第19章 04
一方その頃、アンバーの貨物室では、黒船からアンバーへ運び込まれた源泉石柱を見て護が唸っていた。
護「これ先端部分だけ残ったのかー…。下が砕けてしまって」と言いつつ屈んで石柱を触りながら「惜しい惜しい。」
すると悠斗が「何が惜しいの?」
護「これ上物の等級8だよ多分。9に近い8って奴。」
その言葉に、近くに居たアンバーメンバー達が衝撃を受ける。
悠斗「なっ、な、ん、だ、と?」
マゼンタ「なんですと?」
護「前に石屋で見た事ある。水晶みたいに澄んでて光がポワッと広がるように光ってて、触ると若干弾かれる感じがある。…これだ。」と柱を撫でつつ言う。
そこへジェッソ達がコンテナを載せた台車を押してやって来ると「これで最後だ。」
悠斗、ジェッソに「あれ9だって!」
護「いや9じゃないよ、8だけど上物のレベルの高い8かなぁって。ただ下が砕けたから等級落ちすると思う。あくまで個人的推測だけど。」と言い、腰のポーチからイェソド鉱石の欠片を出すと、石柱をコンコンと叩いて「おや。随分と繊細な。」
ジェッソ「じゃあこっちのコンテナの中のは等級いくつだ?」と言って一番上のコンテナを降ろすと蓋を開ける。
護は中の源泉石の欠片を手に取り「6かな。多分ね」
ジェッソ達「!」ショックを受ける。
レンブラント「やっぱ筋肉勝負はダメだったかー!」
護「筋肉だったのか…。」と言いつつ鉱石で源泉石の欠片を叩いて「え!こんな硬くて強ぇの、筋力で採ったんか!…どんな筋力…。」呆れる。
レンブラント、護の持つ鉱石を指差し「それで、何してんの?」
悠斗も「鉱石で叩くと何か分かるの?」
護「うん。俺が独自に編み出した源泉石を採る方法。鉱石で源泉石を叩いて、鉱石が割れたら、割れた時の力加減でその源泉石を斧とかで叩くと、上手く切ったり崩せるっていう。」
ジェッソ達「へぇ!」
護「だんだん慣れて来ると鉱石でちょっと叩いただけで、その源泉石がどんな性質か分かるようになる。」
ジェッソ「ちとまて。それやってみよう!」
悠斗「ってまずコンテナちゃんと積んで!お片付けが先!」
ジェッソ慌てて「あぁはいはい。」
暫く後…。
カルセドニーからカルロスが出て来ると、テクテクと黒船のタラップを上がって船内に入り、食堂へ。
中に入ると上総とマリアがいる。その奥のキッチンではジュリアが夕飯を作っている。
上総、カルロスを見て「石茶タイムは終わったんですか。」
カルロス「護も駿河もサッパリ帰って来ないから、どうなったのかと思って。」と言いつつ上総とマリアの正面の椅子に腰かける。
上総「明日の朝は4時出発です。」
カルロス「まぁそんな感じになるとは思っていた。」
そこへキッチンからジュリアが「カルロスさん、黒船でご飯一緒に食べるなら3人分追加で作りますけど。」
カルロス「えっ、でも食材が」
ジュリア「大丈夫、何とか出来ますよ。ちなみにカルセドニーでは、いつもどんなご飯を食べてるんですか?」
カルロス「普段はキチンとしたものを作りますが、この選考始まって一週間は、殆どメシと味噌汁に野菜って感じで。キュウリかトマトかキャベツという。」
マリア「生で食べられますしね…。」
ジュリア「じゃあぜひ黒船で食べて行って下さい。」
カルロス「待った。護はアンバーで食った方が、黒船が2人分で済む!」
上総「細かい…。」
ジュリア「気にしなくても」
カルロス「というか護がアンバーに行ってるので、お前どっちで食うんだと本人に聞いてきます。」と言って立ち上がると「ついでに駿河にも聞いて来る。」と言いつつ食堂を出る。
食堂を出たカルロスは船長室へ向かい、ドアをコンコンとノックして「駿河ー。」
少しするとドアがちょっと開いて駿河が顔を出す。
カルロス「ジュリアさんが黒船で夕飯どうですかと言ってる。お前、食うよな?」
駿河「うん。」
カルロス「確認しに来ただけだ。護はアンバーに居るからどっちの船で食うのか聞いてくる。」と言ってその場から離れ、中央階段の方へ。
カルロスは黒船から出て、アンバーのタラップを上がり、採掘準備室から貨物室に入る。
すると2隻の採掘メンバー達が、鉱石で源泉石をコンコン叩いていた。
カルロス、床に座って昴に何かをレクチャーしている護に「まもーる!」
護「あ、カルさん。」
カルロス「ジュリアさんが夕飯どうですかって言ってるがお前どーする。」
