかね。…俺は今から昼飯作りをしよう。」と言って妖精を抱いたまま立ち上がる。
カルロス「魚でも釣れたらなー。この川、魚が居ないんだよな。温泉水だから。」
護「…もし居てもカルさんが探知すると逃げるじゃん…。」
カルロス「魚って敏感だよな。人の探知エネルギーを察知するとは!」
護「多分、捕まえようとしてるのが分かっちゃうんだよ。」
途端にカルロスがハッとして「…お前、鋭いとこ突いたな。」
護「え?」キョトンとした顔をする。
カルロス「確かに、捕まえる為に探知すると捕まえようっていう気配がバレるのか!それは盲点だったー!」
護「…。」
暫く後。
カルセドニーの貨物室の空いているスペースに昼食の準備をしているカルロスと護。床にシートを敷いて、クッション3つと小さなテーブルを置き、カルロスは貨物室から出て行くが護はクッションに座ってボケッと昼食が来るのを待つ。次に駿河がご飯を盛ったお椀を3つ持ってくるとテーブルに置く。更にカルロスが味噌汁の入ったカップと箸を持って来てテーブルに置き、護に向かい合うように座る。
護、味噌汁の中身を見て「なんかキャベツが凄い主張してる…。」と言い箸でキャベツを摘まむと「…太い…。頂きます。」と言って食べ始める。
そこへ駿河がおかずの乗った皿をいくつか木のお盆に乗せて持ってくると、大盛野菜炒めが盛られた皿を護の前に置く。
護「…なんか通常より大盛な気が。」
駿河「貴方の大好物を作ってきました。キャベツ切るの疲れたから俺とカルさんはトマトだけです。」と言うと、切ったトマトを乗せた小皿をテーブルに置いて、カルロスに「キュウリも食べる?」
カルロス、トマトを1つ摘まんで口に運びつつ「いや、いい。」
護は野菜炒めを食べながら「見事にキャベツ一色な…俺の為にこんなに切ってくれたのか。」
駿河「ニンジンも入ってます。」
カルロス「良かったな護。これで午後から楽しく頑張れるぞ。」
護「うん。」
食事をする3人の周囲を、妖精達がポコポコと飛び回る。
駿河、ふと「そういやイェソド鉱石の妖精のご飯がイェソド鉱石って事は、中和石の妖精は中和石がご飯なのかな。」
護「どうなんだろ。」
すると緑色の妖精が駿河の所にやってきて、何かを訴える。
駿河「…中和石は食べないのか。鉱石を食べるんだって。」
護「へぇ。基本イェソド鉱石なのかぁ。」
駿河「なら浮き石の妖精は、イェソド鉱石を食べたら浮くとか?」
カルロス「こいつら元々、自力で浮くけどな。」
駿河「あ、そうか。…不思議な生き物だよなぁ。」と言うと、緑色の妖精に「ちなみに源泉石の妖精って居るの?」
すると緑色の妖精はポンポン跳ねて駿河の元から去ってしまう。
駿河「…秘密みたいです。」
カルロス「流石に選考採掘の審判を務めるだけある。」
妖精達はお互いポコポコ跳ねて、楽し気にぶつかり合いを始める。時々、跳ねて来た妖精が護達の背中にぶつかる。
護「…源泉石ってイェソド鉱石を活性化するんだよな。すると源泉石の妖精は、イェソド鉱石を食ったらどうなるんだ。」
駿河「光り輝くとか!」
カルロス「そんな気もする。」
護「…ってか実物の源泉石ってイェソド鉱石を近づけるとどうなるんだろ。後で試してみよう。」
食後。駿河はキッチンで洗い物をしている。その後ろの小さいテーブルではカルロスが立ったまま石茶ポットを持って3つのマグカップに石茶を注いでいる。それが終わると角に置いてある折り畳み椅子をテーブル脇に持って来て座りつつ、貨物室の方に向かって「護、石茶淹れたぞ!」と叫ぶ。それから自分のマグカップを持って、石茶にふーと息を吹きかけると、一口飲んで「…美味いけど普通のお茶っぽいから駿河でも飲みやすいな。」
駿河「俺は鉱石水で淹れてないなら、OKです。」
カルロス「大丈夫だ。そもそも石茶の味がワカラン人々に本格石茶を飲ませるのは勿体無い!」
そこへ護がやって来ると、「ちょい見て、見て。」
駿河「ん?」と護の方を見る。
護は右手にイェソド鉱石、左手に源泉石の塊を持っていて、それを2人に見せるように前に出すと「これとこれを合わせるとさ、ちょっと微妙に光って鉱石のエネルギー上がる。」と言いつつ両手を近づけて鉱石と源泉石を合わせる。すると双方の塊が微妙に光る。
駿河「おお。」
護「でも不思議な事があってさ。カルさんこれ両手に持って。」と握り拳サイズの鉱石と源泉石をカルロスに渡そうとする。
カルロス「?」怪訝そうな顔でマグカップを置いて、鉱石と源泉石の塊を受け取る。
護「その二つ、ぶつけて。鉱石と源泉石を。」
カルロス、言われた通りにする。
護「じゃあもっとガツンと力を入れて、思いっきりその二つをぶつける。」
