第22章 01
午後5時過ぎ。
カルセドニーの船長部屋のベッドでは、護がスヤスヤと寝ている。
キッチンフロアではカルロスが椅子に座って本を読みつつ石茶を飲んでいて、その上のロフトには駿河が横になってゴロゴロしている。
駿河、仰向けで横になったまま「カルさん今、何時?」
カルロス「ん。」と時計を見て「17時過ぎたな。」
駿河「夕飯どうする?」
カルロス「街で食うか。…17時半になったら護を起こそう。しかしあいつ、さっきシトリンの連中が来て五月蠅くしてたのに全く起きないし。よっぽど疲れたんだな。」
駿河「街でメシ食ったらターさんの家に戻りますかね。」
カルロス「そうだな。…特に他船からの連絡も無いし。」
駿河「せっかく5隻揃ってるし、何か相談でもするのかと思ったら特に何も無かった。」と言って身体の向きを変え、四つん這いになって、ロフトに掛けられた梯子の所まで後退し、ゆっくりと梯子を降りると、うーんと伸びをする。
カルロスは「そろそろ片付けるか」と言ってマグカップを持って流しに立つ。それから「おや?」と怪訝そうな顔をして「非常に珍しい人が来るぞ。」
駿河「え? 誰?」
カルロス「もう少しすると分かる。」と言いつつマグカップを洗い始める。
駿河「…誰なんだろ。」とキッチンフロアを出て搭乗口デッキへ。そのまま待っていると、やがて扉の外に人の気配が近づいて来て、ドアがコンコンと叩かれる。
駿河が搭乗口のドアを開けて「はい。」と外を見ると、何かを入れた手提げ袋を持ったメリッサとシトロネラが立っていた。
メリッサ「やっほー!」
シトロネラ「こんちはー!」
駿河ちょっと驚いて「…珍しいな…。」
メリッサ、手提げ袋を見せて「レンチン弁当持ってきた!」
シトロネラ「ジュリアが持って行けって。」
駿河「ええ。」と驚いて「…中、入る?」
メリッサ「入っていいなら中、見たい!」
駿河「どぞ。」と言い二人を中に招き入れる。
メリッサ「お邪魔しまーす。」
シトロネラ「お邪魔!…こっちブリッジね。」と言いブリッジの中に入って「狭っ!」
メリッサもブリッジに入って来ると「ちっさ!」
駿河「そりゃー黒船に比べたらね…。」と言い搭乗口デッキに戻ると、通路の左側の閉じられた扉を指差し「ここ船長部屋だけど、今は護さんが寝てる。」
メリッサ「あらお昼寝中?」
シトロネラ「じゃあ静かにしないね!」
駿河「しないんか。…こっちキッチン。」と通路を進む。
メリッサはキッチンを見た途端「ちっさ!こんなとこで料理してんの?」
シトロネラ「でもワンルームのキッチンってこんなじゃない?」
メリッサ「え、ワンルームのより狭くない?」と言うとカルロスに「どーも!カルロスさん!」
カルロス「…慣れれば問題ないし、冷蔵庫が結構デカいから、良い」
メリッサ、カルロスに手提げの中を見せて「ジュリアのレンチン弁当持ってきたよー!」
カルロス、それを受けとって「ありがとう。これから夕飯を食べに街に行こうかと思っていた。」と言いつつ小さな四角いテーブルの上にそれを置く。
シトロネラ「じゃあ外食代浮いたね!」
メリッサ「ちなみにその弁当、明日の朝まで大丈夫だから、もし夕飯に要らなかったら明日の朝にって。」
カルロス「そう言えば昨晩頂いた弁当のパックまだ返してなかった。」と言いロフト下の壁のフックに掛けてある四角い何かが入った手提げ袋を降ろすと、メリッサに渡して「ジュリアさんに、美味しかったと伝えてくれ。」
メリッサ「はーい。」
シトロネラ「ねぇ良かったら機関室見たい!エンジン見せて!」
メリッサ「さーっすが機関士」
駿河「はいはい。こっちです。」と貨物室へと歩いて行く。
駿河を先頭にメリッサとシトロネラが貨物室に入り、カルロスも貨物室へ行くかと歩きかけたその時。
背後から護の「誰が来てるの?」という声。
カルロスは振り向き、護に「黒船のメリッサとシトロネラさんが、ジュリアさんのレンチン弁当を持って来てくれた。」
護「じゃあ今日のメシはそれ?」
カルロス「うん。で、弁当頂いたし今日はもうターさんの家に戻ろうかと。」
護「ほい。」