護「あー…。黒船に食材3人分は申し訳ないな」と言って穣を見て「穣さーん!」
穣「ええよ、ウチで夕飯食えって。」
護、カルロスに「アンバーにお世話になる。食堂行って、アキさんにお願いして来よう。」と立ち上がる。
穣、護に「いや俺、伝えて来るよ。お前は教えてて。」
護「お願いします。」と再び昴の隣に座って何かをレクチャーし始める。
カルロスはアンバーを出て黒船に戻ると、食堂に入ってジュリアに「2人分でいいですよジュリアさん。護はアンバーで食べるので。」
ジュリア「はい。」
カルロスは再びマリアと上総の正面の椅子に座り「あいつ今夜はずっとアンバーだな。」と言い「私はとっとと寝よう。」
マリア「カルセドニーで寝るんですか?」
上総「船長部屋しかないって聞いたけど。」
カルロス「選考中、家に戻れない時の為に色々準備してある。護は貨物室の空いたとこ、私は狭いロフトみたいなとこに、毛布にくるまって寝る。船にシャワーがあるんで風呂はそれ。着替えもある。」
マリア「なるほど。」
その頃、所変わってブルー、レッド、シトリンの3隻は、ケセドの石置き場で積み荷を降ろしていた。
レッドでは、担当の有翼種ロイがタブレット端末でチェックをしつつ、周囲のレッドメンバー達に「随分採って来たなぁ。君達ほんと上達が速いよ。」
ウィンザー、嬉しそうに「有翼種の方にアドバイス頂いたので。」
ロイ「ブルートパーズか。でも教えられる事は限られてるし、どんなに教えてもヤル気がない奴もいる。…君らが上達すると俺も嬉しい。」
そこへ、レッドの積み荷を大型台車に積んでいた有翼種達が「これ、運びます。」と言って台車を集積所へ押し運び始める。
ロイ「今日はまだ空いてるから30分後には報酬を渡せるよ。では、お疲れさん」と言ってちょっと手を振ると台車を追って去って行く。
サイタン、とっととタラップを上がりつつ「よしメシだメシ!」
ウィンザーは皆と一緒にタラップを上がりながら「もう18時だもんな。」
クラリセージ「でもあんまり他船居ないね、最終日なのに。」
バーントシェンナ「選考って明日の朝8時までだから、他の人はまだ粘ってるとか。」
ウィンザー「多分ね。」
輪太「夜も採るの?」
ウィンザー「…んー、やる船はやると思う。」
クラリセージ「黒船とかはやってんじゃない?」
輪太「凄いなー。」
ウィンザー「さてと、ご飯食べますか。」
一同はタラップを上がり船内に入って行く。
30分後。
駐機場に停まっているブルー、レッド、シトリンの各船のタラップが降りて、各船から2人ずつ、人が出て来ると、駐機場の出入り口に向かって歩きつつ、お互いに気づいて声を上げる。
楓「あら。」
陸「ブルーとレッドが。」
武藤「なんつータイミング…。」
南部「偶然一緒ですか。」
一同は出入り口方面に歩きつつ、合流する。
武藤「なんかこの3隻、仲良し過ぎでは。」
春日「全くだなー。」
陸「前はライバルだったような気がするけど…。」
楓「…春日さんは、どうして来たの?」
春日「ウチの監督がメシ食いたいというので、本部に付いて行きたい希望者募ってじゃんけんしたら、勝ちました。」
武藤「なるほ。」
楓と陸、武藤と満、南部と春日は駐機場から出て本部へと歩く。
春日「最終日の割には何か静かだな、他船の皆さん、明日の朝まで粘ってんのね。」
武藤「そりゃー本気でガチ勝負してる人々は最後まで粘るわなぁ。」
陸「夜間採掘とかするのかな。ウチの船やった事ないけど。」
満「…ウチも無いが。」
南部「ウチもありません。夜間に現場に移動して早朝採掘ならあります。」
満「それはある。」
陸「ってか普通はそれですよね。」
武藤「…黒船は昔、夜間採掘してたらしい。ティム船長時代に。」
南部「知ってます。ティム船長本人から聞きました。」
陸「すげー…。流石…。」
南部「流石に夜間は、相当ベテランが揃ってないと危険で恐いですよ…。」
一同は本部の中に入ると、3人の船長が並んでカウンターに立つ。
武藤「D3ブルーアゲートです。」カメラを出す。
南部「D4レッドコーラルです。」カメラを出す。
楓「D5シトリンです。お願いします。」カメラを出す。
すると受付の有翼種が思わず笑って「見事に揃って来ましたね!」
楓「最終日ですから。」
南部「…三原色揃って来ました。」
武藤、思わず南部を見る。(…冗談言うようになった…!)
