第19章 02

カルセドニーは風に煽られてかなり左右に振れつつ真っ白な雲海の中を飛んでいる

ブリッジではカルロスが操縦席の椅子に掴まりながら必死に「2時!…11時!…3時!」

駿河「風が強えぇぇい!メッチャ流される、しかも視界ゼロってどんな!」

カルロス「少し高度上げろ!…うわ!」と大きな揺れで、よろめく。

護「…カルさん、座ってシートベルト締めたら?」

カルロス「その椅子、横向きだろ!今、身体が横になると方向を間違えそうで嫌だ!」

護「シートベルト要らんからせめて進行方向向いて座るとか…。」

カルロス「11時!…護うるさい、3時!」

駿河「せめて視界が見えてたら難易度下がるのに!」

カルロス「ここは小型船が来るべきでは無かったー!」

駿河「視界があって、航空管理の管理波みたいな誘導ナビがあれば問題ないけど!」

カルロス「管理波はキライだ!…10時へ!」

駿河「航空船にとっては必要だー!人工種のタグリングへの管理波は知らん!」

カルロス「2時!…ってかモノは使いようで、11時!…理不尽な管理波は無視すりゃいいのだ!」

護「とりあえず今は、金髪の人型ナビが居ないと遭難確定だね!」

駿河「まったくだなー!」

カルロス「正直、難易度高くて楽しいが、1時へ!…若干疲れて来たな!」

駿河「同じく操船が楽しいが、ちと疲れた!」

護「頑張れ頑張れ」

カルロス「11時!もうすぐ渓谷を抜けるぞ!」

駿河「あっ!…カルさん!」

カルロス「なんだ!」

駿河「レーダーに黒船とアンバーが出てる!」

カルロス「そんなヒマは無い!…3時!」

護「カルさん…もしや気づかなかったの?」

カルロス「そんなヒマあるか!」

駿河「わかる、大変だもんな!」

カルロス「ちっくしょー、ナビに集中しすぎて気づかなかったぁぁぁ!」

そこへリリリリと緊急電話のコールが鳴る。

カルロス「ちょっと待て!こんな多忙な時に!」

駿河「でも船が安定してきたし、風が治まって来たから多忙でもない。」

カルロス「電話に出てもいいけど、上総の探知に気づかなかった事は言わないでくれ…。」

駿河「うん。」と言って回線を開いてスピーカーをONにし、インカムに「はい駿河です。」

総司『黒船の総司です。今、そちらはどんな状況ですか。』

駿河「今、等級6の柱を採って戻って来た所です。何せ風が凄くって…。この人型探知機が居なかったら遭難確定してました。」

総司『これからどちらへ?』

駿河「未定です。そっちの状況は?」

総司『これから等級8を採りに行こうかと。』

護&駿河「えっ!」

カルロス「なんだと!…あの向こうの8を採りに行くというのか!」

護「いいなー!俺も8採ってみたいー!一緒に行きたい!」

駿河「無理っす!」

カルロス「駿河、若干11時!」

駿河「はい!」

護「…でも、黒船の後ろに付いて行くとか出来ない?」

駿河「無理っすー!俺が死ぬー!…さっきどんだけ操船が大変だったと思って」

カルロス「視界ゼロで突風祭りだぞ、いくら人型探知機でも限界がある!疲れて上総の探知に気づかなかった位だ!畜生、私とした事がー!」

駿河「とりあえず疲れたんでどっか着陸して休みませんか…。」

カルロス「そうだそうしよう。悔しいから黒船の上を通って行こう、上昇して1時寄り!何なら真正面に突っ込んでやるか!」

駿河「もし黒船に正面衝突したら損害賠償、貴方払って下さいね。」

カルロス「総司に払わせろ。」

駿河「何でだ!」

護「等級8、行きたかったぁー!」

駿河「マジで死ぬ気なら行きますよ!」

カルロス「カルセドニー遭難事件勃発だな!誰が助けに来るんだろうか!」

駿河「貴方が黒船にSOS波をブッ飛ばせばいいんですよ。…はぁ、疲れた…。」と溜息をつく。

カルロス「すると総司に救助料金を請求されるのか…。あいつしっかりしてるから。」

駿河「多分、小型の癖に無謀なとこに突っ込んで行ったバカは誰だと怒られる。」

カルロス「ジャスパー側の基準では中型だけどな!」

駿河「それ言ったら黒船もジャスパーでは中型船ですよ。ウチは中型3級航空船、黒船は中型2級航空船。でも3級と2級の間には天と地の差が!さっきのとこ黒船なら多分楽勝…。」