カルロス「明日の午前中は、黒船とアンバーはフリーで、3隻はイェソド鉱石採掘。今度はあの3隻が黒船とアンバーとウチの船の分まで鉱石を採るそうで、さっきコンテナをシトリンが全部持って行ったぞ。」
護「えっ?…いつ?」
カルロス「だってガタゴト五月蠅く作業しててもお前全く起きないからほっといた。」
護「なんですと…。」
カルロス「で、明日、ウチの船は適当な時間にこの駐機場に来て、黒船アンバーと一緒に遺跡に行き3隻と合流して鉱石を積み替える。5隻はそのままジャスパーだがウチの船はターさんの家に戻りだ。…一緒に戻ると、仮に5隻が管理とゴタゴタした場合に巻き込まれそうなので!一週間忙しかったし、明日はゆっくりしたい。」
護「うん。」
そこへメリッサが貨物室から出て来ると護を見て「あら、おっはよー!」
護「おはようさん。」
メリッサ「機関士と操縦士がエンジンに出会うと謎の会話が発生するわね…。」
するとメリッサの背後からシトロネラが「だって本職だもん。あ、護君お目覚め?」
護「はい。」
シトロネラ「大死然採掘頑張ってね!そしていつかキミの家を建てるのだ!」
護「はい!」
駿河「…ちなみに黒船のこれからのご予定は?」
メリッサ「特に何もなーし。船長まだ戻って来ないし。」
護「え。どこへ行ったの?」
メリッサ「なんか仕事を取りに行ったんだって。有翼種の石屋から3隻に取引許可が出て、じゃあ皆で新しい仕事するかーみたいな?」
駿河&護「へぇ!」
メリッサ「まぁ夕飯食べて、船長が戻って来たらその話して、あとは寝るだけ。」
シトロネラ「だって今朝早かったし!」
メリッサ「明日の午前はフリーだから、私達は街でお買い物!」
シトロネラ「だって沢山稼いだし!…カルセドニーのご予定は?」
駿河が「んー…。」と悩む
するとカルロスが「もうターさんの家に帰ります。明日は気が向いた時間にここに来ます。」
シトロネラ「了解!…じゃあそろそろ帰ろっか!」とメリッサを見る。
メリッサ「うん。」
二人は通路を歩いて搭乗口から外に出ると、見送りの護たち三人に向かって手を振る。
シトロネラ「じゃあねー!」
そこへ突然、駿河が「ちょっと待った!」と言うと「…明日…、どうしようかな。んー…。」と悩む。
メリッサ「なになに?」
駿河「場所を…指定したらいいのか。…でもなぁ…まぁ、いいか…。」
カルロス「何なんだ一体。」
駿河「…もし総司君が良ければ、ちょいとどっかで二人で茶でも飲むかと思ったんだけど。迷惑かねぇ…。」
一同「…。」
シトロネラ「…ちょっと何その、乙女心満載な悩み…。」
メリッサ「怪しい関係かと思ってしまった。」
駿河「何でだ!」
護「カルさんが、すんごい爆笑してますけど。」
駿河「なんか相当大変だったみたいだから、ちょっと元気付けようかと思うんだよ!」
メリッサ「大丈夫だと思うけどねぇ。…まぁお茶したいならすれば? 迷惑って事は無いと思うよ。」
シトロネラ「待ち合わせに、どっか分かり易いとこ無いの?」
カルロス「…選考採掘本部の通路を真っ直ぐ行くと、左に市場、右にいくつか店がある通りに出る。その中に『クォーツ』という名の石茶カフェがあるからそこはどうだ。」
護「絶対通る所だから、絶対分かるよ。カフェそこしか無いし。市場の先に行くと飲食店色々あるけど。」
カルロス「それにどうせ皆、石茶カフェ行かないだろ? 二人でゆっくりできると思う。」
メリッサ「そこに何時にする?」
カルロス「…9時半とか?」
駿河「…じゃあそうしよう。総司君に伝えてくれるかな?」
シトロネラ「おっけー!ではでは」と手を振る。
メリッサ「お邪魔しまっしたー!」
楽し気に走り去る女性二人を見つつ、カルロスがボソっと「元気だなぁ。」
駿河「我々も帰りましょう、お家に。」
カルロス、ちょっと駿河を見ると、なぜか笑い出す。
駿河「何で笑うんですか!」
カルロス、苦笑しながら「何を悩んでいるかと思えば…。全く…。」
駿河「笑わんで下さい!」
カルロス「…総司、喜ぶと思うぞ。」
駿河「…そうかね…。」
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