受付の有翼種は笑いつつ「では、お待ち下さいね。」と言ってカメラを受け取って作業を始める。
武藤「…なんか混ぜると緑になるんだっけかー。」
楓「黄色と青をね…。あと『光の三原色』だとRGBで黄色じゃなくて緑なんだけど。」
武藤「じゃあ次は緑の採掘船だな。」
楓「緑だと船名はジェダイトかな。またはエメラルド!」
武藤「なんか高貴な船になりそう…。」
その間に春日達3人はカウンター端のモニターの所へ行き、結果を見ている。
満「くっ!…あと一歩でレッドに及ばん!」
春日「いいじゃないですか、3隻共闘してんだし。」
陸「ウチの船やっぱり最下位…。全ての船の中で一番下っていう…」
満、陸に「共闘なのだから気にする事はない!」
春日「黒船とアンバーは僅差だねぇ…。まだ戻ってないから激闘中か。この二隻は頑張れば何とか合格できそうではあるけど、他船も追い上げるだろうしなぁ。」
そこへ武藤が「カルセドニーどうなってる?」
春日「小型船の方を見よう。…これ、タッチすんのか。」と画面を切り替えて「カルセドニー…あった、うぉ…!」
陸「合格圏ギリギリ!」
武藤「おお?」
春日「ただこの合格ライン周辺にいる船、似たり寄ったりだから、何かしら突き抜けないと合格は…運次第だな…。」
すると受付の有翼種が「カルセドニーは最初低迷してて、だんだん加速して後半そこまで追い上げたから、突き抜けられる可能性は高いです。他船は最初から大体一定のレベルのを積み上げて、その状態なので。」
春日「ほぉ…。」
有翼種「だって初回参加の新人なのに、7の柱を採って来たんですよ!」
陸「えぇ!」
満「なんですと?…あの船には護しか居ない筈だが。」
有翼種「だから皆驚いて、噂になってる。…あっ、報酬出すのでちょっとお待ちを」と仕事に戻る。
満「7を、一体どうやって…。」
武藤「…駿河とカルロスさんが怪力に目覚めたとか…。」
受付の有翼種は仕事をしながら「でも三原色の皆さんも凄いんですよ。最初、途中参加だし、心配だったんです。…詳しい事情は知りませんが、聞けば人間側の方で何か大変な事があったとか?…死然雲海にも慣れてないのに、そんな色んなハードルがあっても選考採掘に参加するんだから、これは応援しないとね…。」と言って、カウンターの上に報酬の封筒を3つ出すと「こちらがD3の青の船の分、こちらがD4の赤の船の分、そしてD5の黄色い船の分です。」
各船の船長それぞれ、封筒を受け取り、中を確認する。
受付の有翼種「短期間で本当によくこんなに頑張りましたね!そのうちケセドの街に入れるようになったら、そのお金でぜひ、色々楽しんで下さいね。」
武藤、ちょっと唖然として「…は、はぁ。」
楓「…ありがとうございます。」
南部も面食らったように「ありがとう、ございます。」と言ってから「…正直その、実は、…途中参加ですし、ダメかもと」
すると有翼種が「何を言ってるんですか、初参加で雲海慣れしてないのにこんなに出来たら凄い事ですよ!胸張って、自信持って下さい、船長!」
南部「は、はい。」と言うと「ありがとうございます。」
武藤「…じゃあ、戻る?」
楓「戻りましょうか。」と言うと受付の有翼種に「では…。」
有翼種「あ、まだケセドに居て下さいね。最終結果発表が終わるまでは、人間側の世界に戻っちゃダメですよ。」
楓「はい。」
一同は本部から出ると、駐機場へ向かって歩き出す。
武藤「…驚いた。どっかのジャスパーとかいう所の本部とは真逆やん。」
楓「うん、ビックリした…。」
春日、溜息ついて「…どっかの本部がおかしいんですよ。」
武藤「んだなぁ…。」
陸「…もしかして、ブルートパーズって、心配してわざわざアドバイスしに来てくれたのかな。ターメリックさん達…。」
満「そうだったのかもしれんな…。」
武藤「…ブルー仲間だしなぁ」
満「…。」
南部、感慨深げに「…途中参加なんて相手にされないと思っていた…。心配していたとは…。応援していたとは…。」
春日「だからどっかの本部とか管理が変なんですよ。」
楓「…これから、どうします?」
武藤「んー…。まぁ今後の事は、黒船とアンバーが戻って来てからだなー…。」
陸「いつ戻って来るのかな。やっぱ明日の朝8時ギリギリ?」
春日「ガチ勝負してるならそうなると思う。」
南部「皆で、出迎えませんか。」
武藤&楓「えっ?」と南部を見る。
南部「駐機場に戻って来た所を、全員で出迎える。」
春日「いいですね!」
陸「うん。」
満「うむ。」
武藤、若干驚いた顔で南部を見て「…アンタも変わったなー…。」
楓「やりましょう!」
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