カルロス「誰だよ3級とか2級とか紛らわしい分け方したのは。流石は天下の航空管理」

護「あのー!ところでさ、黒船との通信切った?」

駿河「!」驚愕

カルロス「!!」驚愕

駿河「切っ…て、ねぇわ…。」

暫しの沈黙。


黒船のブリッジでは、その場の全員が腹を抱えて爆笑していた。

スピーカーからカルロスの声が流れて来る。

カルロス『さっきのは冗談です、許して下さい総司船長!申し訳ありませんでした!』

総司、涙目で笑いながら手に持った受話器に「…爆笑しすぎて涙出て来た…。」と言うと「ちなみに、ブリッジにスピーカーで音声出してるから、皆が聞いた…。」

カルロス『なんだとぉ!…上総もマリアさんも穣もジェッソも静流君も、聞いたのかぁぁ』

船長席の隣に居る穣、笑いつつ「アンバーにも流したい、この音声…。」

総司「…とりあえず、休憩するなら付き合いますよ。黒船とアンバー、ここで停止してそちらを待ちます。」

カルロス『すまんー!申し訳なかったー!疲れるとアホな事を言いだす!』

駿河『とりあえず黒船の上に停止します…って探知機さん大丈夫?』

カルロス『ナビは大丈夫だ、このままで全く問題ない。アホな事を言ってても正常稼働してます。』

駿河『ってそう言えば既にレーダーに出てるんだった!』

カルロス『大丈夫かこの船長…。』

駿河『だってずっとカルさんのナビ聞いてたから!もうなんかダメだこの船、一旦休まないと!』

カルロス『…頼む、もう通信切ってくれ…。』

駿河『ではまた連絡します。』と言い通信が切れる。

総司、笑いながら溜息ついて涙目を拭い「面白すぎる…。」

ジェッソも笑いまくりながら「…面白すぎる…!」

穣、笑い涙を拭いつつ「意外すぎる…。」



船体の安定を取り戻して真っ白な雲海を飛んでいるカルセドニーは、徐々に速度を落とす。

カルロス、項垂れて「…恥を掻いた…。」

護「カルさんハイテンションだなーって思って見てた。相当お疲れかな?」

カルロス「まぁなぁ…。」と言って溜息をつく。

護「じゃあ今日はここまでにしようか。もうすぐ夕方になるし。」

カルロス「…そうだな…。近場に6は無いし、遠出するには駿河が疲れてダメだろ。」

駿河「うん。ちょっと集中力が。」

カルロス「選考採掘は明日の朝8時までだ。早寝早起きで早朝に採るチャンスがある。」

駿河「8時に石置き場の上空にいればいいんだよね。」

カルロス「そう。…休憩したら等級7を探知するから、夜にノンビリ現場に移動して、採掘権を取って寝て、早起きして採掘して、8時までに石置き場へ。…どうかな?」と護を見る。

護「いいよ。」

駿河「それで行こう。」

カルロス「さてそろそろ黒船の前…、だが。」と言ってから「もうここで、停止だ。」

駿河「はい。」

カルロス「雲海切りした方が早い。切って来る。」と言ってブリッジから出て行く。

護「いてら。」


ブリッジを出て搭乗口に来たカルロスは、右手に黒石剣を持ち、ドアを開けて、左手で手すりに掴まりつつ右半身を外に出すと、進行方向に向かってバッと黒石剣を振って雲海を切る。途端に雲海が一気に晴れて午後の太陽の日差しが、前方の空に浮かぶ黒船と、その右横に並ぶアンバーを照らし出す。カルロスは船内に入ってドアを閉じ、ブリッジに戻ると「黒船の上へ。」

駿河「ほい。…しかし…。」と言って「休憩に付き合うって、ここで停まってどうすんだ…。」

護「相手に聞いてみたら。」

カルセドニーは黒船の船体の上に来ると、停止する。

駿河「通信しますよ。」と言って黒船に呼び出しを掛ける。するとすぐに応答が返って来る。

総司『はいオブシディアンです。』

駿河「正式名で来たな…。これからどうする?」

総司『…もし良ければ、黒船に一緒に乗って等級8を採りませんか。』

駿河達「!」

護「…黒船に乗るの?!」

駿河「流石にそれはちょっと…。だって例えばもし柱が1本だけとかなら、ウチの船の成果が無くなる。」

総司『先程、護さんが等級8を採ってみたいと言っていたので、成果はともかく8を採る経験をするいいチャンスかと。今日は最終日だし、時間的に最後の現場になりますから。』

駿河「…一理はある。」

護「んー…。」と言って「でもな…既に合格圏には入ってるけど、勝てる確証無いしな…。他船が頑張ってたら抜かれるかもしれないし、最後まで出来るだけ確実に成果を増やしておきたい。」

駿河「採れないかもしれないっていう危ない賭けはしたくないよな。そもそもこれから8採りに行くのは」

総司『何なら明日の早朝に採るという手が。』

駿河「いやウチの船、そうする予定なんだよ。確実に採れるとこを探知して、夜に移動して採掘権取っといて早朝採掘。だから8に行くなら今しかないけど」

総司『…まぁ、護さん次第です。8を採る経験をしたいか、それとも確実な合格を狙うか。』

護「…皆と8採りしたい気持ちはあるけど、でも今は…。」

そこへカルロスが「ちょっと待て。探知したら、そこ7の柱がいくつかあるぞ。」

護&駿河「え。」

カルロス「勿論8もあるが7もある。護が普通にやれば、失敗したとしても6は確実。…お前、一週間マジで頑張って来たんだから最後に8に挑戦しろ!失敗しても7の保険があるとこだ、やるしかないだろ。」

護「うむ!」

カルロス「一週間、散々人をこき使いやがってー!こんなボロボロになるまで私をこき使ったんだから、最後に全力で、何が何でもキッチリ8を採りやがれ!」

護「承知しました!」

駿河「決まった!」

カルロス「って事で疲れた、私に石茶を飲ーまーせーろー!」

護「カル様、黒船と通信が繋がってます!」

カルロス「知ってる!私はもう今日は探知しないから黒船にくっついて行け!私は石茶だ!」と言いブリッジを出て行く。

駿河「了解です!」

護「石茶ごゆっくりー!」

駿河「…という訳で、明日の早朝、8採りに参加します。」

総司『じゃあこの辺に着陸しましょう。休憩後に今後の予定を相談します。』

駿河「着陸したら黒船に行くのでタラップ降ろして下さい。」