カルロス、鉱石を持つ手を下に、源泉石を持つ手を上にして、上下にぶつけるように二つの塊をガツンとぶつける。
護「…カルさんだと割れない。」と言ってカルロスから鉱石と源泉石を受け取ると、「うーん…。」
カルロス「何なんだ一体。」
護「俺がやるとさ」と言って両手に持った鉱石と源泉石をコツンとぶつける。その途端、イェソド鉱石にピシッと亀裂が入る。
カルロス「そりゃお前は怪力だし」
護「違うんだよ。俺、カルさんほど力入れてない。…なんて言うかな…。」と考えると「俺、何となく源泉石の採り方が分かった。」
カルロス「ほぉ?」
護「イェソド鉱石を使うと、その源泉石をどんな感じで採ったらいいか分かる…と思う、多分。」
カルロス「…そうなのか?」
護「うん。多分。」と言ってキッチンフロアから出て行こうとする。
カルロス「護、石茶を…。」
護「あ、忘れてた。」と言ってテーブルの方に向き直ると、鉱石と源泉石を左腕に抱え、空いた右手で自分のマグカップを取ると、キッチンフロアを出て貨物室の方へ行く。
駿河、それを見送りつつ「…何か閃いたらしい。」
カルロス「…だな。」
それから暫くして。
雲海の中を飛んでいるカルセドニー。その搭乗口が開くと、黒石剣を持ったカルロスが姿を現し前方の雲海をバッと切る。視界が拓けて山々が見えると同時に、船体は近くの山に接近する。山の中腹の木々が疎らになった辺りで再びカルロスが雲海を切って視界をハッキリさせると、船体を崖の近くに接近させつつ崖の、少し窪んだ平らな部分にカルロスが飛び降りる。続いて白石斧と、何かを入れた麻袋を肩に背負った護が飛び降りる。
崖伝いに若干歩くと、護の背丈程の源泉石柱がある場所に着く。
カルロスはカメラを出して選考採掘用の写真を撮る。
その間に護は背負った麻袋を降ろして中からイェソド鉱石の塊を1つ取り出すと、源泉石柱の根元近くに屈んで、手に持った鉱石を石柱にコツンと当てる。その後も徐々に叩く力を強めながら、真剣な顔で何回も鉱石で源泉石柱を叩く。そして力を込めてガンと石柱を叩いた時、持っていたイェソド鉱石が割れて砕ける。
カルロス、それを見ながら不思議そうに首を傾げて「…?」
護は白石斧を手に取って、イェソド鉱石で叩いた源泉石柱の根元辺りに斧の刃を当てると、力を込めてガンと源泉石柱を叩く。斧が源泉石柱に食い込んだ瞬間、ビシッと水平に割れ目が走り、石柱がその部分で完全に根元から分断される。
途端に護はパッと明るい顔で「やった!」と叫ぶと石柱を身体で抑えつつ斧を地面に置き、源泉石柱を両腕で抱き締めるように持ち上げると、カルロスに嬉し気に「やったやった!等級6を、完璧に採ったよ!」
カルロス、若干ビックリして「おー…。」と声を発してから、「…一撃で叩き切るとは思わなかった。何がどうなった?」
護「コツを掴んだ!」
カルロス「なんかイェソド鉱石で叩いてたけど、つまり鉱石が砕けた所が切る所とか?」
護、ニコニコして「いや、力の加減なんだよ!砕けた時の力加減で、斧で切る!」
カルロス「はぁ。」
護「でもさっきカルさんは出来なかったから、多分、怪力人工種だけが出来るのかも。」
カルロス、首を傾げて「…さっきは説明が無かったからな…。次の所で自分も試してみよう。」
護「違うよ力加減って筋力じゃなくて怪力のエネルギーの事だよ。カルさん、筋力で叩いたけど割れなかったじゃん。」
カルロス「あ、あー!」と納得した顔をする。
護「だからこれ筋力じゃなくてエネルギーの力加減の目安になるかもって思ったんだ!」
カルロス「なるほど。…でも…鉱石が砕けるならそれは鉱石側の、硬さの目安なのでは?」
護「最初そう思ったんだけど、でも同じ鉱石で、同じ力で、色んな源泉石を叩いたら、石によって鉱石が砕けたり砕けなかったりするんだ。でも同じ源泉石で鉱石を叩くとどの鉱石でも同じ力で鉱石が割れる。」
カルロス「ほー…。」と分かったような分からないような返事をする。
護「何でそうなるのか原理はワカランけど多分、その源泉石のエネルギーの性質が、イェソド鉱石に伝わるのかなって。だから繊細な源泉石だと鉱石は少しの力で砕けるし、頑固な源泉石だと鉱石はなかなか割れなくなるし。」
カルロス「おお…!」と驚いて思わず拍手して「お前、鉱石の天才だな!」
護、笑って「たまたま発見したんだよ。これ強くぶつけたら強く光ったりするのかなぁとか色々やってた時に。」
カルロス「そういう事を考えるのが流石だな。よし、じゃあ次のとこを探知しよう!」
護は採った源泉石柱を両腕で抱き締めて、満面の笑みを浮かべつつ「良かった。…マジで嬉しい。やっと、やっと、光が見えた!」
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